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参考資料3-2 (4 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32513.html |
出典情報 | 厚生科学審議会 感染症部会(第74回 4/12)《厚生労働省》 |
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はじめに
薬剤耐性(AMR)の脅威
特定の種類の抗菌薬や抗ウイルス薬等の抗微生物剤が効きにくくなる、又は効かなくなることを、
「薬剤耐性(AMR)」という。こうした耐性を持った細菌やウイルスが増えると、従来の薬が効かなくな
ることから、これまでは感染、発症しても軽症で回復できた感染症の治療が困難になり重症化・死
亡に至る可能性が高まる。そのため、薬剤耐性(AMR)の発生をできる限り抑制し、薬剤耐性微生
物(ARO)による感染症のまん延を防止することが重要である。1980 年代以降、従来の抗菌薬が効
かない薬剤耐性(AMR)をもつ細菌が世界中で確認され、これにより感染症の予防や治療が困難にな
るケースが増加しており、今後も抗菌薬が効かない感染症が増加していくことが予想される。我が国に
おいても、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)といった薬剤耐
性グラム陽性球菌、次いで、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)といった薬
剤耐性グラム陰性桿菌による医療関連感染症が広がり、現在も医療機関において大きな問題となって
いる。さらに最近では、カルバペネム系の抗菌薬に耐性を持つカルバペネム耐性腸内細菌目細菌
CRE)が出現している。
薬剤耐性微生物(ARO)による感染症については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など
の急速なパンデミックを起こす可能性が高いと考えられている感染症に比して、危機感が容易に認識
され難い。一方で、英国の薬剤耐性(AMR)レビュー委員会(オニール・コミッション)では、このまま対
策が取られなければ、2050 年までに全世界における死者数は 1000 万人に上り、がんによる死亡者数
を上回ると推計されている1。我が国においても、2019 年の国内の調査において、薬剤耐性菌の中で
も頻度が高いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)の菌
血症2による 2017 年の年間死亡者数が 8,000 人を超えると推定される研究結果が報告されている3。
さらに、薬剤耐性(AMR)は経済的な影響も大きく、2017 年の世界銀行の調査では、このまま対策を
何も講じない場合、世界の年間国内総生産(GDP)は、2050 年には 2017 年比で 3.8%減少する可能
性があり、この数値は 2008 年に発生した金融危機と同程度であることから、世界経済が危機的状況に
陥るのは明白であるとも言われている4。
以上のことから、薬剤耐性(AMR)は、世界的に深刻な健康上の脅威として取り上げられ、先進7カ
国(G7)の保健分野における取り組むべき優先事項の1つとして認識されているほか、世界保健機関
(WHO)は薬剤耐性(AMR)対策を重要な政策アジェンダに取り上げている5。我が国は先進7カ国(G
7)の一員として、国内での対策はもとより、世界、特にアジア地域における薬剤耐性(AMR)対策の主
導力を発揮すべき立場にある。
1
Jim O'Neill, “The Review on Antimicrobial Resistance. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and
Recommendations.,” May 2016
2
菌血症とは血液中に細菌が入り込んだ状態。さまざまな感染症が菌血症の原因となるが、菌血症をきたすとより重症となり
死亡率が高くなる。
3
S Tsuzuki, et al., National trend of blood-stream infection attributable deaths caused by Staphylococcus aureus and
Escherichia coli in Japan. J Infect Chemother. 2020; 26(4): 367-371
4
World Bank, “Drug-resistant infections: a threat to our economic future: final report,” May 2017
5
World Health Organization, 10 global health issues to track in 2021, 24 December 2020
薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027) | 4
薬剤耐性(AMR)の脅威
特定の種類の抗菌薬や抗ウイルス薬等の抗微生物剤が効きにくくなる、又は効かなくなることを、
「薬剤耐性(AMR)」という。こうした耐性を持った細菌やウイルスが増えると、従来の薬が効かなくな
ることから、これまでは感染、発症しても軽症で回復できた感染症の治療が困難になり重症化・死
亡に至る可能性が高まる。そのため、薬剤耐性(AMR)の発生をできる限り抑制し、薬剤耐性微生
物(ARO)による感染症のまん延を防止することが重要である。1980 年代以降、従来の抗菌薬が効
かない薬剤耐性(AMR)をもつ細菌が世界中で確認され、これにより感染症の予防や治療が困難にな
るケースが増加しており、今後も抗菌薬が効かない感染症が増加していくことが予想される。我が国に
おいても、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)といった薬剤耐
性グラム陽性球菌、次いで、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)といった薬
剤耐性グラム陰性桿菌による医療関連感染症が広がり、現在も医療機関において大きな問題となって
いる。さらに最近では、カルバペネム系の抗菌薬に耐性を持つカルバペネム耐性腸内細菌目細菌
CRE)が出現している。
薬剤耐性微生物(ARO)による感染症については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など
の急速なパンデミックを起こす可能性が高いと考えられている感染症に比して、危機感が容易に認識
され難い。一方で、英国の薬剤耐性(AMR)レビュー委員会(オニール・コミッション)では、このまま対
策が取られなければ、2050 年までに全世界における死者数は 1000 万人に上り、がんによる死亡者数
を上回ると推計されている1。我が国においても、2019 年の国内の調査において、薬剤耐性菌の中で
も頻度が高いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)の菌
血症2による 2017 年の年間死亡者数が 8,000 人を超えると推定される研究結果が報告されている3。
さらに、薬剤耐性(AMR)は経済的な影響も大きく、2017 年の世界銀行の調査では、このまま対策を
何も講じない場合、世界の年間国内総生産(GDP)は、2050 年には 2017 年比で 3.8%減少する可能
性があり、この数値は 2008 年に発生した金融危機と同程度であることから、世界経済が危機的状況に
陥るのは明白であるとも言われている4。
以上のことから、薬剤耐性(AMR)は、世界的に深刻な健康上の脅威として取り上げられ、先進7カ
国(G7)の保健分野における取り組むべき優先事項の1つとして認識されているほか、世界保健機関
(WHO)は薬剤耐性(AMR)対策を重要な政策アジェンダに取り上げている5。我が国は先進7カ国(G
7)の一員として、国内での対策はもとより、世界、特にアジア地域における薬剤耐性(AMR)対策の主
導力を発揮すべき立場にある。
1
Jim O'Neill, “The Review on Antimicrobial Resistance. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and
Recommendations.,” May 2016
2
菌血症とは血液中に細菌が入り込んだ状態。さまざまな感染症が菌血症の原因となるが、菌血症をきたすとより重症となり
死亡率が高くなる。
3
S Tsuzuki, et al., National trend of blood-stream infection attributable deaths caused by Staphylococcus aureus and
Escherichia coli in Japan. J Infect Chemother. 2020; 26(4): 367-371
4
World Bank, “Drug-resistant infections: a threat to our economic future: final report,” May 2017
5
World Health Organization, 10 global health issues to track in 2021, 24 December 2020
薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027) | 4