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【参考資料2】長谷川参考人提出資料 (9 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_49021.html |
出典情報 | 精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会(第4回 1/15)《厚生労働省》 |
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精神科病院における身体的拘束
(2)身体的弊害
身体的拘束は、関節の拘縮、筋力の低下、圧迫部位の褥瘡(じょくそう)の発生、食欲の低
下、心肺機能・感染症への抵抗力の低下などの身体的弊害をもたらすとされている(14)。
加えて、深部静脈血栓症等を発症し、突然死に至る場合もある(15)。日本精神科病院協会の
会員病院による平成 6(1994)~平成 29(2017)年の事故報告を同協会が分析した調査によれ
ば、全事故報告 5,993 例における突然死の割合は 6.8% だったのに対し、身体的拘束に係る事
故報告 137 例における突然死の割合は、31.4% であり、身体的拘束事例において突然死の比率
が高いことが示された。また、身体的拘束事例において死因が明らかになっているもののうち、
最も多いのは肺動脈血栓塞栓症であった(16)。なお、身体的拘束が原因で患者が死亡した主な
事例については 4 で述べる。
(3)精神的弊害
身体的拘束によって、本人に怒り、屈辱、あきらめ等の多大な精神的苦痛を与え、人間とし
ての尊厳を侵すこと(17)、身体的拘束が認知症を進行させ、せん妄を頻発させるおそれがある
こと、家族に対しても、混乱、後悔、罪悪感による大きな精神的苦痛を与えること、看護師等
も自らが行うケアに誇りが持てなくなり、士気の低下を招くことなどが指摘されている(18)。
(4)社会的弊害
介護福祉施設等においては、身体的拘束は看護・介護スタッフの士気を低下させ、施設に対
する社会的な不信や偏見を引き起こす等の弊害をもたらすことが指摘されている(19)。同様の
ことが精神科病院についても当てはまり、例えば身体的拘束中に患者が死亡又は負傷するなど
の事件が発生した場合には、精神科病院の信用の大きな失墜につながる(20)。
4
身体的拘束による患者の死亡事例
精神科病院において患者が身体的拘束により死亡した事例や、身体的拘束による死亡の可能
性が疑われる事例が、少なからず報道されている。また、平成 28(2016)年 1 月から平成 30(2018)
年 11 月までの間に拘束後に死亡した患者のうち、身体的拘束との「因果関係がある」か「因
果関係が否定できない」と判断された事案について、読売新聞が取材したところ、いずれかに
⒁ 『身体拘束ゼロへの手引き―高齢者ケアに関わるすべての人に―』前掲注⑶, p.6. 同書は介護の現場に関わる
人々に向けて作成されたものであるが、身体的拘束に係る 3 つの弊害(身体的弊害、精神的弊害、社会的弊害)
に関する記述(p.6)は、精神科病院における身体的拘束の弊害に言及する際にもしばしば挙げられる。
⒂ 須藤康彦「身体拘束をめぐる諸問題」『日本精神科病院協会雑誌』41(6), 2022.6, p.26.
⒃ 岩下覚「行動制限に関連した医療事故―日精協に寄せられた事故報告書に基づく検討―」『日本精神科病院協
会雑誌』37(12), 2018.12, pp.23-27.
⒄ 身体的拘束はトラウマ的な体験として長期にわたる苦痛を患者にもたらす場合があるが、患者本人からはその
ことがなかなか語られず、医療従事者には察知しがたいことが指摘されている。明間正人「身体拘束の弊害をど
のように伝えていくか―医療安全を全人的な観点からとらえ直す―」『精神科看護』48(3), 2021.3, pp.10-12.
