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医療政策会議報告書 (19 ページ)
出典
公開元URL | https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010622.html |
出典情報 | 医療政策会議報告書 公表(4/20)《日本医師会》 |
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第 2 章:最近の社会情勢と医療政策の課題
が進められており、そのこと自体は高く評価できるが、
己責任」を強化することを意味する(それゆえ、新自由
それでもなお対象となる要件によって格差が依然として
主義と親和的である)が、医療にこうした発想を持ち込
残っている。また、被用者保険においては、勤務先の健
むことは本来的に適切ではなく、必要な受診を阻害しか
康保険によって保険料率は異なっており、給与水準の高
ねない患者負担の引き上げは望ましくない。にもかかわ
い企業で保険料率が低くなっている場合も少なくない。
らず、最近でも患者負担の引き上げが再び議論されるよ
さらに、
これまで段階的に引き上げられてはいるものの、
うになっている。とりわけ、OTC 類似薬の保険適用除外
被用者保険においては標準報酬月額、国民健康保険にお
や薬剤の種類に応じた患者負担割合の設定など、保険給
いては保険料賦課限度額の上限が定められている。この
付範囲を見直すべきとの提案がしばしばなされている。
ため、保険料負担における逆進性がかねて指摘されてき
保険給付範囲については、
「必要かつ適切な医療は基本
ており、その是正は引き続き重要な課題である。
的に保険診療により確保する」という国民皆保険の基本
しかも、これから働き方がますます多様化すると見込
的理念に照らして考える必要がある。
「必要かつ適切な医
まれる。副業・兼業も推進されている。現状でも複数の
療」を給付範囲から除外するような見直しは決して認め
事業所で加入要件を満たす場合には手続きが必要ではあ
るべきではない。
「大きなリスクは共助、小さなリスクは
るが、副業・兼業の収入は多くの場合、保険料が賦課さ
自助」で対応すべきとの意見もあるが、公的保険として
れていない。このため、合計した収入額に対して保険料
適切ではない。
負担が相対的に軽くなっている。また、健康保険に加入
何をもって軽症、重症と線引きするのかをアプリオリ
している主たる勤務先の勤務時間を減らして副業・兼業
に決めることは難しく、軽症なのか重症なのかも診療の
を行う場合、仮に主たる勤務先の給与が減少すると、副
結果として決まるものである。たとえ当初は軽症であっ
業・兼業分に保険料が賦課されなければ、保険料財源の
ても、適切な診療がなされなかった結果、重症化する危
減少につながり得る。したがって、副業・兼業による収
険性もある。個別事例における必要性・適切性に関する
入も保険料を賦課する対象に含めることは検討に値する
判断と制度上の給付範囲の問題は、峻別して考える必要
と考えられる。なお、保険財政への影響は、非正規雇用
がある。
者の社会保険適用拡大や高齢者の就業促進についても、
諸外国での仕組みを参考にした提案もなされている
それぞれの医療保険の加入者像の変化に伴って生じる可
が、すでにわが国の 3 割負担は国際的に見て患者負担割
能性がある。
合として高い水準に位置しており、保険給付範囲を縮小
いずれにしても、今後、働き方が多様化する中で、制
することは、より一層の患者負担増、ひいては必要な受
度上の損得が生じないようにすべきである。前回の医療
診の抑制を引き起こすことになりかねない。公的医療保
政策会議報告書では、被用者保険の(都道府県単位への)
険の負担割合が比較的高いフランスでは、補足的医療保
一元化を提言しているが、健康保険組合間の保険料負担
険が整備されており、低所得者は拠出義務を負うことな
の格差を是正するのみならず、副業・兼業の収入をめぐ
く、補足的医療保険に加入できる仕組みになっており、
る問題に対応する上でも、被用者保険の一元化は望まし
わが国の民間保険とも位置付けが大きく異なっている。
いと言える。私は個人的には国民健康保険なども含めて
それぞれの国によって患者負担の基本的な構造や水準は
制度全体で一本化するのが理想だと考えているが、現実
異なっており、その中の一部だけを見て、そのまま導入
にはハードルが高い。それゆえ、少なくとも被用者保険
しようとすることは適切ではない。負担を給付から患者
の一元化は進めるべきだと考える。
負担に移し替えるだけの単なるコスト・シフトは、本来
的な意味での効率化とは何の関係もなく、政策手段とし
保険給付範囲見直し論の問題点
ても不適切である(保険給付範囲見直し論の問題点につ
医療保険制度については、患者負担の引き上げが議論
いては、拙稿「薬剤を中心とした保険給付範囲見直し論」
になることが多い。
これまでの累次の医療改革の中でも、
日医総研リサーチレポート No.111、2021 年 9 月 10 日を
医療費抑制を目的として患者負担の引き上げが繰り返さ
参照のこと)。
れてきた。しかし、患者負担の引き上げの背景には「受
