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感染症週報 2022年第42週(10月17日-10月23日) (8 ページ)
出典
公開元URL | https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2022.html |
出典情報 | 感染症週報 2022年第42週(10月17日-10月23日)(11/7)《国立感染症研究所》 |
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Infectious Diseases Weekly Report Japan
2022年 第42週
(10月17日〜 10月23日)
:通巻第24巻 第42号
注目すべき感染症
◆梅毒
梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum subspecies pallidum:T. pallidum )による細
菌性の性感染症で、世界中にみられる。
梅毒は、患者数が多いこと、比較的安価な診断法があること、ペニシリン等治療に有効な抗
菌薬があること、また感染した妊婦への適切な抗菌薬治療により母子感染の防止に繋がること
などから公衆衛生上重点的に対策をすべき疾患として位置付けられている。
T. pallidum が粘膜や皮膚に侵入すると、典型的には数週間後に侵入箇所に初期硬結や硬性
下疳がみられ(I期顕症梅毒)、いずれも無痛性であることが多い。その後数週間〜数カ月間経
過するとT. pallidum が血行性に全身へ移行し、典型例では全身の皮膚や粘膜に発疹を生ずる
が、その他にも肝臓、腎臓など全身の臓器に様々な症状を呈することがある(II期顕症梅毒)。
発疹は多岐にわたり、丘疹性梅毒疹、梅毒性乾癬、バラ疹などが高い頻度で認められる。これ
らI期とII期の梅毒を早期顕症梅毒と呼ぶ。無治療であっても、多くの場合、I期の症状は数週
間で、II期の皮膚粘膜病変は数週間〜数カ月で消退する。無治療の場合、感染後数年〜数十
年後に、ゴム腫、心血管症状、進行麻痺、脊髄癆など晩期顕症梅毒を引き起こすことがある。
なお、神経梅毒はどの病期でも起こりうる。また、梅毒が治癒しても、再度罹患する可能性が
ある。
妊婦がT. pallidum に感染するとT. pallidum は胎盤を通じて胎児に感染し、流産、死産、先天
梅毒を起こす可能性がある。先天梅毒には、生後まもなく皮膚病変、肝脾腫、骨軟骨炎などを
認める早期先天梅毒と、乳幼児期は症状を示さず、学童期以降にHutchinson 3徴候(実質性
角膜炎、感音性難聴、Hutchinson歯)
を呈する晩期先天梅毒がある。
T. pallidum は試験管内では培養ができないため、顕微鏡観察による病変由来検体中の菌体の
確認、血清中の菌体抗原およびカルジオリピンに対する抗体の検出、PCR 検査等による T.
pallidum 遺伝子の検出等で梅毒と診断する。
治療にはペニシリン系抗菌薬が有効であり、国内では日本性感染症学会によりアモキシシリ
ンの経口投与や、神経梅毒に対してはベンジルペニシリンカリウム点滴静注による治療が推奨
されている。また2021年9月には、梅毒の世界的な標準治療薬であるベンジルペニシリンベンザ
チン筋注製剤の国内での製造販売が承認された。
梅毒は1999年より感染症法に基づく感染症発生動向調査における全数把握対象疾患の5類
感染症に定められ、診断した医師は7日以内に管轄の保健所に届け出ることが義務づけられて
いる。2019年1月1日から届出様式が変更され、妊娠の有無、直近6カ月以内の性風俗産業の
従事歴及び利用歴の有無等が届出内容に含まれた。梅毒患者報告数は1948年以降、小流行を
認めながら全体として減少傾向であったが、2011年頃から増加が続いており、2018年には
7,000例近くの症例が報告された。その後2019〜2020年にかけて一旦減少したが、2021年以降
再度増加に転じている。
2022年第1〜42週(2022年1月3日〜10月23日、2022年10月26日週報集計時点)に診断され
た症例報告数は10,141例であり、感染症法が施行された1999年以来初めて10,000例を上回っ
た(図1)。これは感染症法施行以降、年間報告数が過去最多であった2021年の同期間における
報告数6,031例(2021年10月27日週報集計時点)と比較しても、約1.7倍と高い水準であった。
男性は6,704例、女性は3,436例で、男女共に昨年同期間(男性4,006例、女性2,025例)から約
1.7倍に増加していた。なお、性別が不明の症例数は男女別の集計に含まれないため合計値が
