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医療政策会議報告書 (12 ページ)
出典
公開元URL | https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010622.html |
出典情報 | 医療政策会議報告書 公表(4/20)《日本医師会》 |
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第1章
資本主義経済の変化と
コロナ禍での需要創出
小野 善康(大阪大学社会経済研究所特任教授・名誉教授)
産すれば、儲けも増えるし消費者のためにもなる、とい
1.はじめに
うことです。人間は非常に身勝手な存在ですが、その身
伝統的な経済政策は、多くの場合、生産性の向上に焦
勝手さを正直に発揮すれば、経済は最も良い状態になる
点が置かれ、需要面からはあまり考えられていません。
という定理です。
しかし、長期の総需要不足に直面している日本経済を活
しかし、ほかの人の経済的な幸せは変えずに自分の幸
性化させるには、実需を作ることこそが大切です。目下、
せを最大にする、ということですから、スタート時点で
問題になっているコロナ禍への経済対策も、このような
の貧富の差は問題にしません。今、この社会で一人だけ
視点で考える必要があります。
がほとんどの資産を持っており、ほかの人々はすべて貧
以下では、経済政策の意味を供給側と需要側から考え
しいとします。このとき、貧しい人の生活水準は今の水
るとともに、コロナ対策として、どのような経済政策を
準を維持した上で、一人の金持ちが最も都合いいように
したらいいか議論します。
消費行動すれば、初期の資産分配を与えられたものとし
て、最適状態になるというわけです。つまり、当初の不
2.神の見えざる手
公平については一切関知していません。
経済学のなかでもっとも基本的と考えられている大定
そうは言っても、一方の生活水準が余りに悲惨で他方
理とは、企業と消費者が市場の競争ルールに則って好き
は非常に豊かでは、社会が不安定になる。そこで、再分
勝手に行動する、つまり自由競争をすれば、
「神の見えざ
配が問題になり、最低限の生活補償、所得補償をしましょ
る手」に導かれて一番いい経済状態になる、というもの
うという発想が出てくる。これが再分配政策です。です
です(図表 1)
。企業は自分が儲かるように行動し、消費
から、基本は、皆、自由競争しましょう。それでも生活
者は自分の好きなように働き、稼いだ所得を好きなよう
できなくなるほど貧しい人がいるかもしれないので、そ
に消費に回せばいい。そうすれば「パレート最適」とい
う最適な状態が達成される(パレートは古いイタリアの
経済学者です)
。
「パレート最適」とは、ほかの人の経済
伝統的な資本主義像
的な幸せ度を変えないまま、自分が最もいい状態になっ
ていることを言います。そのため、政府は企業や個人の
神の見えざる手:
経済行動に、できるだけ介入しない方がいいことになり
「企業と個人が思いのままに行動すれば最も効率
的で幸せな状態(パレート最適)が生まれる。」
企業:利潤最大化、 個人:効用最大化
(パレート最適: 他の人の効用を変えずに
自分の効用最大)
ます。
皆が好きなように行動するだけで、なぜこんなに都合
よくいくのか。多くの消費者がある製品に対して「これ
分配問題が残る:
最低限の所得補償
→ 生活保護、ベーシックインカム
がほしい」と思えば、需要が拡大して値段が上がる。企
業側から見ると、
その製品を作れば儲かるわけですから、
たくさん作る。つまり、個人はほしい物やサービスは「ほ
しい」と言えばいいし、企業はそれを効率よく大量に生
図表 1
8
資本主義経済の変化と
コロナ禍での需要創出
小野 善康(大阪大学社会経済研究所特任教授・名誉教授)
産すれば、儲けも増えるし消費者のためにもなる、とい
1.はじめに
うことです。人間は非常に身勝手な存在ですが、その身
伝統的な経済政策は、多くの場合、生産性の向上に焦
勝手さを正直に発揮すれば、経済は最も良い状態になる
点が置かれ、需要面からはあまり考えられていません。
という定理です。
しかし、長期の総需要不足に直面している日本経済を活
しかし、ほかの人の経済的な幸せは変えずに自分の幸
性化させるには、実需を作ることこそが大切です。目下、
せを最大にする、ということですから、スタート時点で
問題になっているコロナ禍への経済対策も、このような
の貧富の差は問題にしません。今、この社会で一人だけ
視点で考える必要があります。
がほとんどの資産を持っており、ほかの人々はすべて貧
以下では、経済政策の意味を供給側と需要側から考え
しいとします。このとき、貧しい人の生活水準は今の水
るとともに、コロナ対策として、どのような経済政策を
準を維持した上で、一人の金持ちが最も都合いいように
したらいいか議論します。
消費行動すれば、初期の資産分配を与えられたものとし
て、最適状態になるというわけです。つまり、当初の不
2.神の見えざる手
公平については一切関知していません。
経済学のなかでもっとも基本的と考えられている大定
そうは言っても、一方の生活水準が余りに悲惨で他方
理とは、企業と消費者が市場の競争ルールに則って好き
は非常に豊かでは、社会が不安定になる。そこで、再分
勝手に行動する、つまり自由競争をすれば、
「神の見えざ
配が問題になり、最低限の生活補償、所得補償をしましょ
る手」に導かれて一番いい経済状態になる、というもの
うという発想が出てくる。これが再分配政策です。です
です(図表 1)
。企業は自分が儲かるように行動し、消費
から、基本は、皆、自由競争しましょう。それでも生活
者は自分の好きなように働き、稼いだ所得を好きなよう
できなくなるほど貧しい人がいるかもしれないので、そ
に消費に回せばいい。そうすれば「パレート最適」とい
う最適な状態が達成される(パレートは古いイタリアの
経済学者です)
。
「パレート最適」とは、ほかの人の経済
伝統的な資本主義像
的な幸せ度を変えないまま、自分が最もいい状態になっ
ていることを言います。そのため、政府は企業や個人の
神の見えざる手:
経済行動に、できるだけ介入しない方がいいことになり
「企業と個人が思いのままに行動すれば最も効率
的で幸せな状態(パレート最適)が生まれる。」
企業:利潤最大化、 個人:効用最大化
(パレート最適: 他の人の効用を変えずに
自分の効用最大)
ます。
皆が好きなように行動するだけで、なぜこんなに都合
よくいくのか。多くの消費者がある製品に対して「これ
分配問題が残る:
最低限の所得補償
→ 生活保護、ベーシックインカム
がほしい」と思えば、需要が拡大して値段が上がる。企
業側から見ると、
その製品を作れば儲かるわけですから、
たくさん作る。つまり、個人はほしい物やサービスは「ほ
しい」と言えばいいし、企業はそれを効率よく大量に生
図表 1
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