今回のコロナ禍を通じて、多くの国民は医療へのアク
益者負担」の考え方があり、見方によっては患者の「自
セスの重要性を痛感した。財政上の理由から保険給付範
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が進められており、そのこと自体は高く評価できるが、
己責任」を強化することを意味する(それゆえ、新自由
それでもなお対象となる要件によって格差が依然として
主義と親和的である)が、医療にこうした発想を持ち込
残っている。また、被用者保険においては、勤務先の健
むことは本来的に適切ではなく、必要な受診を阻害しか
康保険によって保険料率は異なっており、給与水準の高
ねない患者負担の引き上げは望ましくない。にもかかわ
い企業で保険料率が低くなっている場合も少なくない。
らず、最近でも患者負担の引き上げが再び議論されるよ
さらに、
これまで段階的に引き上げられてはいるものの、
うになっている。とりわけ、OTC 類似薬の保険適用除外
被用者保険においては標準報酬月額、国民健康保険にお
や薬剤の種類に応じた患者負担割合の設定など、保険給
いては保険料賦課限度額の上限が定められている。この
付範囲を見直すべきとの提案がしばしばなされている。
ため、保険料負担における逆進性がかねて指摘されてき
保険給付範囲については、
「必要かつ適切な医療は基本
ており、その是正は引き続き重要な課題である。
的に保険診療により確保する」という国民皆保険の基本
しかも、これから働き方がますます多様化すると見込
的理念に照らして考える必要がある。
「必要かつ適切な医
まれる。副業・兼業も推進されている。現状でも複数の
療」を給付範囲から除外するような見直しは決して認め
事業所で加入要件を満たす場合には手続きが必要ではあ
るべきではない。
「大きなリスクは共助、小さなリスクは
るが、副業・兼業の収入は多くの場合、保険料が賦課さ
自助」で対応すべきとの意見もあるが、公的保険として
れていない。このため、合計した収入額に対して保険料
適切ではない。
負担が相対的に軽くなっている。また、健康保険に加入
何をもって軽症、重症と線引きするのかをアプリオリ
している主たる勤務先の勤務時間を減らして副業・兼業
に決めることは難しく、軽症なのか重症なのかも診療の
を行う場合、仮に主たる勤務先の給与が減少すると、副
結果として決まるものである。たとえ当初は軽症であっ
業・兼業分に保険料が賦課されなければ、保険料財源の
ても、適切な診療がなされなかった結果、重症化する危
減少につながり得る。したがって、副業・兼業による収
険性もある。個別事例における必要性・適切性に関する
入も保険料を賦課する対象に含めることは検討に値する
判断と制度上の給付範囲の問題は、峻別して考える必要
と考えられる。なお、保険財政への影響は、非正規雇用
がある。
者の社会保険適用拡大や高齢者の就業促進についても、
諸外国での仕組みを参考にした提案もなされている
それぞれの医療保険の加入者像の変化に伴って生じる可
が、すでにわが国の 3 割負担は国際的に見て患者負担割
能性がある。
合として高い水準に位置しており、保険給付範囲を縮小
いずれにしても、今後、働き方が多様化する中で、制
することは、より一層の患者負担増、ひいては必要な受
度上の損得が生じないようにすべきである。前回の医療
診の抑制を引き起こすことになりかねない。公的医療保
政策会議報告書では、被用者保険の(都道府県単位への)
険の負担割合が比較的高いフランスでは、補足的医療保
一元化を提言しているが、健康保険組合間の保険料負担
険が整備されており、低所得者は拠出義務を負うことな
の格差を是正するのみならず、副業・兼業の収入をめぐ
く、補足的医療保険に加入できる仕組みになっており、
る問題に対応する上でも、被用者保険の一元化は望まし
わが国の民間保険とも位置付けが大きく異なっている。
いと言える。私は個人的には国民健康保険なども含めて
それぞれの国によって患者負担の基本的な構造や水準は
制度全体で一本化するのが理想だと考えているが、現実
異なっており、その中の一部だけを見て、そのまま導入
にはハードルが高い。それゆえ、少なくとも被用者保険
しようとすることは適切ではない。負担を給付から患者
の一元化は進めるべきだと考える。
負担に移し替えるだけの単なるコスト・シフトは、本来
的な意味での効率化とは何の関係もなく、政策手段とし
保険給付範囲見直し論の問題点
ても不適切である(保険給付範囲見直し論の問題点につ
医療保険制度については、患者負担の引き上げが議論
いては、拙稿「薬剤を中心とした保険給付範囲見直し論」
になることが多い。
これまでの累次の医療改革の中でも、
日医総研リサーチレポート No.111、2021 年 9 月 10 日を
医療費抑制を目的として患者負担の引き上げが繰り返さ
参照のこと)。
れてきた。しかし、患者負担の引き上げの背景には「受
今回のコロナ禍を通じて、多くの国民は医療へのアク
益者負担」の考え方があり、見方によっては患者の「自
セスの重要性を痛感した。財政上の理由から保険給付範
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