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医療政策会議報告書 (13 ページ)
出典
公開元URL | https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010622.html |
出典情報 | 医療政策会議報告書 公表(4/20)《日本医師会》 |
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第 1 章:資本主義経済の変化とコロナ禍での需要創出
「神の見えざる手」の前提
需要不足下の二つの可能性
円滑な市場調整機能
自由な企業間競争(完全競争)
1)低労働生産性、低賃金、高雇用率
需要不足のない経済(資産選好のない経済)
→ 貧困平等
労働市場の自由化、取引のデジタル化
GDPは同じ
頑張って働く、効率追求→経済全体が成長
2)高労働生産性、高賃金、高失業率
需要不足のある経済(資産選好のある経済)
頑張って働く、効率追求→人余りの激化
→ 格差、社会不安
図表 2
図表 3
の人はぎりぎり助けてあげましょう。でもその人を助け
止まって経済は成長しなくなった。こんな状態なのに、
すぎると一生懸命働かなくなるからだめです。これが、
神の見えざる手を信じて、皆が頑張って働いたら、物余
伝統的な資本主義の政策のあり方であり、歴代の政権が
りや人余りがひどくなるだけです。
掲げる構造改革もここから出ています。
3.総需要不足下の選択肢
しかし、
「神の見えざる手」が経済をパレート最適に導
くためには、いくつか前提があります。そのひとつは、
総需要が不足している状況では、生産側の選択肢は図
市場調整機能が円滑に働く。つまり、物価や賃金が高止
表 3 の 1)と 2)の方法しかありません。今、物が 100 個
まりすることはない。売れなければ値段がすぐに下がる
しか売れないのに生産能力が 200 あるとする。このとき、
し、売れればすぐに高くなる、というものです(図表 2)
。
選択肢 1 は雇用維持を最優先する方法です。100 個しか
つぎに、自由な企業間競争という前提があります。た
売れないので、雇用を維持するためには生産性を下げる
とえばコロナ禍でマスクの需要が急増して、値段が跳ね
しかありません。そうすれば、雇用は減りませんが、生
上がりました。もし 1 社しかマスクを作れなければ、そ
産性が低いので賃金も低くなります。つまり、低労働生
の会社は自由にマスクの値段を上げることができます。
産性、低賃金、高雇用率、要するに貧困平等です。
しかし、儲かるとわかれば、マスクの生産者が新規にど
選択肢 2 は、労働生産性を上げる方法です。しかし、
んどん入ってくるので、価格はちょうどマスクの生産コ
100 しか売れないので、人が余って失業率は上がる。働
ストに見合う水準まで落ちていく。その結果、もっとも
いている人の労働生産性は高くなるので、賃金は高くな
効率的な生産が行われ、適正なコストを反映した需要が
りますが、働けない人がたくさん出てきます。結果は格
生まれる。自由な企業間競争はこのような状態を作るか
差拡大となって、社会不安が広がります。
ら、「見えざる手」が働くために不可欠、というわけで
どちらを選んでも売れる量は決まっていますから、経
す。独占禁止法や公正取引委員会は、このような自由競
済全体の活動水準は変わらず、同じ量の仕事を皆で分け
争を守るためにあります。
るか、一部の人だけでやるかの選択でしかありません。
さらに、もうひとつ重要な前提がある。それは、労働
これに関して、日本とフランスの経済指標の比較が参
や物への需要不足がない経済、作れば売れる経済である
考になります(図表 4)
。まず、1 人当たり GDP も 1 人
ということです。そうであれば、生産能力をフル稼働し
当たりの家計消費も、両国でほとんど同じです。つまり、
て作った物はすべて活用されて、経済全体は最適状態に
フランス人と日本人は、生活水準がほとんど変わりませ
なるはずです。
ん。一方、労働生産性はフランスの方が日本より断然高
ところがここ 20~30 年間、日本は総需要不足に陥って
い。そのため、そこだけを見れば、
「フランスのように生
経済成長せず、GDP も消費もほとんど動いていない。そ
