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第2章 こどもの自殺の状況と対策 本文 (33 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/jisatsuhakusyo2024.html |
出典情報 | 令和6年版自殺対策白書(10/29)《厚生労働省》 |
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第2章
●こどもの自殺の状況と対策
COLUMN 4
こどもの学業不振の理解と学校での対応
~スクールカウンセラー(SC)の立場から~
(一般社団法人日本臨床心理士会 教育領域委員会 下田芳幸(佐賀大学)・吉村隆之(九州大学)・平田祐太朗(鹿児島大学))
1. SCから見た最近のこども
筆者らは20年前後のSC経験があるが、こどもの姿に時代の変化を感じることがある。限られた
紙面で一つ挙げるなら、やはりSNSの影響は大きい。他者とつながり続けることに気疲れを起こし
ている、短文のやり取りに慣れ丁寧に説明することが得意でない、即レスや“タイパ”が当たり前
なので待つことが苦手で強いストレスを感じる、といったこどもが増えているように思う。また、
友達と一緒にいながら黙々と各自のスマホと向き合っている姿を見ると、友達の存在意義や人との
つながりの質的変化も感じざるを得ない。
2. こどもの学業不振をどう理解するか
こういった中で、こどもの自殺の原因・動機として学業不振が多いことが示唆されているが、文
部科学省の「スクールカウンセラー実践活動事例集」をはじめとする各種資料に示されているよう
に、SCへの学業関連の相談件数は必ずしも多くない。SCの相談時の実感としても、少なくとも最
初のうちは、明確な困りごととして話題に上りにくい印象がある。その理由として、成績としての
数値化や順位付けがされやすくプライドに関わるから、できない自分と向き合うのが苦しいから、
学業不振に伴う無力感が長く続き改善意欲もなくなっているから、といったことがあるのかもしれ
ない。
しかし、学業不振は重要な着眼点でもある。例えば、こどもの自殺の原因・動機の上位に挙がる
家族関連のもの(親子関係の不和、家族からのしつけ・叱責)のきっかけとなり得る。塾や習い事
が多く疲弊しているこどもも少なくない中で、周囲や自分の期待する結果が得られず(相対的な)
学業不振に苦しんでいる場合もある。時には“教育虐待”と思しきケースに出会うこともある。
また、SCとの間で学業の話題が出るとき、「だるい・めんどい・つまらない」などとして語られ
ることが多いが、この言葉の奥に、授業が分からないつらさや悲しさが潜んでいることがある。で
きない自分への惨めな思いや学び合い活動での恥ずかしさ、周りから取り残される孤独感を抱いた
り、無力感や燃え尽き感に苛まれたり、投げやりな態度が自暴自棄な行動や非行に発展したりする
こともある。自己イメージが揺らぎ他者評価に敏感になる思春期は特に、学業不振が自己評価の低
下につながりやすい。自分は無価値という感覚は自殺の大きなリスク要因であり、学業不振が自分
の価値のなさに結びつくと危険である。
このように学業不振が様々な不適応につながることもあれば、逆に、学業不振がメンタルヘルス
の不調の結果と思われる場合もある。こどもの自殺の原因・動機でうつ病その他の精神疾患の割合
も高いが、うつ病の症状である意欲関心・集中力の低下や起立性調整障害に多い体調不良が、学業
不振につながることもある。あるいは、本人の努力だけでカバーしきれない発達的・認知的なアン
バランスが学業不振に影響していることもある。
3. 学校での対応
このように学業不振といっても、そのきっかけや維持要因、悪循環の経過や影響の範囲は様々で
ある。また、受験制度の多様化や特別支援教育の普及などにより、学業不振をめぐる様相は以前と
異なってきているかもしれない。したがって、学業不振を表層的にでなく、苦戦するこどもの一つ
のサインとして適切に捉える必要があり、まずは丁寧な要因分析が望まれる。個別的な要因を多面
的・多角的に理解するためにも、教職員とSCが情報を共有し、家庭とも連携を図り、必要に応じて
スクールソーシャルワーカーや医療機関等も活用することが重要である。