一致しないことがある。また、当該週に診断された症例の報告が集計の期日後に届くことがあ
Ministry of Health, Labour and Welfare / National Institute of Infectious Diseases
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2022年 第42週
(10月17日〜 10月23日)
:通巻第24巻 第42号
注目すべき感染症
◆梅毒
梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum subspecies pallidum:T. pallidum )による細
菌性の性感染症で、世界中にみられる。
梅毒は、患者数が多いこと、比較的安価な診断法があること、ペニシリン等治療に有効な抗
菌薬があること、また感染した妊婦への適切な抗菌薬治療により母子感染の防止に繋がること
などから公衆衛生上重点的に対策をすべき疾患として位置付けられている。
T. pallidum が粘膜や皮膚に侵入すると、典型的には数週間後に侵入箇所に初期硬結や硬性
下疳がみられ(I期顕症梅毒)、いずれも無痛性であることが多い。その後数週間〜数カ月間経
過するとT. pallidum が血行性に全身へ移行し、典型例では全身の皮膚や粘膜に発疹を生ずる
が、その他にも肝臓、腎臓など全身の臓器に様々な症状を呈することがある(II期顕症梅毒)。
発疹は多岐にわたり、丘疹性梅毒疹、梅毒性乾癬、バラ疹などが高い頻度で認められる。これ
らI期とII期の梅毒を早期顕症梅毒と呼ぶ。無治療であっても、多くの場合、I期の症状は数週
間で、II期の皮膚粘膜病変は数週間〜数カ月で消退する。無治療の場合、感染後数年〜数十
年後に、ゴム腫、心血管症状、進行麻痺、脊髄癆など晩期顕症梅毒を引き起こすことがある。
なお、神経梅毒はどの病期でも起こりうる。また、梅毒が治癒しても、再度罹患する可能性が
ある。
妊婦がT. pallidum に感染するとT. pallidum は胎盤を通じて胎児に感染し、流産、死産、先天
梅毒を起こす可能性がある。先天梅毒には、生後まもなく皮膚病変、肝脾腫、骨軟骨炎などを
認める早期先天梅毒と、乳幼児期は症状を示さず、学童期以降にHutchinson 3徴候(実質性
角膜炎、感音性難聴、Hutchinson歯)
を呈する晩期先天梅毒がある。
T. pallidum は試験管内では培養ができないため、顕微鏡観察による病変由来検体中の菌体の
確認、血清中の菌体抗原およびカルジオリピンに対する抗体の検出、PCR 検査等による T.
pallidum 遺伝子の検出等で梅毒と診断する。
治療にはペニシリン系抗菌薬が有効であり、国内では日本性感染症学会によりアモキシシリ
ンの経口投与や、神経梅毒に対してはベンジルペニシリンカリウム点滴静注による治療が推奨
されている。また2021年9月には、梅毒の世界的な標準治療薬であるベンジルペニシリンベンザ
チン筋注製剤の国内での製造販売が承認された。
梅毒は1999年より感染症法に基づく感染症発生動向調査における全数把握対象疾患の5類
感染症に定められ、診断した医師は7日以内に管轄の保健所に届け出ることが義務づけられて
いる。2019年1月1日から届出様式が変更され、妊娠の有無、直近6カ月以内の性風俗産業の
従事歴及び利用歴の有無等が届出内容に含まれた。梅毒患者報告数は1948年以降、小流行を
認めながら全体として減少傾向であったが、2011年頃から増加が続いており、2018年には
7,000例近くの症例が報告された。その後2019〜2020年にかけて一旦減少したが、2021年以降
再度増加に転じている。
2022年第1〜42週(2022年1月3日〜10月23日、2022年10月26日週報集計時点)に診断され
た症例報告数は10,141例であり、感染症法が施行された1999年以来初めて10,000例を上回っ
た(図1)。これは感染症法施行以降、年間報告数が過去最多であった2021年の同期間における
報告数6,031例(2021年10月27日週報集計時点)と比較しても、約1.7倍と高い水準であった。
男性は6,704例、女性は3,436例で、男女共に昨年同期間(男性4,006例、女性2,025例)から約
1.7倍に増加していた。なお、性別が不明の症例数は男女別の集計に含まれないため合計値が
一致しないことがある。また、当該週に診断された症例の報告が集計の期日後に届くことがあ
Ministry of Health, Labour and Welfare / National Institute of Infectious Diseases
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