【参考資料2】薬剤耐性ワンヘルス動向調査報告書2023 (88 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_47987.html |
出典情報 | 薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会(第12回 1/8)《厚生労働省》 |
ページ画像
プレーンテキスト
資料テキストはコンピュータによる自動処理で生成されており、完全に資料と一致しない場合があります。
テキストをコピーしてご利用いただく際は資料と付け合わせてご確認ください。
要である。金森班では、東京湾沿岸の水再生センターでの環境水中から、臨床で分離されることが少
ない KPC-2 産生肺炎桿菌 Klebsiella pneumoniae(Sequence type 11:ST11)を分離し、ST11 は
東アジアで広範に分離される臨床分離株と同一型であったこと 1、創傷感染症で稀に分離されるアエ
ロモナス属菌が KPC-2 を保有していたこと 2、NDM-1 よりも広域活性を獲得した NDM-5 カルバペ
ネマーゼを保有する大腸菌が分離されたこと等を報告しており 3、国内事情が少しずつ明らかになり
つつある。また、大阪・淀川流域における病院排水、下水処理場の流入水・放流処理水、および河川
水の包括的な AMR 調査が実施され報告されている。オゾン処理されていない下水処理場の放流処理
水から多様な ARB が分離されることや病院排水による環境 AMR 負荷が試算されている 4。海外の実
態と同様、本邦の環境水においても少なからず ARB が分離されている実状がある。
環境 AMR、さらには残留抗菌薬の調査法を確立し、実態調査を行っていくことが重要であること
から、環境水中の薬剤耐性の調査法として、下水処理場の放流処理水のメタゲノム解析法の手順書を
作成した。メタゲノム解析法に加えて、従来の培養法も重要であり、薬剤耐性遺伝子の検出だけでな
く、下水中の生きた薬剤耐性菌の特徴を分析した。メタゲノム解析と培養法によるアプローチの両方
を行うことによって、環境水中の薬剤耐性の全体像を理解することにつながることが期待される。
また、金森班では、全国的な環境水 AMR 調査に加えて、地域の病院排水、地域の養豚場の下水の
環境 AMR 調査、地域の下水処理水の残留抗菌薬測定といった、日本における環境 AMR の実態調査
を実施している。これらの調査により得られた知見と環境 AMR に関する文献レビュー結果をもとに
リスク評価を行っていく必要がある。海外の環境 AMR の文献を整理するために、環境中の薬剤耐性
に対するイニシアチブ:現状と課題(原文:Initiatives for Addressing Antimicrobial Resistance in
the Environment: Current Situation and Challenges. 2018)を翻訳した 5。環境 AMR 対策の重要事
項として、1)廃棄物が適切に処理されていない場合、当該環境は廃棄物に含まれ得る抗菌薬および
薬剤耐性菌で汚染されるおそれがあること、2)廃棄物に含まれる抗菌薬や薬剤耐性菌の環境汚染が
人間の健康に与える影響については十分に理解されていないこと、3)薬剤耐性菌の人の健康へのリ
スクを理解するため、環境水のどこに、どれだけの薬剤耐性菌が存在しているか評価する必要がある
こと、4)環境水中の薬剤耐性菌を測定するためにサンプリングと試験方法を評価し、プラクティス
を標準化することなどが挙げられている。また、日本の文献レビューでは、処理後の流出水中や、そ
の流出水が流入する河川水中には相当量の薬剤耐性菌・耐性遺伝子が残存しており、環境汚染が懸念
されるということが示されている。また、本邦における臨床分離頻度が稀な薬剤耐性菌(KPC-2 や
NDM-5 産生菌等)が下水中から検出されており、下水からは市中の薬剤耐性モニタリングに有用な
サンプルを採取することが可能であることが報告されている。このように、国内外において環境中の
薬剤耐性の存在証明がなされているが、環境 AMR の調査法や評価基準が定まっていないことから、
人や動物へのリスクに関するエビデンスが不十分であるという現状がある。
日本における下水 AMR について文献レビューを行った 6 結果、1991 年~2021 年の対象論文 37 報
のうち、26 報は AMR、10 報は抗菌薬、1 報は AMR と抗菌薬の両方について報告するものであった。
日本の下水中に ESBL 産生菌、CRE、MDRP、MDRA、MRSA、VRE などの臨床的に重要な ARB、
ARG、残留抗菌薬の存在が示された。病院排水は臨床的に重要な薬剤耐性菌のリザーバーである可能
性があるが、病院排水中の ARB のヒトへの直接的リスクは明らかではない。また、日本で一般的に
使用される抗菌薬は、下水中の AMR が増殖しやすい環境が生み出され、さらには増殖による AMR
の拡散に寄与するおそれがある。このようなことからヒト、動物、環境における AMR 対策を推進し
83