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医療政策会議報告書 (9 ページ)
出典
公開元URL | https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010622.html |
出典情報 | 医療政策会議報告書 公表(4/20)《日本医師会》 |
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序
章:この 2 年、パンデミックと政治の変化を経験して
つつある。
財政金融政策へのスタンス
たとえば、前報告書には次のような論があるが、今は
ことさら強調する必要もなくなっている。
医療政策会議の中でこの 10 年近くの財政金融政策へ
のスタンスはいかなるものかに関する問題提起があっ
▽▽▽
た。コロナ禍の下、赤字国債を財源とした政策が数多く
・寿命の延伸については、
[有病状態の拡大(expansion
大規模に展開された。こうした政策は、2013 年の社会保
of morbidity)
]説と有病状態の圧縮(compression of
障制度改革国民会議が指摘していたように、財政運営に
morbidity)]説が古くからある。予防で医療費を抑制
関して「金利の上昇に脆弱な体質」を加速させる動きで
できるとする、最近政策の表舞台に出てきた説は、後
あった。ゆえに、今のこの国は、金融政策のひとつであ
者に依存したものである。しかし、厳密な研究では、
る金利の引き上げは政策手段としては封じ込められた状
前者の有病状態の拡大が現実に即していることが示さ
況になっている。では、国債の買いオペについてはどう
れている 。
か。これについては、前期の医療政策会議の報告書を紹
7
・2018 年 4 月 1 日に、日本医師会は「医療のグランドデ
介しておく。
ザイン 2030」をまとめている。そこで予防医療につい
て次のように論じられている8。
▽▽▽
・嗜好品、食品や運動にターゲットを絞った一次予防
将来、インフレが生じる、もしくは生じやすい環境
は、一定の意義はあるものの「絶対ではない」。
になれば、その時になってはじめて、中央銀行は、物
・
「世界の動向」(ランダム化比較試験(RCT)の結果)
価の安定に専念すれば良しとする論もある。だが、そ
に基づけば、二次予防(健診・検診)の健康増進効果
ういう環境では国債買入れ(買いオペ)は行えず、物
は確認されていない。
価安定には財政赤字の縮小が求められることになる。
・
「話を日本の検診に戻すと、本来ならある一つの健診
ところが、財政赤字には社会保障など構造要因がある
の本格導入の前に、RCT 等で一定の効果を確認して
ので、それを縮小することは必ずしも容易ではない。
から開始すべきであったはずだが、
『早期発見はでき
そしてそもそも日本医師会は、社会保障給付の大幅
るし、それを早期に治療すれば、予後は必ずいいはず』
カットによる歳出の縮小という国民の生活を脅かす手
との臨床的な経験に基づいて開始されたものがほと
段によってインフレを抑えるというような政策そのも
んどである。しかし、
(中略)科学的には明確に健診・
のを容認することはできない。
検診の効果を証明できないまま今日に至っている」。
それゆえ、中長期スパンでの対応策を持ち、リスク
△△△
マネジメントの観点に立った財政運営を行っていくこ
とが肝要であり、具体的には、債務残高の対 GDP 比
こうした文章は、2 年前当時の医療政策に向けられた
が発散していくことのない財政運営が求められること
批判である。あれから世界も日本も変化した。
になる。そしてその際、名目金利が名目成長率を上回
このように、新型コロナウイルス感染症によるパンデ
る局面が来る可能性も視野に入れ、少なくとも名目金
ミックと政治の世界の変化を受けて、ひとつは「かかり
利は名目成長率と同程度であるとの前提に立って、財
つけ医機能」を備えた「かかりつけ医」の普及促進への
政運営を考えていく必要がある。
期待が高まるとともに、医療政策が提供体制の改革から
△△△
目を背けていた経産省主導の時代は、現段階では過去の
ものとなりつつある― ―もちろん、将来はわからない。
前期の医療政策会議報告書には、上述の文章の前に、
次のような、キーワードとしての「逆再分配」を論じた
文章があることも紹介しておこう。
7
Salomon JA1, Wang H, Freeman MK, Vos T, Flaxman AD, Lopez AD, Murray CJ., Healthy life expectancy for 187 countries, 19902010:a systematic analysis for the Global Burden Disease Study 2010, Lancet, 2012 Dec.