⒅ 『身体拘束ゼロへの手引き―高齢者ケアに関わるすべての人に―』前掲注⑶
⒆ 同上
⒇ 例として、平成 10(1998)年 5 月、国立療養所犀潟病院において患者が身体的拘束中に死亡した事件が挙げら
れる。この事件を受け、厚生省保健医療局国立病院部長は各国立病院・療養所・センター長宛てに発出した通知
において、
「我が国の精神医療に対する社会的信用を損ね、また、国立医療機関としての信頼を失墜させた」とし、
精神保健福祉法や告示 130 号基準の遵守に万全を期すよう指示した。前掲注⑸を参照。
68
レファレンス
884 号
国立国会図書館 調査及び立法考査局
2024. 8
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(2)身体的弊害
身体的拘束は、関節の拘縮、筋力の低下、圧迫部位の褥瘡(じょくそう)の発生、食欲の低
下、心肺機能・感染症への抵抗力の低下などの身体的弊害をもたらすとされている(14)。
加えて、深部静脈血栓症等を発症し、突然死に至る場合もある(15)。日本精神科病院協会の
会員病院による平成 6(1994)~平成 29(2017)年の事故報告を同協会が分析した調査によれ
ば、全事故報告 5,993 例における突然死の割合は 6.8% だったのに対し、身体的拘束に係る事
故報告 137 例における突然死の割合は、31.4% であり、身体的拘束事例において突然死の比率
が高いことが示された。また、身体的拘束事例において死因が明らかになっているもののうち、
最も多いのは肺動脈血栓塞栓症であった(16)。なお、身体的拘束が原因で患者が死亡した主な
事例については 4 で述べる。
(3)精神的弊害
身体的拘束によって、本人に怒り、屈辱、あきらめ等の多大な精神的苦痛を与え、人間とし
ての尊厳を侵すこと(17)、身体的拘束が認知症を進行させ、せん妄を頻発させるおそれがある
こと、家族に対しても、混乱、後悔、罪悪感による大きな精神的苦痛を与えること、看護師等
も自らが行うケアに誇りが持てなくなり、士気の低下を招くことなどが指摘されている(18)。
(4)社会的弊害
介護福祉施設等においては、身体的拘束は看護・介護スタッフの士気を低下させ、施設に対
する社会的な不信や偏見を引き起こす等の弊害をもたらすことが指摘されている(19)。同様の
ことが精神科病院についても当てはまり、例えば身体的拘束中に患者が死亡又は負傷するなど
の事件が発生した場合には、精神科病院の信用の大きな失墜につながる(20)。
4
身体的拘束による患者の死亡事例
精神科病院において患者が身体的拘束により死亡した事例や、身体的拘束による死亡の可能
性が疑われる事例が、少なからず報道されている。また、平成 28(2016)年 1 月から平成 30(2018)
年 11 月までの間に拘束後に死亡した患者のうち、身体的拘束との「因果関係がある」か「因
果関係が否定できない」と判断された事案について、読売新聞が取材したところ、いずれかに
⒁ 『身体拘束ゼロへの手引き―高齢者ケアに関わるすべての人に―』前掲注⑶, p.6. 同書は介護の現場に関わる
人々に向けて作成されたものであるが、身体的拘束に係る 3 つの弊害(身体的弊害、精神的弊害、社会的弊害)
に関する記述(p.6)は、精神科病院における身体的拘束の弊害に言及する際にもしばしば挙げられる。
⒂ 須藤康彦「身体拘束をめぐる諸問題」『日本精神科病院協会雑誌』41(6), 2022.6, p.26.
⒃ 岩下覚「行動制限に関連した医療事故―日精協に寄せられた事故報告書に基づく検討―」『日本精神科病院協
会雑誌』37(12), 2018.12, pp.23-27.
⒄ 身体的拘束はトラウマ的な体験として長期にわたる苦痛を患者にもたらす場合があるが、患者本人からはその
ことがなかなか語られず、医療従事者には察知しがたいことが指摘されている。明間正人「身体拘束の弊害をど
のように伝えていくか―医療安全を全人的な観点からとらえ直す―」『精神科看護』48(3), 2021.3, pp.10-12.
⒅ 『身体拘束ゼロへの手引き―高齢者ケアに関わるすべての人に―』前掲注⑶
⒆ 同上
⒇ 例として、平成 10(1998)年 5 月、国立療養所犀潟病院において患者が身体的拘束中に死亡した事件が挙げら
れる。この事件を受け、厚生省保健医療局国立病院部長は各国立病院・療養所・センター長宛てに発出した通知
において、
「我が国の精神医療に対する社会的信用を損ね、また、国立医療機関としての信頼を失墜させた」とし、
精神保健福祉法や告示 130 号基準の遵守に万全を期すよう指示した。前掲注⑸を参照。
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レファレンス
884 号
国立国会図書館 調査及び立法考査局
2024. 8
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