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【参考資料2】長谷川参考人提出資料 (11 ページ)

公開元URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_49021.html
出典情報 精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会(第4回 1/15)《厚生労働省》
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精神科病院における身体的拘束

これらの事例のうち、平成 28(2016)年 12 月に石川県野々市市の精神科病院内で身体的拘
束後に患者が死亡した事例については、表 4 に記したとおり、遺族が病院側に損害賠償を求め
た訴訟を提起し、勝訴した。名古屋高等裁判所は 2 審において「身体的拘束は、身体の隔離よ
りも更に人権制限の度合いが著しいものであり…当該患者の生命の保護や重大な身体損傷を防
ぐことに重点を置いたものであるから、これを選択するに当たっては特に慎重な配慮を要する」
と述べ、「医師の判断は、早きに失し、精神保健指定医に認められた身体的拘束の必要性の判
断についての裁量を逸脱するものであり、本件身体的拘束を開始したことは違法というべきで
ある。」とする判決を下した(22)。
この判決について、当事者団体である「全国「精神病」者集団」は、「本判決の意義は、従
来の判決のように精神保健指定医が判断したという形式要件にとどまらず、精神保健指定医の
判断の中身に関する実体要件にまで目が向けられたこと」にあるとして、判決を評価した(23)。
他方、日本精神科病院協会は声明を発表し、同判決が「今後の精神科医療のあり方に対して
(24)
と批判した。同協会の山崎
多大な影響を及ぼすものとして、到底容認できるものではない。


學会長は令和 3(2021)年 11 月の記者会見において、身体的拘束は精神保健福祉法で定められ
厳格に管理されている診察行動であり、現場の患者の状態を知らない裁判長が判決を出すのは
容認できず、
人員が揃(そろ)わない場合は拘束を必要とする患者を断ることになると述べた(25)。



身体的拘束が広く実施されている背景

以上に挙げたとおり、身体的拘束には人権上の問題があるとの指摘があり、様々な弊害をも
たらすとされ、時には患者を死に至らしめる危険があることも知られている。他方、現在もな
お 1 万人を超える患者に対して身体的拘束が実施されている。その数は平成 29(2017)年にピー
クとなるまで増加を続け、過去 5 年間においても横ばいの状況であり、減少に転じたとは言い
がたい。
平成 20(2008)年 11 月から 翌年 3 月にかけて、精神科病院 15 か所の医療従事者を対象に
実施したアンケート調査によれば、回答者の 91.7% が、隔離及び身体的拘束の「適切な使用
により問題の重篤化を防ぐことができる」としている(26)。このような認識の背景にある要因
について述べた主な見解を、以下に掲げる(27)。


認知症等の増加
身体的拘束が行われる理由として「転倒転落」及び「身体的検査処置の安全な施行を損なう

㉒ 令和 2 年 12 月 16 日名古屋高等裁判所金沢支部判決 判例時報 2504 号 95 頁
㉓ 「上告しないことを求める要望書」2021.1.9. 全国「精神病」者集団ウェブサイト <https://jngmdp.net/2021/01/
09/20210109-2/>
㉔ 日本精神科病院協会「声明 令和 3 年(受)第 526 号上告受理申立て事件に対する最高裁第 3 小法廷の不受理
決定について」2021.11.22. <https://www.nisseikyo.or.jp/about/teigen/images/20211122_seimei.pdf>
㉕ 社会保険研究所「日精協が身体拘束を違法とする判決に抗議(11 月 26 日)」2021.11.29. <https://media.shaho.
co.jp/n/n55ba271e56ad>
㉖ 長谷川利夫『精神科医療の隔離・身体拘束』日本評論社, 2013, p.68.
㉗ 国内の文献検討を通じて身体的拘束の課題を整理した研究として次の論文があり、本稿の執筆に当たって参考
とした。岩澤敦史・井上善行「精神科病院における身体拘束の課題と最小化を目指すために必要な要因―国内の
文献検討を通して―」
『日本赤十字看護学会誌』23(1), 2022, pp.36-45. <https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrcsns/23/
1/23_230105/_pdf/-char/ja>

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レファレンス

884 号

国立国会図書館 調査及び立法考査局

2024. 8

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