8
元厚生労働省健康局長の佐藤敏信氏執筆による「医療提供の実態 予防医療、現状と検証」より。
5
章:この 2 年、パンデミックと政治の変化を経験して
つつある。
財政金融政策へのスタンス
たとえば、前報告書には次のような論があるが、今は
ことさら強調する必要もなくなっている。
医療政策会議の中でこの 10 年近くの財政金融政策へ
のスタンスはいかなるものかに関する問題提起があっ
▽▽▽
た。コロナ禍の下、赤字国債を財源とした政策が数多く
・寿命の延伸については、
[有病状態の拡大(expansion
大規模に展開された。こうした政策は、2013 年の社会保
of morbidity)
]説と有病状態の圧縮(compression of
障制度改革国民会議が指摘していたように、財政運営に
morbidity)]説が古くからある。予防で医療費を抑制
関して「金利の上昇に脆弱な体質」を加速させる動きで
できるとする、最近政策の表舞台に出てきた説は、後
あった。ゆえに、今のこの国は、金融政策のひとつであ
者に依存したものである。しかし、厳密な研究では、
る金利の引き上げは政策手段としては封じ込められた状
前者の有病状態の拡大が現実に即していることが示さ
況になっている。では、国債の買いオペについてはどう
れている 。
か。これについては、前期の医療政策会議の報告書を紹
7
・2018 年 4 月 1 日に、日本医師会は「医療のグランドデ
介しておく。
ザイン 2030」をまとめている。そこで予防医療につい
て次のように論じられている8。
▽▽▽
・嗜好品、食品や運動にターゲットを絞った一次予防
将来、インフレが生じる、もしくは生じやすい環境
は、一定の意義はあるものの「絶対ではない」。
になれば、その時になってはじめて、中央銀行は、物
・
「世界の動向」(ランダム化比較試験(RCT)の結果)
価の安定に専念すれば良しとする論もある。だが、そ
に基づけば、二次予防(健診・検診)の健康増進効果
ういう環境では国債買入れ(買いオペ)は行えず、物
は確認されていない。
価安定には財政赤字の縮小が求められることになる。
・
「話を日本の検診に戻すと、本来ならある一つの健診
ところが、財政赤字には社会保障など構造要因がある
の本格導入の前に、RCT 等で一定の効果を確認して
ので、それを縮小することは必ずしも容易ではない。
から開始すべきであったはずだが、
『早期発見はでき
そしてそもそも日本医師会は、社会保障給付の大幅
るし、それを早期に治療すれば、予後は必ずいいはず』
カットによる歳出の縮小という国民の生活を脅かす手
との臨床的な経験に基づいて開始されたものがほと
段によってインフレを抑えるというような政策そのも
んどである。しかし、
(中略)科学的には明確に健診・
のを容認することはできない。
検診の効果を証明できないまま今日に至っている」。
それゆえ、中長期スパンでの対応策を持ち、リスク
△△△
マネジメントの観点に立った財政運営を行っていくこ
とが肝要であり、具体的には、債務残高の対 GDP 比
こうした文章は、2 年前当時の医療政策に向けられた
が発散していくことのない財政運営が求められること
批判である。あれから世界も日本も変化した。
になる。そしてその際、名目金利が名目成長率を上回
このように、新型コロナウイルス感染症によるパンデ
る局面が来る可能性も視野に入れ、少なくとも名目金
ミックと政治の世界の変化を受けて、ひとつは「かかり
利は名目成長率と同程度であるとの前提に立って、財
つけ医機能」を備えた「かかりつけ医」の普及促進への
政運営を考えていく必要がある。
期待が高まるとともに、医療政策が提供体制の改革から
△△△
目を背けていた経産省主導の時代は、現段階では過去の
ものとなりつつある― ―もちろん、将来はわからない。
前期の医療政策会議報告書には、上述の文章の前に、
次のような、キーワードとしての「逆再分配」を論じた
文章があることも紹介しておこう。
7
Salomon JA1, Wang H, Freeman MK, Vos T, Flaxman AD, Lopez AD, Murray CJ., Healthy life expectancy for 187 countries, 19902010:a systematic analysis for the Global Burden Disease Study 2010, Lancet, 2012 Dec.
8
元厚生労働省健康局長の佐藤敏信氏執筆による「医療提供の実態 予防医療、現状と検証」より。
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