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【参考資料2】長谷川参考人提出資料 (45 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_49021.html |
出典情報 | 精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会(第4回 1/15)《厚生労働省》 |
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特集
「強制入院」の体験を語る
ける苦しみを、相手が植え付ける恐怖によって
抑え込まされる経験は、暴力を振るわれて黙ら
されているのと何ら変わらなかった。
いう希望をあっけなく潰した。
絶望のあまり、この時の記憶は曖昧になって
いる。拘束されないために、という思いで取っ
た行動もあえなく“衝動行為”と認定され、拘
束の継続につながったのだ。もう、いつ拘束が
恐
はずれるのか、いつこの地獄のような場所から
怖政治が具現化した、忘れられない日が
逃げられるのか、全くわからなくなってしまっ
ある。入院して 1 週間が経ち、初めて拘
た。
束を 2 時間だけはずすことが許可された日の
拘束が早くはずれるようにと、この状況に適
ことだ。その 2 時間を、デイルームで漫画を
応した良い子を振る舞う意思の力はガラガラ崩
読んで過ごした後、看護師に「そろそろ時間だ
れ、仮面の奥にいた自分が必死で訴えた。なぜ
から部屋に戻るよ」と告げられ、再び拘束を受
このような扱いを受けねばならないのか。なぜ
けた。
医療者は全く聞く耳を持ってくれないのか。そ
さっきまで何ともなく過ごしていた人間の体
ういったことを言ったと思う。ベッドに縛りつ
に、流れ作業のように拘束具がつけられてい
けられながら「助けてください」と嘆願する私
く。何ならこれからアルバイトだってできるだ
をよそに、医師は去り際に「病院の物を壊した
ろうコンディションの今の自分が、1 秒でも拘
ら弁償してもらうからね!」とありもしないこ
束を受けるのは、ただの人権侵害に過ぎない。
とを叱りつけていった。そして、この一連のエ
それを甘んじて受け入れるのは難しかった。
ピソードは躁の症状として片付けられた。何も
加えて看護師は、以前より胴をきつく縛り
ロックしたのだ。拘束がきついと当然お腹の痛
みや擦れなどの違和感も強くなれば、横を向く
時も、ご飯で起き上がる時も可動域が狭くな
かもが病気の名の下に封じ込められた。
状
況の救いようのなさに、私は声を上げて
わんわん泣いた。泣き声を聞きつけた看
護師がやって来て言った。
「泣くのはいいけ
る。この無頓着な加害が私にとどめを刺した。
ど、他の患者さんがびっくりするから声は出さ
も私を人間として評価していない。誰も
ないでもらっていい?」
。私がなぜ泣いている
私が感じている痛みと絶望を知らない。
かには関心もないのだろうか。
「あなたには拘
この打ち震えるほどの大きな悲しみと怒りを、
束をされている人の気持ちがわからないでしょ
自分の内に秘めておくことが誰にできるだろう
う」
。そう言ってみると「うん、わからないよ」
か。それでも、抵抗を顕にしたら拘束を追加さ
とバッサリやられる。あぁ、またやってしまっ
れるのは明らかなので、必死の妥協策として枕
た。この人たちに共感を求めることほど愚かな
元に置いてあったタンブラーをシェイクしてな
ことはないのだ。
誰
んとか感情を紛らわした。ところが、床に漏れ
私の話す言葉は日本語のはずなのに、誰にも
た水飛沫をみて、看護師はすぐさま医師を呼ん
届かない。どんな感情の発露も、医師には握り
だ。
「これは衝動行為ね」
「明日から拘束の解除
潰され看護師にはいなされて、宙に消えてい
はできないから」
。医師の一声は、わずかに残
く。どんな必死の願いもはね返るばかり。違う
されていた、拘束がだんだん解除されていくと
国にひとり放り込まれたかのように、誰とも共
閲覧情報:医学書院 10001
45
vol.24 no.6 精神看護 Nov 2021
521
2024/12/11 10:32:22
「強制入院」の体験を語る
ける苦しみを、相手が植え付ける恐怖によって
抑え込まされる経験は、暴力を振るわれて黙ら
されているのと何ら変わらなかった。
いう希望をあっけなく潰した。
絶望のあまり、この時の記憶は曖昧になって
いる。拘束されないために、という思いで取っ
た行動もあえなく“衝動行為”と認定され、拘
束の継続につながったのだ。もう、いつ拘束が
恐
はずれるのか、いつこの地獄のような場所から
怖政治が具現化した、忘れられない日が
逃げられるのか、全くわからなくなってしまっ
ある。入院して 1 週間が経ち、初めて拘
た。
束を 2 時間だけはずすことが許可された日の
拘束が早くはずれるようにと、この状況に適
ことだ。その 2 時間を、デイルームで漫画を
応した良い子を振る舞う意思の力はガラガラ崩
読んで過ごした後、看護師に「そろそろ時間だ
れ、仮面の奥にいた自分が必死で訴えた。なぜ
から部屋に戻るよ」と告げられ、再び拘束を受
このような扱いを受けねばならないのか。なぜ
けた。
医療者は全く聞く耳を持ってくれないのか。そ
さっきまで何ともなく過ごしていた人間の体
ういったことを言ったと思う。ベッドに縛りつ
に、流れ作業のように拘束具がつけられてい
けられながら「助けてください」と嘆願する私
く。何ならこれからアルバイトだってできるだ
をよそに、医師は去り際に「病院の物を壊した
ろうコンディションの今の自分が、1 秒でも拘
ら弁償してもらうからね!」とありもしないこ
束を受けるのは、ただの人権侵害に過ぎない。
とを叱りつけていった。そして、この一連のエ
それを甘んじて受け入れるのは難しかった。
ピソードは躁の症状として片付けられた。何も
加えて看護師は、以前より胴をきつく縛り
ロックしたのだ。拘束がきついと当然お腹の痛
みや擦れなどの違和感も強くなれば、横を向く
時も、ご飯で起き上がる時も可動域が狭くな
かもが病気の名の下に封じ込められた。
状
況の救いようのなさに、私は声を上げて
わんわん泣いた。泣き声を聞きつけた看
護師がやって来て言った。
「泣くのはいいけ
る。この無頓着な加害が私にとどめを刺した。
ど、他の患者さんがびっくりするから声は出さ
も私を人間として評価していない。誰も
ないでもらっていい?」
。私がなぜ泣いている
私が感じている痛みと絶望を知らない。
かには関心もないのだろうか。
「あなたには拘
この打ち震えるほどの大きな悲しみと怒りを、
束をされている人の気持ちがわからないでしょ
自分の内に秘めておくことが誰にできるだろう
う」
。そう言ってみると「うん、わからないよ」
か。それでも、抵抗を顕にしたら拘束を追加さ
とバッサリやられる。あぁ、またやってしまっ
れるのは明らかなので、必死の妥協策として枕
た。この人たちに共感を求めることほど愚かな
元に置いてあったタンブラーをシェイクしてな
ことはないのだ。
誰
んとか感情を紛らわした。ところが、床に漏れ
私の話す言葉は日本語のはずなのに、誰にも
た水飛沫をみて、看護師はすぐさま医師を呼ん
届かない。どんな感情の発露も、医師には握り
だ。
「これは衝動行為ね」
「明日から拘束の解除
潰され看護師にはいなされて、宙に消えてい
はできないから」
。医師の一声は、わずかに残
く。どんな必死の願いもはね返るばかり。違う
されていた、拘束がだんだん解除されていくと
国にひとり放り込まれたかのように、誰とも共
閲覧情報:医学書院 10001
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