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医療政策会議報告書 (28 ページ)
出典
公開元URL | https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010622.html |
出典情報 | 医療政策会議報告書 公表(4/20)《日本医師会》 |
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第 3 章:日本の医療政策、そのベクトルをパンデミックの渦中に考える
ければならないからである2」
。
くことになる。
政策形成過程までもが内生的に変化
議論が求められる課題までもが変化してきている
他の先進諸国へのキャッチアップを目指す中で、後発
医療政策の議論のスタート地点として、医療制度は内
性の有利(latecomer’s advantage)を使い終え、所得の
生的であるという点の理解は不可欠であろう。医療を取
伸びが他の国とさほど変わらないような状況に落ち着い
り巻く環境は、所得が大いに伸びていた時代のものと、
ていって、医療保険の保険料率の上昇圧力が高まってい
今は全く異なっている。特に、1960 年代当時の政策形成
くと、医療費をコントロールしようするベクトルのスカ
の過程において医療提供者側が意識しなければならな
ラーが強くなってくる。そうした力学が働く中で、医療
かった交渉の相手も今は変わってしまった。今日、誰も
をあまり知らない人たちによる、皆保険による保障機能
が、かつての厚生省、現厚労省のみを相手とすればすむ
の弱体化をはじめとした公的に提供される医療の質を犠
とは考えていないであろう。そして議論されている中身
牲にする提案が力を持つことがないように、いかにして
もかつてとは次元の異なる世界に入ってもいる。
医療の質が高くなる方向へ変化の方向を持ち込んでいく
たとえば、
「医療従事者の需給に関する検討会・医師需
かというベクトルを働かせていく― ―それが医療を知
給分科会」の第 1 次中間とりまとめには、次の文言があっ
る者たちの医療政策における問題意識であったと思える。
た。
結果的には、医療費は、GDP、所得が大まかには決め
2016 年 6 月 3 日
ていくわけだが、所得の変動に医療費の動きを従属させ
将来的に、仮に医師の偏在等が続く場合には、十
ようとする力学が働く中で、医療の質を維持・高めてい
分ある診療科の診療所の開設については、保険医
くためにはどうすべきかを意識してまとめられたのが、
の配置・定数の設定や、自由開業・自由標榜の見
2013 年の「社会保障制度改革国民会議」の報告書であっ
直しを含めて検討する。
た。その報告書には、
「皆保険の維持、我々国民がこれま
で享受してきた日本の皆保険制度の良さを変えずに守り
この検討会で、委員である私は次の発言をしている。
通すためには、医療そのものが変わらなければならない
2022 年 1 月 12 日(第 8 回医療従事者の需給に関
のである」という文章があった。
する検討会・第 40 回医師需給分科会合同会議)
そこでは、
「効率」という言葉は、費用抑制の意味では
政策の技術的な話をしますと、偏在問題というの
なく、
「高齢化の進展により更に変化する医療ニーズと医
は自由開業とか自由標榜、フリーアクセスという
療提供体制のミスマッチを解消することができれば、同
ような条件を設定すれば確実に起こります。偏在
じ負担の水準であっても、現在の医療とは異なる質の高
を問題だというのであれば、起こる原因を議論せ
いサービスを効率的に提供できることになる」というよ
ざるを得ません。それを議論することがいいこと
うに使われていた。
か悪いことかというのは抜きにして、偏在は問題
所得の伸びが鈍化し、医療費だけが単独で伸びていく
である、診療科偏在あるいは地域偏在が問題であ
状況下では、
費用負担者たちの政治力が強くなっていく。
るというのであれば、技術的にその原因を議論せ
その時に、どうすればいいのか。今は、かつて経済が順
ざるを得ないということになります。
調に伸びていた成長期とは、医療政策の展開、医療団体
の運営は、難易度が違う。
この発言に対して、日本医師会からは次の発言がなさ
いかんとも動かしがたい力学は、所得に連動して医療
れる。
制度は動くという、医療制度は内生的であるという事実
権丈先生が指摘されましたけれども、職業選択の
である。そのなかに財源調達者の集団と医療提供側の集
自由、あるいは医師に関して言えば診療科、ある
団があり、双方が交渉していくわけだが、時代時代にお
いはどこで医療を行うかということの自由を担保
いては、所得の伸びの度合いが力のバランスを決めてい
するという大前提の下でこれまでずっとやってき
2
Getzen(1995)
, p.36.
