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医療政策会議報告書 (10 ページ)
出典
公開元URL | https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010622.html |
出典情報 | 医療政策会議報告書 公表(4/20)《日本医師会》 |
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序
章:この 2 年、パンデミックと政治の変化を経験して
▽▽▽
国民自身が国債の貸し手となる内国債の場合には、
Y
一次分配
(賃金・配当利子・地代)
T
租税・社会保険料負担
将来世代への負担は生じないとの指摘もある。しかし
そうした論は、グローバル化が進んだ現代の国債市場
政府
は、長きにわたって現状が持続するとは言えない面が
政府による
消費と投資
あることに加えて、将来世代は国債費の増大による予
(必要原則)
(貢献原則)
家計
B
社会保障給付
生産要素
(労働・資本・土地)
再分配
資源配分
市場
算編成上の制約を強く受けることになるため、国債保
有層は償還費を受け取れる一方、それ以外の国民は社
図表 1
会保障関係費をはじめとした政策的経費の抑制や増税
といったネット負担増のみを求められ、両者の間に逆
再分配の問題が生じることを捨象している。内国債で
と疑問符がつく。
あっても、その規模が大きくなればなるほど、将来世
分配政策とは、給付と負担、すなわち誰への給付を誰
代に負担が転嫁されると共に、それに伴い望ましくな
が負担するのかをセットにして、所得分配のあり様を変
い再分配が起こる可能性があり、残高が大きくなるほ
えることである。
どその蓋然性は高まる。
経済政策の中で分配が意識されるようになってきたの
△△△
は、ヘンリー・フォードの次の言葉にみられるような考
え方を忘れていたことによる様々な問題が、目に余るほ
公的債務をため込むことによるこうした問題点を避け
どに顕在化してきたからであろう。
るための第一歩として、分配政策というものを正確に理
解しておく必要がある。
・雇用の削減とか賃金カットによる国家利益などという
分配には、図表 1 にみるように雇用者所得、配当利子、
言葉をよく耳にする。賃金カットは結局購買力を低下
地代など、市場が直接行う一次的分配(Y)と、政府が
させ、国内市場、国内需要にブレーキをかけることに
一次的分配に税・社会保険料を課して財源(T)を調達
なるのだが、なぜそれが国家利益になるのだろうか9。
し、その財源で給付(B)を行う再分配がある。
・我が社が本当に発展しだしたのは、1914 年に日給を 2
市場は、生産された付加価値の総計である所得 Y(=
ドルから 5 ドルに引き上げ、最低賃金を定めてからで
国内総生産(GDP)
)を、生産活動にどれだけ貢献した
あり、それによって従業員の購買力は増加し、他社の
かに応じた貢献原則で家計に分配する。
しかしそれでは、
製品を買う力もますます向上していった。わが国が繁
格差や貧困が生じてしまうし、様々な家計の必要に対応
栄する背景には、高い賃金を払い製品価格を下げて、
することができない。それが分配を苦手としている市場
大衆の購買力を向上させるという考え方がある。これ
の性質である。そこで、政府は、市場が分配した所得に
は我が社の基本的な考え方であり、我々はこれを賃金
租税・社会保険料 T を課し、それを財源として、個々の
指向と呼ぶ10。
家計の必要に応じた必要原則に基づいて、医療や介護な
どの現物給付を含めて所得 B を家計に再分配する― ―
分配は、長く経済学のなかで中心的関心の外におかれ
『所得再分配調査』は、
「再分配所得:当初所得から税や
てきた。しかし、分配は、かつては生産と並んで経済学
社会保険料負担を控除し,公的年金などの現金給付と医
の中で重要な分析の対象であった。2015 年の春に日本で
療、介護、保育などの現物給付を加えたもの」と定義し
も大流行していたピケティの『21 世紀の資本』の意図は
ている。ゆえに経済財政諮問会議での「社会保険料率の
11
「分配の問題を経済分析の核心に戻す」
ことであった。
小
抑制は、労使双方にとって所得増をもたらす」
(2021 年
野善康委員の論文は、効率の観点から分配の重要性を説
11 月 25 日)などの文章には、その意図するところは?
くものであり、まさに分配問題を経済分析、特にマクロ
9
10
11
ヘンリー・フォード/豊土栄訳(2000)『ヘンリー・フォードの軌跡』87 頁。
ヘンリー・フォード/豊土栄訳(2000)『ヘンリー・フォードの軌跡』146 頁。
ピケティ『21 世紀の資本』17 頁。英文では、Putting the distributional question back at the heart of economic analysis.
