精神科病院における身体的拘束

１ 「行動制限最小化委員会」の設立と活動
（1）診療報酬における行動制限最小化委員会の設置の義務付け
平成 10（1998）年、国立犀潟病院において違法な隔離及び身体的拘束の長期間の実施によ
る患者死亡事故等が発覚したことを契機に、これらの行動制限の最小化に向けた努力とその明
確な指針が求められるようになった。
まず、平成 11（1999）年度から平成 12（2000）年度にかけて、障害保健福祉総合研究事業
として「精神科医療における行動制限の最小化に関する研究」が実施された。同研究において
精神科病床を有する全国の病院を対象に隔離・拘束の実態調査（69）が行われ、その結果を踏ま
えて「精神科医療における行動制限の最小化に関する指針」が作成された。さらに、研究に参
加した 9 病院に対して一定期間「行動制限審査委員会」を設置して検証を行い、病院内審査機
関による行動制限の評価が行動制限の適正化・最小化に有効であるとの結果を得た（70）。
この研究結果を受けて、平成 16（2004）年度の診療報酬改定において新設された医療保護
入院（71）等診療料の中で行動制限最小化委員会の設置が義務付けられた。すなわち、精神科を
標榜する病院で医療保護入院等診療料を算定する場合は、必ず行動制限最小化委員会を設置し
なければならないこととされた（72）。その後、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行
規則」（昭和 25 年厚生省令第 31 号）第 5 条の 2 第 5 項において、精神科病院の基準として「精
神科病院に入院中の者に対する行動の制限がその症状に応じて最も制限の少ない方法により行
われているかどうかを審議するため、行動制限最小化委員会を設けていること。」が加えられた。
行動制限最小化委員会とは、各精神科病院内に設置され、病院全体の行動制限の動向把握、
隔離・拘束等の行動制限の妥当性の検討、職員への教育など、行動制限最小化の活動を推進す
る組織であり、医師（指定医 1 名以上）、看護師、精神保健福祉士、事務職、その他各病院に
おいて行動制限最小化の検討・推進に必要とされる職種の職員から成る（73）。
（2）行動制限最小化委員会の実態把握と業務マニュアルの作成
各病院が医療保護入院等診療料を算定するためには、少なくとも月 1 回、行動制限最小化委
員会において入院医療についての定期的な評価を行う必要がある。しかし、同委員会の活動状
況に関する調査が不足していたことから、令和 3（2021）年度における障害者総合福祉推進事
業として、行動制限最小化委員会の活動に係る実態調査が実施された（74）。
調査対象病院のうち、行動制限最小化委員会が隔離・拘束症例に対して勧告や介入を行った


浅井邦彦編『精神科医療における行動制限の最小化に関する研究 ―精神障害者の行動制限と人権確保のあり
方―』
（平成 11 年度厚生科学研究費補助金（障害保健福祉総合研究事業））2000. 厚生労働科学研究成果データベー
ス <https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/3219>
 浅井邦彦編『精神科医療における行動制限の最小化に関する研究 ―精神障害者の行動制限と人権確保のあり方
―第 2 報』（平成 12 年度厚生科学研究費補助金（障害保健福祉総合研究事業））2001. 厚生労働科学研究成果デー
タベース <https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/4181>
 入院させなければ自傷他害のおそれのある精神障害者について、本人の代わりに家族等が同意することによっ
て入院させることができる制度。精神保健福祉法第 33 条の規定による。
 日本精神科病院協会『行動制限最小化委員会の業務のためのマニュアル』2022, p.4. <https://www.nisseikyo.or.jp/
about/hojokin/images/2021_45_manual.pdf>
 その他委員会活動の透明性を担保するため、弁護士やピアサポーターなど、外部委員を置くことも可能とされ
る。
 日本精神科病院協会『行動制限最小化委員会の実態に関する研究―報告書―』（令和 3 年度障害者総合福祉推
進事業）2022. 厚生労働省ウェブサイト <https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000963625.pdf>

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レファレンス

884 号

国立国会図書館 調査及び立法考査局

2024. 8

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