また、学習意欲が低い・怠学や非行傾向のあるこどもでも、「知りたい・分かりたい」という思い
はどこかに残っている。教師への親しみが湧くと勉強への関心が芽生えることもあるため、信頼関
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●こどもの自殺の状況と対策
COLUMN 4
こどもの学業不振の理解と学校での対応
~スクールカウンセラー(SC)の立場から~
(一般社団法人日本臨床心理士会 教育領域委員会 下田芳幸(佐賀大学)・吉村隆之(九州大学)・平田祐太朗(鹿児島大学))
1. SCから見た最近のこども
筆者らは20年前後のSC経験があるが、こどもの姿に時代の変化を感じることがある。限られた
紙面で一つ挙げるなら、やはりSNSの影響は大きい。他者とつながり続けることに気疲れを起こし
ている、短文のやり取りに慣れ丁寧に説明することが得意でない、即レスや“タイパ”が当たり前
なので待つことが苦手で強いストレスを感じる、といったこどもが増えているように思う。また、
友達と一緒にいながら黙々と各自のスマホと向き合っている姿を見ると、友達の存在意義や人との
つながりの質的変化も感じざるを得ない。
2. こどもの学業不振をどう理解するか
こういった中で、こどもの自殺の原因・動機として学業不振が多いことが示唆されているが、文
部科学省の「スクールカウンセラー実践活動事例集」をはじめとする各種資料に示されているよう
に、SCへの学業関連の相談件数は必ずしも多くない。SCの相談時の実感としても、少なくとも最
初のうちは、明確な困りごととして話題に上りにくい印象がある。その理由として、成績としての
数値化や順位付けがされやすくプライドに関わるから、できない自分と向き合うのが苦しいから、
学業不振に伴う無力感が長く続き改善意欲もなくなっているから、といったことがあるのかもしれ
ない。
しかし、学業不振は重要な着眼点でもある。例えば、こどもの自殺の原因・動機の上位に挙がる
家族関連のもの(親子関係の不和、家族からのしつけ・叱責)のきっかけとなり得る。塾や習い事
が多く疲弊しているこどもも少なくない中で、周囲や自分の期待する結果が得られず(相対的な)
学業不振に苦しんでいる場合もある。時には“教育虐待”と思しきケースに出会うこともある。
また、SCとの間で学業の話題が出るとき、「だるい・めんどい・つまらない」などとして語られ
ることが多いが、この言葉の奥に、授業が分からないつらさや悲しさが潜んでいることがある。で
きない自分への惨めな思いや学び合い活動での恥ずかしさ、周りから取り残される孤独感を抱いた
り、無力感や燃え尽き感に苛まれたり、投げやりな態度が自暴自棄な行動や非行に発展したりする
こともある。自己イメージが揺らぎ他者評価に敏感になる思春期は特に、学業不振が自己評価の低
下につながりやすい。自分は無価値という感覚は自殺の大きなリスク要因であり、学業不振が自分
の価値のなさに結びつくと危険である。
このように学業不振が様々な不適応につながることもあれば、逆に、学業不振がメンタルヘルス
の不調の結果と思われる場合もある。こどもの自殺の原因・動機でうつ病その他の精神疾患の割合
も高いが、うつ病の症状である意欲関心・集中力の低下や起立性調整障害に多い体調不良が、学業
不振につながることもある。あるいは、本人の努力だけでカバーしきれない発達的・認知的なアン
バランスが学業不振に影響していることもある。
3. 学校での対応
このように学業不振といっても、そのきっかけや維持要因、悪循環の経過や影響の範囲は様々で
ある。また、受験制度の多様化や特別支援教育の普及などにより、学業不振をめぐる様相は以前と
異なってきているかもしれない。したがって、学業不振を表層的にでなく、苦戦するこどもの一つ
のサインとして適切に捉える必要があり、まずは丁寧な要因分析が望まれる。個別的な要因を多面
的・多角的に理解するためにも、教職員とSCが情報を共有し、家庭とも連携を図り、必要に応じて
スクールソーシャルワーカーや医療機関等も活用することが重要である。
また、学習意欲が低い・怠学や非行傾向のあるこどもでも、「知りたい・分かりたい」という思い
はどこかに残っている。教師への親しみが湧くと勉強への関心が芽生えることもあるため、信頼関
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