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資料1-2 カルベジロール 調査結果報告書及び添付文書[1.9MB] (14 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38855.html |
出典情報 | 薬事・食品衛生審議会 薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(令和5年度第15回 3/26)《厚生労働省》 |
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2.背景
妊娠出産を希望する循環器疾患合併女性が増加している。その理由として母体の高年齢化や、
先天性心疾患を有する患者の予後が飛躍的に改善したこと、遺伝子検査により QT 延長症候群に代
表される遺伝性不整脈や結合織疾患が若年あるいは表現型が出揃う前の段階から診断されるよう
になったこと等が挙げられる。妊娠出産時に、母体循環動態はダイナミックに変化し、母体心血
管にとって多大な負荷となる。そのため周産期には、不整脈や心不全、大動脈解離等の母体の心
血管合併症が、非妊娠時よりも増加する。わが国の妊産婦死亡原因の約 1 割は心血管疾患による
ものであり、その内訳は多い順に、大動脈解離、周産期心筋症、不整脈関連突然死である 1。循環
器疾患を合併する女性の妊娠出産において、母体死亡を含む心血管合併症の予防、もしくは治療
は必須である。
周産期の心不全リスクについては、妊娠時には、母体循環血漿量が非妊娠時の 1.5 倍まで増加
するため、心機能低下、左室流出路狭窄(僧帽弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症等)
、虚血性心疾患
等の循環器疾患をもつ女性では高くなる。循環器疾患合併妊娠 1,321 人のレジストリ研究では、
173 人(13.1%)に周産期の心不全の合併を認めた 2。中でも、心筋症を持つ女性や妊娠前から心
機能が低下している女性において、心不全の合併率が高かった。わが国の拡張型心筋症合併妊娠
30 人 35 妊娠のコホート研究(2000-2019 年、国立循環器病研究センター)では、6 妊娠(17%)
に心不全の合併を認めた 3。23 妊娠が妊娠中に β 遮断薬(以下、特記のない限り αβ 遮断薬を
含む)を内服し、12 妊娠では β 遮断薬を内服していなかった。β 遮断薬内服の有無で二群比較
したところ、より重症例(左室駆出率が低い症例)が β 遮断薬を内服していたが、周産期の心不
全合併率や妊娠中の左室駆出率の更なる低下度は、両群で有意差を認めなかった。先行研究では、
左室駆出率低下が重症であるほど、周産期の合併症リスクが高いと報告しており 4、筆者らは、重
症例が β 遮断薬の効果で、軽症例と変わらない周産期予後が得られた可能性があると考察してい
る。
周産期の不整脈リスクについては、若年突然死の原因としてよく知られる QT 延長症候群を有
する女性では、周産期に不整脈イベントが増加する 5。わが国の QT 延長症候群合併妊娠 136 妊娠
を対象とした多施設共同研究では、不整脈イベントが β 遮断薬内服 44 妊娠では 2 件(4.5%)
、
β 遮断薬非内服 94 妊娠では 12 件(12.8%)認められ、QT 延長症候群を有する妊産婦において
β 遮断薬は周産期の不整脈リスクを有意に下げていたことが報告されている 6。
このように、母体死亡に直結するハイリスク妊娠において、β 遮断薬の有効性が示唆される。
なお、ヨーロッパの器質的心疾患を有する妊婦 1,321 人の検討では、291 人(22%)が妊娠中に β
遮断薬を使用していた(適応循環器疾患・合併症の内訳は、僧帽弁狭窄症をはじめとする弁膜症
61 人、不整脈 54 人、左室機能低下 48 人、高血圧 45 人、大動脈疾患 35 人、その他 32 人、心不全
16 人)7。
交感神経活性を抑制する β 遮断薬は、古くは降圧薬として、近年は慢性心不全治療や抗不整脈
治療、血管保護目的に頻用される主な循環器治療薬の一つである。例えば、収縮不全を伴う心不