6
章:この 2 年、パンデミックと政治の変化を経験して
▽▽▽
国民自身が国債の貸し手となる内国債の場合には、
Y
一次分配
(賃金・配当利子・地代)
T
租税・社会保険料負担
将来世代への負担は生じないとの指摘もある。しかし
そうした論は、グローバル化が進んだ現代の国債市場
政府
は、長きにわたって現状が持続するとは言えない面が
政府による
消費と投資
あることに加えて、将来世代は国債費の増大による予
(必要原則)
(貢献原則)
家計
B
社会保障給付
生産要素
(労働・資本・土地)
再分配
資源配分
市場
算編成上の制約を強く受けることになるため、国債保
有層は償還費を受け取れる一方、それ以外の国民は社
図表 1
会保障関係費をはじめとした政策的経費の抑制や増税
といったネット負担増のみを求められ、両者の間に逆
再分配の問題が生じることを捨象している。内国債で
と疑問符がつく。
あっても、その規模が大きくなればなるほど、将来世
分配政策とは、給付と負担、すなわち誰への給付を誰
代に負担が転嫁されると共に、それに伴い望ましくな
が負担するのかをセットにして、所得分配のあり様を変
い再分配が起こる可能性があり、残高が大きくなるほ
えることである。
どその蓋然性は高まる。
経済政策の中で分配が意識されるようになってきたの
△△△
は、ヘンリー・フォードの次の言葉にみられるような考
え方を忘れていたことによる様々な問題が、目に余るほ
公的債務をため込むことによるこうした問題点を避け
どに顕在化してきたからであろう。
るための第一歩として、分配政策というものを正確に理
解しておく必要がある。
・雇用の削減とか賃金カットによる国家利益などという
分配には、図表 1 にみるように雇用者所得、配当利子、
言葉をよく耳にする。賃金カットは結局購買力を低下
地代など、市場が直接行う一次的分配(Y)と、政府が
させ、国内市場、国内需要にブレーキをかけることに
一次的分配に税・社会保険料を課して財源(T)を調達
なるのだが、なぜそれが国家利益になるのだろうか9。
し、その財源で給付(B)を行う再分配がある。
・我が社が本当に発展しだしたのは、1914 年に日給を 2
市場は、生産された付加価値の総計である所得 Y(=
ドルから 5 ドルに引き上げ、最低賃金を定めてからで
国内総生産(GDP)
)を、生産活動にどれだけ貢献した
あり、それによって従業員の購買力は増加し、他社の
かに応じた貢献原則で家計に分配する。
しかしそれでは、
製品を買う力もますます向上していった。わが国が繁
格差や貧困が生じてしまうし、様々な家計の必要に対応
栄する背景には、高い賃金を払い製品価格を下げて、
することができない。それが分配を苦手としている市場
大衆の購買力を向上させるという考え方がある。これ
の性質である。そこで、政府は、市場が分配した所得に
は我が社の基本的な考え方であり、我々はこれを賃金
租税・社会保険料 T を課し、それを財源として、個々の
指向と呼ぶ10。
家計の必要に応じた必要原則に基づいて、医療や介護な
どの現物給付を含めて所得 B を家計に再分配する― ―
分配は、長く経済学のなかで中心的関心の外におかれ
『所得再分配調査』は、
「再分配所得:当初所得から税や
てきた。しかし、分配は、かつては生産と並んで経済学
社会保険料負担を控除し,公的年金などの現金給付と医
の中で重要な分析の対象であった。2015 年の春に日本で
療、介護、保育などの現物給付を加えたもの」と定義し
も大流行していたピケティの『21 世紀の資本』の意図は
ている。ゆえに経済財政諮問会議での「社会保険料率の
11
「分配の問題を経済分析の核心に戻す」
ことであった。
小
抑制は、労使双方にとって所得増をもたらす」
(2021 年
野善康委員の論文は、効率の観点から分配の重要性を説
11 月 25 日)などの文章には、その意図するところは?
くものであり、まさに分配問題を経済分析、特にマクロ
9
10
11
ヘンリー・フォード/豊土栄訳(2000)『ヘンリー・フォードの軌跡』87 頁。
ヘンリー・フォード/豊土栄訳(2000)『ヘンリー・フォードの軌跡』146 頁。
ピケティ『21 世紀の資本』17 頁。英文では、Putting the distributional question back at the heart of economic analysis.
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