よむ、つかう、まなぶ。
【参考資料2】長谷川参考人提出資料 (47 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_49021.html |
出典情報 | 精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会(第4回 1/15)《厚生労働省》 |
ページ画像
ダウンロードした画像を利用する際は「出典情報」を明記してください。
低解像度画像をダウンロード
プレーンテキスト
資料テキストはコンピュータによる自動処理で生成されており、完全に資料と一致しない場合があります。
テキストをコピーしてご利用いただく際は資料と付け合わせてご確認ください。
特集
「強制入院」の体験を語る
拘束生活をやりすごすためには、意思、感情
たい気持ちや“病気”に対する治療どころか、
なるものは大きな邪魔だった。自分はそれらを
懲罰にしか思えなかった。そしてこの懲罰は、
持つに値しない存在であることも、思い知らさ
自傷他害のリスクをゼロにと相手を抑えつける
れていた。そして現に、縛られて天井を眺める
方向に進んでいく「管理のメガネ」と、どんな
時 間 は、 そ れ ら の 芽 を 1 つ 1 つ 丁 寧 に 摘 み
言動も症状としてカテゴライズして病者である
取った。
ことを強化する「病理のメガネ」で成り立って
毎
日律儀にも「今自分を傷つけたいとか、
いた。そうして蝕まれ続けて 3 週間、私は静
死にたいとか、そういう気持ちはありま
かな“モノ”と化し、懲罰は終わった。
すか」とすっかり形骸化した質問をしてくる看
護師に、
「ないです」と答えるだけの日々に
なっていた。この質問に正直に答えて、生き地
獄を自ら引き延ばす人がいるとは思えなかった。
“モノ”になってからは、私は自発的に言葉
を発することをやめ、周囲に期待し助けを求め
死
にたい気持ちや“病気”への対応が、懲
罰と感じられるものであってはならな
い。そう思っていない人が多いからこそ、少な
ることを一切やめた。いつもよりきつく縛られ
くとも私ひとりくらいは大声で言い張らなくて
ようと、私はゴミなのだから、と溜飲を下げ
はならない。他の人には忌むべきものや理解で
た。胸のあたりは常に空虚で、あらゆる悪意や
きないものに見えても、当人は自分なりの物語
ひずみを吸い尽くすブラックホールと化してい
を持ってその状態に置かれている。懲罰を受け
た。
る理由も、懲罰によって改善する理由もない。
私が大事にしてほしかったことは、自分なり
の物語を持った人間として認識してもらうこ
こ
と、その物語について通じ合う言葉で誰かと話
の生活で得たものは何だったのだろう
し合うことだった。例えば、育ってきた環境、
か。拘束のもとで、こころに湧き上がる
それによって染み付いた考え方、今現在感じ
ものは逐一粉々にされ抑え込まれた。私の周り
取っている世界、自傷に至るまでのトリガーの
の人から見れば、リストカットの傷跡がなけれ
数々。こういった断片化した物語の存在を認識
ば、身体が死ななければ、それでいいのだ。一
し、共に考え、編み直す必要がある。ところ
方私にとっては、こころこそが住処であり、そ
が、そこに取り組んでくれる支援者やコミュニ
れを必死に保つために身体を切るのであって、
ティに出会う機会は未だ少ない。
あらゆる手段を封じ込められた時のこころの死
こそが死であった。この点でも、
“こころの専
門家”であるはずの精神科医をはじめとする周
退
院日。3 週間ぶりにシャバに出ると、呼
吸も苦しいほどの熱気が体にまとわりつ
いた。寝たきり生活で筋力の落ちた足は、自分
りの人が、見かけでわかる行動ばかりに注目し
の体を支えるのに懸命だった。病院にやって来
て、それを抑えようと働きかけるのは侵襲的に
た時とは別世界だった。
感じられた。
別世界は、いつまでも通常の世界に戻らな
権力性と恐怖心を必然的に伴う拘束は、死に
閲覧情報:医学書院 10001
47
かった。私は常にガラス越しに世界と相対して
vol.24 no.6 精神看護 Nov 2021
523
2024/12/11 10:32:22
「強制入院」の体験を語る
拘束生活をやりすごすためには、意思、感情
たい気持ちや“病気”に対する治療どころか、
なるものは大きな邪魔だった。自分はそれらを
懲罰にしか思えなかった。そしてこの懲罰は、
持つに値しない存在であることも、思い知らさ
自傷他害のリスクをゼロにと相手を抑えつける
れていた。そして現に、縛られて天井を眺める
方向に進んでいく「管理のメガネ」と、どんな
時 間 は、 そ れ ら の 芽 を 1 つ 1 つ 丁 寧 に 摘 み
言動も症状としてカテゴライズして病者である
取った。
ことを強化する「病理のメガネ」で成り立って
毎
日律儀にも「今自分を傷つけたいとか、
いた。そうして蝕まれ続けて 3 週間、私は静
死にたいとか、そういう気持ちはありま
かな“モノ”と化し、懲罰は終わった。
すか」とすっかり形骸化した質問をしてくる看
護師に、
「ないです」と答えるだけの日々に
なっていた。この質問に正直に答えて、生き地
獄を自ら引き延ばす人がいるとは思えなかった。
“モノ”になってからは、私は自発的に言葉
を発することをやめ、周囲に期待し助けを求め
死
にたい気持ちや“病気”への対応が、懲
罰と感じられるものであってはならな
い。そう思っていない人が多いからこそ、少な
ることを一切やめた。いつもよりきつく縛られ
くとも私ひとりくらいは大声で言い張らなくて
ようと、私はゴミなのだから、と溜飲を下げ
はならない。他の人には忌むべきものや理解で
た。胸のあたりは常に空虚で、あらゆる悪意や
きないものに見えても、当人は自分なりの物語
ひずみを吸い尽くすブラックホールと化してい
を持ってその状態に置かれている。懲罰を受け
た。
る理由も、懲罰によって改善する理由もない。
私が大事にしてほしかったことは、自分なり
の物語を持った人間として認識してもらうこ
こ
と、その物語について通じ合う言葉で誰かと話
の生活で得たものは何だったのだろう
し合うことだった。例えば、育ってきた環境、
か。拘束のもとで、こころに湧き上がる
それによって染み付いた考え方、今現在感じ
ものは逐一粉々にされ抑え込まれた。私の周り
取っている世界、自傷に至るまでのトリガーの
の人から見れば、リストカットの傷跡がなけれ
数々。こういった断片化した物語の存在を認識
ば、身体が死ななければ、それでいいのだ。一
し、共に考え、編み直す必要がある。ところ
方私にとっては、こころこそが住処であり、そ
が、そこに取り組んでくれる支援者やコミュニ
れを必死に保つために身体を切るのであって、
ティに出会う機会は未だ少ない。
あらゆる手段を封じ込められた時のこころの死
こそが死であった。この点でも、
“こころの専
門家”であるはずの精神科医をはじめとする周
退
院日。3 週間ぶりにシャバに出ると、呼
吸も苦しいほどの熱気が体にまとわりつ
いた。寝たきり生活で筋力の落ちた足は、自分
りの人が、見かけでわかる行動ばかりに注目し
の体を支えるのに懸命だった。病院にやって来
て、それを抑えようと働きかけるのは侵襲的に
た時とは別世界だった。
感じられた。
別世界は、いつまでも通常の世界に戻らな
権力性と恐怖心を必然的に伴う拘束は、死に
閲覧情報:医学書院 10001
47
かった。私は常にガラス越しに世界と相対して
vol.24 no.6 精神看護 Nov 2021
523
2024/12/11 10:32:22