24
ければならないからである2」
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くことになる。
政策形成過程までもが内生的に変化
議論が求められる課題までもが変化してきている
他の先進諸国へのキャッチアップを目指す中で、後発
医療政策の議論のスタート地点として、医療制度は内
性の有利(latecomer’s advantage)を使い終え、所得の
生的であるという点の理解は不可欠であろう。医療を取
伸びが他の国とさほど変わらないような状況に落ち着い
り巻く環境は、所得が大いに伸びていた時代のものと、
ていって、医療保険の保険料率の上昇圧力が高まってい
今は全く異なっている。特に、1960 年代当時の政策形成
くと、医療費をコントロールしようするベクトルのスカ
の過程において医療提供者側が意識しなければならな
ラーが強くなってくる。そうした力学が働く中で、医療
かった交渉の相手も今は変わってしまった。今日、誰も
をあまり知らない人たちによる、皆保険による保障機能
が、かつての厚生省、現厚労省のみを相手とすればすむ
の弱体化をはじめとした公的に提供される医療の質を犠
とは考えていないであろう。そして議論されている中身
牲にする提案が力を持つことがないように、いかにして
もかつてとは次元の異なる世界に入ってもいる。
医療の質が高くなる方向へ変化の方向を持ち込んでいく
たとえば、
「医療従事者の需給に関する検討会・医師需
かというベクトルを働かせていく― ―それが医療を知
給分科会」の第 1 次中間とりまとめには、次の文言があっ
る者たちの医療政策における問題意識であったと思える。
た。
結果的には、医療費は、GDP、所得が大まかには決め
2016 年 6 月 3 日
ていくわけだが、所得の変動に医療費の動きを従属させ
将来的に、仮に医師の偏在等が続く場合には、十
ようとする力学が働く中で、医療の質を維持・高めてい
分ある診療科の診療所の開設については、保険医
くためにはどうすべきかを意識してまとめられたのが、
の配置・定数の設定や、自由開業・自由標榜の見
2013 年の「社会保障制度改革国民会議」の報告書であっ
直しを含めて検討する。
た。その報告書には、
「皆保険の維持、我々国民がこれま
で享受してきた日本の皆保険制度の良さを変えずに守り
この検討会で、委員である私は次の発言をしている。
通すためには、医療そのものが変わらなければならない
2022 年 1 月 12 日(第 8 回医療従事者の需給に関
のである」という文章があった。
する検討会・第 40 回医師需給分科会合同会議)
そこでは、
「効率」という言葉は、費用抑制の意味では
政策の技術的な話をしますと、偏在問題というの
なく、
「高齢化の進展により更に変化する医療ニーズと医
は自由開業とか自由標榜、フリーアクセスという
療提供体制のミスマッチを解消することができれば、同
ような条件を設定すれば確実に起こります。偏在
じ負担の水準であっても、現在の医療とは異なる質の高
を問題だというのであれば、起こる原因を議論せ
いサービスを効率的に提供できることになる」というよ
ざるを得ません。それを議論することがいいこと
うに使われていた。
か悪いことかというのは抜きにして、偏在は問題
所得の伸びが鈍化し、医療費だけが単独で伸びていく
である、診療科偏在あるいは地域偏在が問題であ
状況下では、
費用負担者たちの政治力が強くなっていく。
るというのであれば、技術的にその原因を議論せ
その時に、どうすればいいのか。今は、かつて経済が順
ざるを得ないということになります。
調に伸びていた成長期とは、医療政策の展開、医療団体
の運営は、難易度が違う。
この発言に対して、日本医師会からは次の発言がなさ
いかんとも動かしがたい力学は、所得に連動して医療
れる。
制度は動くという、医療制度は内生的であるという事実
権丈先生が指摘されましたけれども、職業選択の
である。そのなかに財源調達者の集団と医療提供側の集
自由、あるいは医師に関して言えば診療科、ある
団があり、双方が交渉していくわけだが、時代時代にお
いはどこで医療を行うかということの自由を担保
いては、所得の伸びの度合いが力のバランスを決めてい
するという大前提の下でこれまでずっとやってき
2
Getzen(1995)
, p.36.
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