全では、一般的にレニン・アンギオテンシン系抑制薬と β 遮断薬が至適薬物療法として実施され
る 8。また、慢性期の頻脈性心房細動に対する心拍数調節療法の第 1 選択薬は β 遮断薬とされて
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妊娠出産を希望する循環器疾患合併女性が増加している。その理由として母体の高年齢化や、
先天性心疾患を有する患者の予後が飛躍的に改善したこと、遺伝子検査により QT 延長症候群に代
表される遺伝性不整脈や結合織疾患が若年あるいは表現型が出揃う前の段階から診断されるよう
になったこと等が挙げられる。妊娠出産時に、母体循環動態はダイナミックに変化し、母体心血
管にとって多大な負荷となる。そのため周産期には、不整脈や心不全、大動脈解離等の母体の心
血管合併症が、非妊娠時よりも増加する。わが国の妊産婦死亡原因の約 1 割は心血管疾患による
ものであり、その内訳は多い順に、大動脈解離、周産期心筋症、不整脈関連突然死である 1。循環
器疾患を合併する女性の妊娠出産において、母体死亡を含む心血管合併症の予防、もしくは治療
は必須である。
周産期の心不全リスクについては、妊娠時には、母体循環血漿量が非妊娠時の 1.5 倍まで増加
するため、心機能低下、左室流出路狭窄(僧帽弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症等)
、虚血性心疾患
等の循環器疾患をもつ女性では高くなる。循環器疾患合併妊娠 1,321 人のレジストリ研究では、
173 人(13.1%)に周産期の心不全の合併を認めた 2。中でも、心筋症を持つ女性や妊娠前から心
機能が低下している女性において、心不全の合併率が高かった。わが国の拡張型心筋症合併妊娠
30 人 35 妊娠のコホート研究(2000-2019 年、国立循環器病研究センター)では、6 妊娠(17%)
に心不全の合併を認めた 3。23 妊娠が妊娠中に β 遮断薬(以下、特記のない限り αβ 遮断薬を
含む)を内服し、12 妊娠では β 遮断薬を内服していなかった。β 遮断薬内服の有無で二群比較
したところ、より重症例(左室駆出率が低い症例)が β 遮断薬を内服していたが、周産期の心不
全合併率や妊娠中の左室駆出率の更なる低下度は、両群で有意差を認めなかった。先行研究では、
左室駆出率低下が重症であるほど、周産期の合併症リスクが高いと報告しており 4、筆者らは、重
症例が β 遮断薬の効果で、軽症例と変わらない周産期予後が得られた可能性があると考察してい
る。
周産期の不整脈リスクについては、若年突然死の原因としてよく知られる QT 延長症候群を有
する女性では、周産期に不整脈イベントが増加する 5。わが国の QT 延長症候群合併妊娠 136 妊娠
を対象とした多施設共同研究では、不整脈イベントが β 遮断薬内服 44 妊娠では 2 件(4.5%)
、
β 遮断薬非内服 94 妊娠では 12 件(12.8%)認められ、QT 延長症候群を有する妊産婦において
β 遮断薬は周産期の不整脈リスクを有意に下げていたことが報告されている 6。
このように、母体死亡に直結するハイリスク妊娠において、β 遮断薬の有効性が示唆される。
なお、ヨーロッパの器質的心疾患を有する妊婦 1,321 人の検討では、291 人(22%)が妊娠中に β
遮断薬を使用していた(適応循環器疾患・合併症の内訳は、僧帽弁狭窄症をはじめとする弁膜症
61 人、不整脈 54 人、左室機能低下 48 人、高血圧 45 人、大動脈疾患 35 人、その他 32 人、心不全
16 人)7。
交感神経活性を抑制する β 遮断薬は、古くは降圧薬として、近年は慢性心不全治療や抗不整脈
治療、血管保護目的に頻用される主な循環器治療薬の一つである。例えば、収縮不全を伴う心不
全では、一般的にレニン・アンギオテンシン系抑制薬と β 遮断薬が至適薬物療法として実施され
る 8。また、慢性期の頻脈性心房細動に対する心拍数調節療法の第 1 選択薬は β 遮断薬とされて
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