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【別添】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1版) (27 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00332.html |
出典情報 | 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1版)」の周知について(4/28付 事務連絡)《厚生労働省》 |
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●新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き
7
別冊
罹患後症状のマネジメント・第1版 ● 7 精神症状へのアプローチ
精神症状へのアプローチ
1.はじめに
COVID-19 の拡大が人々の精神面に及ぼす影響については,パンデミック発生当初から懸念
されている.精神症状の発現機序について,現在までに得られている知見として,ウイルス性
肺炎を伴う呼吸器系を中心とする炎症および免疫反応により,全身のさまざまな臓器や組織に
異常をきたし,その結果,血液脳関門(Blood-brain barrier)における能動輸送障害や血管透
過性亢進,サイトカインストームなどの免疫応答異常などといったメカニズムが想定されてい
る.さらに,変異を繰り返すウイルスへの恐怖,未知の病気に対する不安,自粛要請や失業な
どによる社会的孤立など,いくつもの心理的負荷がのしかかり,急性ストレス反応から過剰適
応に陥り,やがてうつ病を発症するといったメカニズムも考えられる.COVID-19 罹患と精神
疾患の関連性について,いまだ確立した知見は得られていないが,プライマリケアにおいては
他の身体疾患との鑑別も含め,フォローアップが必要な症例がある.
2.科学的知見
主な疫学知見では,2020 年に SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)
,MERS
(Middle East Respiratory Syndrome)および COVID-19 と,精神疾患の関連について,72
論文を対象としたシステマティックレビューおよびメタ解析が報告されている.COVID-19
発生当時は論文数が少なく,出版バイアスの影響は否めないが,不安障害,気分障害(抑う
つ),および PTSD(心的外傷後ストレス障害)の時点有病割合を算出し,順に 14.8 %(95
% Confidence interval, 以下 95%CI: 11.1 ~ 19.4)
,14.9%(95%CI 12.1 ~ 18.2)
,32.2
%(95%CI 23.7 ~ 42.0)と示された.
その後,2021 年には米国における 6 万人規模の縦断研究が実施され,不安障害,睡眠障
害,および 65 歳以上の認知症における新規発症リスクが,COVID-19 以外の呼吸器感染症,
インフルエンザ,皮膚炎,胆管炎,尿道炎,および骨折などに罹患した場合に比べ,有意に増
大することが示された.54 社の保険者データベースを用いた後方視的コホート研究であり,
2020 年 1 月 20 日~ 8 月 1 日までの期間,COVID-19 罹患後 14 ~ 90 日の間に,統合失調症
(F20-F29),気分障害(F30-F39)
,PTSD を含む不安障害(F40-48)のいずれかの新規診
断が発生するリスクを評価した.傾向スコアマッチングにより抽出されたコホートペア内にお
いて,ICD-10 コードの F20-F48 に該当する精神科疾患の新規診断は,インフルエンザの 2.1
倍,他の呼吸器感染症の 1.7 倍,皮膚炎の 1.6 倍,胆管炎の 1.6 倍,尿道炎の 2.2 倍,骨折の 2.1
倍といずれも統計学的有意をもって高いことが示された.すべてのコホートペアでハザード比
が高値を示したことから,COVID-19 罹患後 14 ~ 90 日の間に発生リスクが増す疾患は,不安
障害(F40-48),睡眠障害(F51.0, G47.0)
,および 65 歳以上の認知症(F01, F02, F03,
G30)と示唆される.また,2020 年 1 月~ 4 月 10 日までの 3 カ月間余を観察期間とした場
合の罹患後約 3 カ月時点における期間有病割合は,F20-F48 に該当するいずれかの精神疾患
が 18.1%(95%CI 17.6 ~ 18.6)
,うち新規発症のみだと 5.8%(95%CI 5.2 ~ 6.4)となり,
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罹患後症状のマネジメント・第1版 ● 7 精神症状へのアプローチ
精神症状へのアプローチ
1.はじめに
COVID-19 の拡大が人々の精神面に及ぼす影響については,パンデミック発生当初から懸念
されている.精神症状の発現機序について,現在までに得られている知見として,ウイルス性
肺炎を伴う呼吸器系を中心とする炎症および免疫反応により,全身のさまざまな臓器や組織に
異常をきたし,その結果,血液脳関門(Blood-brain barrier)における能動輸送障害や血管透
過性亢進,サイトカインストームなどの免疫応答異常などといったメカニズムが想定されてい
る.さらに,変異を繰り返すウイルスへの恐怖,未知の病気に対する不安,自粛要請や失業な
どによる社会的孤立など,いくつもの心理的負荷がのしかかり,急性ストレス反応から過剰適
応に陥り,やがてうつ病を発症するといったメカニズムも考えられる.COVID-19 罹患と精神
疾患の関連性について,いまだ確立した知見は得られていないが,プライマリケアにおいては
他の身体疾患との鑑別も含め,フォローアップが必要な症例がある.
2.科学的知見
主な疫学知見では,2020 年に SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)
,MERS
(Middle East Respiratory Syndrome)および COVID-19 と,精神疾患の関連について,72
論文を対象としたシステマティックレビューおよびメタ解析が報告されている.COVID-19
発生当時は論文数が少なく,出版バイアスの影響は否めないが,不安障害,気分障害(抑う
つ),および PTSD(心的外傷後ストレス障害)の時点有病割合を算出し,順に 14.8 %(95
% Confidence interval, 以下 95%CI: 11.1 ~ 19.4)
,14.9%(95%CI 12.1 ~ 18.2)
,32.2
%(95%CI 23.7 ~ 42.0)と示された.
その後,2021 年には米国における 6 万人規模の縦断研究が実施され,不安障害,睡眠障
害,および 65 歳以上の認知症における新規発症リスクが,COVID-19 以外の呼吸器感染症,
インフルエンザ,皮膚炎,胆管炎,尿道炎,および骨折などに罹患した場合に比べ,有意に増
大することが示された.54 社の保険者データベースを用いた後方視的コホート研究であり,
2020 年 1 月 20 日~ 8 月 1 日までの期間,COVID-19 罹患後 14 ~ 90 日の間に,統合失調症
(F20-F29),気分障害(F30-F39)
,PTSD を含む不安障害(F40-48)のいずれかの新規診
断が発生するリスクを評価した.傾向スコアマッチングにより抽出されたコホートペア内にお
いて,ICD-10 コードの F20-F48 に該当する精神科疾患の新規診断は,インフルエンザの 2.1
倍,他の呼吸器感染症の 1.7 倍,皮膚炎の 1.6 倍,胆管炎の 1.6 倍,尿道炎の 2.2 倍,骨折の 2.1
倍といずれも統計学的有意をもって高いことが示された.すべてのコホートペアでハザード比
が高値を示したことから,COVID-19 罹患後 14 ~ 90 日の間に発生リスクが増す疾患は,不安
障害(F40-48),睡眠障害(F51.0, G47.0)
,および 65 歳以上の認知症(F01, F02, F03,
G30)と示唆される.また,2020 年 1 月~ 4 月 10 日までの 3 カ月間余を観察期間とした場
合の罹患後約 3 カ月時点における期間有病割合は,F20-F48 に該当するいずれかの精神疾患
が 18.1%(95%CI 17.6 ~ 18.6)
,うち新規発症のみだと 5.8%(95%CI 5.2 ~ 6.4)となり,
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