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【参考資料2】薬剤耐性ワンヘルス動向調査報告書2023 (89 ページ)

公開元URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_47987.html
出典情報 薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会(第12回 1/8)《厚生労働省》
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ていく必要があるが、ヒトや動物と比べて環境中の AMR に関する知見はまだ乏しいため、日本にお
ける環境 AMR の実態調査や研究の進展が期待される。
これまで、院内感染事例では、実地疫学と分離菌の分子疫学解析の結果に基づいて、感染伝播や健
康影響のリスク評価を行う取組が行われてきているが、上述のとおり概して環境由来の薬剤耐性菌が
ヒト等の健康に影響を与えていることを示す研究結果は乏しい。海外では、河川灌漑水が原因と推定
される野菜の汚染 7 や水系レクリエーションにおける AMR への曝露リスク等への評価 8 も少しずつで
あるが報告されつつあるためある一定のリスク循環が想定されている。現時点において環境リスクを
論じるための確たる基準設定が難しい状況ではあるが、環境 AMR を定量的に調査・評価すること、
そして健康リスクを評価しうる研究の実施や国内外の主要文献のレビューとリスクアセスメントを通
して、環境 AMR 負荷の主要因を解明し、ヒトおよび動物への健康リスクへと発展しているのかを探
究していくことが急務である。環境中の薬剤耐性のヒト・動物へのリスクを評価するために、感染症
へのヒト-動物-環境インターフェイスでの多分野にわたるワンヘルス・アプローチが不可欠である 9。

② 環境研究総合推進費課題成果(令和2年度~令和4年度)10
様々な薬剤や薬剤耐性菌を含む排水が最終的に流入する水環境は、薬剤耐性菌が拡大するリザーバ
ーとなっている可能性が指摘されており、薬剤耐性菌の拡大を抑制するためにも、水環境における薬
剤耐性遺伝子の伝播メカニズムを明らかにすることが重要である。そこで、令和2年度~令和4年度
環境研究総合推進費課題「環境中における薬剤耐性遺伝子の伝播ポテンシャルと伝達機構の解明」に
おいて、日本の主要河川を対象とした薬剤耐性菌の分布調査、in vitro 伝達実験を用いた薬剤耐性遺
伝子の伝播ポテンシャルの評価実験等が実施された。
薬剤耐性菌の分布調査では、東北地方の8つの河川(赤川、最上川、雄物川、岩木川、馬淵川、北
川、名取川、阿武隈川)を対象とした調査を実施した。全ての河川において、河川水中の大腸菌濃度
は、採水日で A 類型の環境基準を満たし、大腸菌汚染が少ないと判定された。検出された大腸菌を分
離・同定し、18 薬剤に対する薬剤感受性を評価した。その結果、試験した抗菌薬に対して 1 薬剤以
上に耐性を示す薬剤耐性大腸菌が 26.8%検出され、アンピシリンに対して最多の 178 株(24.2%)が
耐性を示した 11)。また、ABPC に耐性を示した菌株のうち、セフォタキシムとセファゾリンに耐性を
示す株がそれぞれ 23 株(3.5%)と 1 株(0.2%)検出された。全大腸菌単離株ののうち 10%が異なる
3 薬剤以上に耐性を示す多剤耐性菌(アンピシリン、アモキシシリン/クラブラン酸、テトラサイクリ
ン、キノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン、レボフロキサシン)であった。また、WHO により危
険性が高いと位置づけられる ESBL 産生大腸菌も検出された。赤川と最上川の 1 年間の河川モニタリ
ングを行うことで、ESBL 産生大腸菌を分離することができたことから、その分離株の ESBL 産生遺
伝子(bla)の特徴づけを行った。試験した 21 種類の bla のうち 17 種類が検出され、blaCTX-M-group-1
が最も多く検出された。注目すべき点は、国内型カルバペネマーゼである blaIMP だけでなく、国内で
の検出事例が少ないために海外型とされる blaKPC や blaOXA-48、blaVIM、blaNDM も検出された点である。
地点ごとに bla の検出数を比較すると、下水処理場の直下で分離された株から、最も多い 15 種類の

bla が検出された。臨床医療の現場だけでなく、市中で生活する健常者もまた、河川に生息する薬剤
耐性菌の排出源になっていることを示す結果が得られた。
in vitro 伝達実験を用いた薬剤耐性遺伝子の伝播ポテンシャルの評価実験では、腸球菌と大腸菌を
モデル細菌として、環境を模擬した in vitro 伝達実験を行った結果、腸球菌では vanA のみ伝播が確
認され、供与菌と受容菌の組み合わせによっては伝播ポテンシャルが 10-3~10-7 の範囲であることが
確認された。また、河川水などの液相中では伝播が確認されず、菌体が集積する環境である活性汚泥

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