産性を上げればいい」と思うかもしれません。ところが
れまでは高い成長率を維持していたのに、需要の伸びが
消費水準、つまり売れる量は同じですから、生産性を上
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「神の見えざる手」の前提
需要不足下の二つの可能性
円滑な市場調整機能
自由な企業間競争(完全競争)
1)低労働生産性、低賃金、高雇用率
需要不足のない経済(資産選好のない経済)
→ 貧困平等
労働市場の自由化、取引のデジタル化
GDPは同じ
頑張って働く、効率追求→経済全体が成長
2)高労働生産性、高賃金、高失業率
需要不足のある経済(資産選好のある経済)
頑張って働く、効率追求→人余りの激化
→ 格差、社会不安
図表 2
図表 3
の人はぎりぎり助けてあげましょう。でもその人を助け
止まって経済は成長しなくなった。こんな状態なのに、
すぎると一生懸命働かなくなるからだめです。これが、
神の見えざる手を信じて、皆が頑張って働いたら、物余
伝統的な資本主義の政策のあり方であり、歴代の政権が
りや人余りがひどくなるだけです。
掲げる構造改革もここから出ています。
3.総需要不足下の選択肢
しかし、
「神の見えざる手」が経済をパレート最適に導
くためには、いくつか前提があります。そのひとつは、
総需要が不足している状況では、生産側の選択肢は図
市場調整機能が円滑に働く。つまり、物価や賃金が高止
表 3 の 1)と 2)の方法しかありません。今、物が 100 個
まりすることはない。売れなければ値段がすぐに下がる
しか売れないのに生産能力が 200 あるとする。このとき、
し、売れればすぐに高くなる、というものです(図表 2)
。
選択肢 1 は雇用維持を最優先する方法です。100 個しか
つぎに、自由な企業間競争という前提があります。た
売れないので、雇用を維持するためには生産性を下げる
とえばコロナ禍でマスクの需要が急増して、値段が跳ね
しかありません。そうすれば、雇用は減りませんが、生
上がりました。もし 1 社しかマスクを作れなければ、そ
産性が低いので賃金も低くなります。つまり、低労働生
の会社は自由にマスクの値段を上げることができます。
産性、低賃金、高雇用率、要するに貧困平等です。
しかし、儲かるとわかれば、マスクの生産者が新規にど
選択肢 2 は、労働生産性を上げる方法です。しかし、
んどん入ってくるので、価格はちょうどマスクの生産コ
100 しか売れないので、人が余って失業率は上がる。働
ストに見合う水準まで落ちていく。その結果、もっとも
いている人の労働生産性は高くなるので、賃金は高くな
効率的な生産が行われ、適正なコストを反映した需要が
りますが、働けない人がたくさん出てきます。結果は格
生まれる。自由な企業間競争はこのような状態を作るか
差拡大となって、社会不安が広がります。
ら、「見えざる手」が働くために不可欠、というわけで
どちらを選んでも売れる量は決まっていますから、経
す。独占禁止法や公正取引委員会は、このような自由競
済全体の活動水準は変わらず、同じ量の仕事を皆で分け
争を守るためにあります。
るか、一部の人だけでやるかの選択でしかありません。
さらに、もうひとつ重要な前提がある。それは、労働
これに関して、日本とフランスの経済指標の比較が参
や物への需要不足がない経済、作れば売れる経済である
考になります(図表 4)
。まず、1 人当たり GDP も 1 人
ということです。そうであれば、生産能力をフル稼働し
当たりの家計消費も、両国でほとんど同じです。つまり、
て作った物はすべて活用されて、経済全体は最適状態に
フランス人と日本人は、生活水準がほとんど変わりませ
なるはずです。
ん。一方、労働生産性はフランスの方が日本より断然高
ところがここ 20~30 年間、日本は総需要不足に陥って
い。そのため、そこだけを見れば、
「フランスのように生
経済成長せず、GDP も消費もほとんど動いていない。そ
産性を上げればいい」と思うかもしれません。ところが
れまでは高い成長率を維持していたのに、需要の伸びが
消費水準、つまり売れる量は同じですから、生産性を上
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