よむ、つかう、まなぶ。

MC plus(エムシープラス)は、診療報酬・介護報酬改定関連のニュース、

資料、研修などをパッケージした総合メディアです。


望ましい地域環境により介護費用が抑制できる可能性 (2 ページ)

公開元URL https://www.chiba-u.jp/news/research-collab/_1367.html
出典情報 望ましい地域環境により介護費用が抑制できる可能性(4/12)《千葉大学》
低解像度画像をダウンロード

資料テキストはコンピュータによる自動処理で生成されており、完全に資料と一致しない場合があります。
テキストをコピーしてご利用いただく際は資料と付け合わせてご確認ください。

■研究の背景
高齢化の進展により要支援・要介護認定者数は増加し、2021年度から「介護費11兆円時代」に突入し
ました。健康長寿社会の実現と社会保障の持続可能性の確保に向けて、国や自治体、個人が負担する介護
費用の適正化が求められています。地域の環境が高齢者の健康に影響を及ぼす先行研究として、都市部
において緑が多い地域に居住する高齢者にはうつが少ない、生鮮食料品店の多い地域では、野菜・果物な
どの摂取頻度が高く、要介護認定が少ないなど、様々な知見が蓄積されてきています。しかし、こうした
望ましい地域環境に居住する高齢者でその後の介護費用が抑えられるか、という課題は未検討でした。
そこで本研究では、地域の環境と約9年間の介護費用との関連を検証しました。
■対象と方法
研究には日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)のデータを用いまし
た。対象者は、2010年から2019年の介護レセプトデータを結合可能な7市町(岩沼市、柏市、中央市、
名古屋市、碧南市、常滑市、武豊町)に居住し、2010年に日常生活動作が自立していた高齢者34,982人
(男性16,650人、女性18,332人、平均年齢73.5歳)としました。
分析は、8種類の地域環境が自宅周辺(1キロメートル以内)にあると回答した者とないと回答した者
について、その後約9年間の追跡期間中の累積介護総費用(円/人月)を比較しました。8種類の地域環
境は、先行研究に基づき、①運動や散歩に適した公園や歩道 ②魅力的な景色や建物 ③新鮮な野菜や果
物が手に入る商店・施設 ④気軽に立ち寄ることができる家や施設 ⑤坂や段差など、歩くのが大変なと
ころ ⑥交通事故の危険が多い道路や交差点 ⑦夜の一人歩きが危ない場所 ⑧落書きやゴミの放置が目
立つところとし、「たくさんある、ある程度ある、あまりない、まったくない、わからない」の5つの選
択肢の回答を得ました。「たくさんある、ある程度ある」を「あり」、「あまりない、まったくない」を
「なし」、「わからない」を欠損値として多重代入法注1)で「あり」か「なし」に分類しました。
研究開始時の2010年時点の性別、年齢、等価所得、教育歴、婚姻状況、同居の有無、居住年数、うつ、
主観的健康状態、高次生活機能(電車やバスでの外出、自分で食事が用意できるなど13項目)、受診状
況、車使用の有無、外出頻度、歩行時間、人口密度、日照時間、降雪量の影響を統計学的に考慮しました。
■結果
追跡期間中に21.6%の高齢者が介護保険サービスを利用しました。8種類の地域環境のうち、3種類の
地域環境で介護費用との統計学的に有意な関連注2)がみられました。生鮮食料品店が近くにあると回答し
た者は、近くにないと回答した者と比べて介護費用がひとり当たり月1,367円低い結果でした。一方で、
予想と反し、夜歩くのが危ない場所があると回答した者では、ないと回答した者と比べて介護費用が月
1,383円低く、立ち寄りやすい施設があると回答した者は、ないと回答した者と比べて介護費用が月739
円高い結果でした。
■考察
先行研究により、生鮮食料品店へアクセスしやすい高齢者は、野菜や果物、肉や魚などの摂取頻度が多
いことが示されています。また、生鮮食料品店に近いと認知症リスクも、要介護認定リスクも低いと報告
されています。このように生鮮食料品店の健康への良い影響が重なり、介護費用の低さに繋がった可能
性があります。一方、想定していた仮説とは逆に、夜歩くのが危ない場所が多いと回答した高齢者は介護
費用が低いという結果でした。本調査の夜歩くのが危ない場所が多い地域には、駅周辺の地域が多く含
まれていました。公共交通の利用しやすさなど、生活の利便性の高さが介護費用の低さに繋がった可能
性があります。
気軽に立ち寄れる家や施設があることは健康へ望ましい影響を持ち、介護費用の低さに繋がるという
仮説がありましたが、逆にこうした地域は介護費用の高さに関連していました。立ち寄れる家や施設は
-2-