【資料1】薬剤耐性ワンヘルス動向調査報告書2022(たたき台) (81 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29073.html |
出典情報 | 薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会(第10回 11/21)《厚生労働省》 |
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一般的に、人的活動による汚物は下水処理場等の生活排水処理施設で排水基準まで処理されて環境
(河川・海洋)へと放流される。ワンヘルス・アプローチに基づく環境 AMR で注視すべき対象は、
人的活動による汚物が下水処理場等の生活排水処理施設で排水基準まで処理されて環境(河川・海
洋)へと放流される環境水の中にどのような薬剤耐性菌(遺伝子)が存在し、我々の日常生活へどの
ように循環しリスクへと発展しうるのかを評価することにある。
現状、どの程度の薬剤耐性菌(AMR bacteria:ARB)およびそれらに由来する薬剤耐性遺伝子
(AMR gene:ARG)が環境へと排泄され負荷を与え続けているのかについて、定量的な報告はわず
かであり、系統だった全国調査が必須であると考えられる。そこで、本邦行政として継続的な環境
AMR 調査のため、厚生労働省科学研究費課題「環境中における薬剤耐性菌及び抗微生物剤の調査法
等の確立のための研究. 代表: 金森肇 H30-R02」の研究班が編成された。平成 30 年度~令和 2 年度
において本研究班で環境 AMR モニタリングに資する手順書を作成し、環境水の薬剤耐性菌及び残留
抗菌薬の調査方法の確立に向けた研究を実施した。放流処理水の環境 AMR モニタリング調査を全国
展開するための体制を構築し、地方自治体の環境負荷の実態が遺伝子レベルで解明した。また、国内
外の文献レビューを行い、環境中の薬剤耐性に関する現状と課題を明らかにした。
4 年間(2018~2021 年度)の成果として、次世代シークエンサーによる環境水から ARG 等の網羅
的配列解読法(メタゲノム解析)を構築し(国立感染症研究所・病原体ゲノム解析研究センター)、
39 自治体からご提供頂いた下水処理場・放流水サンプル(2018 夏・8月、2019 冬・2月、2019
夏・8 月、2020 冬・2 月、2020 夏・8 月、2021 冬・2月、2021 夏・8 月、2022 冬・2 月の計 446
サンプル)のメタゲノム解析を実施した。4年間(計 8 回)の継続調査の結果、2020 年冬以降から
新型コロナウイルス発生の影響と推定される ARG の増減が確認された。サルファ剤
(Sulphonamide)耐性遺伝子が 2020 年冬までは増加傾向であったところ、2020 年夏で顕著な減少
を示し、2022 年冬までの2年間は低い水準を維持していた。マクロライド耐性遺伝子は 2020 年冬に
減少傾向を一旦示すものの、2022 年冬では新型コロナウイルス発生以前の水準にまで増加し戻って
いることが確認された。この一時的なマクロライド耐性遺伝子の検出減少を説明する理由は定かでは
ないが、新型コロナウイルス発生に伴う自粛要請で呼吸器感染症(インフルエンザウイルス、RS ウ
イルス等)全般の発生事例が極端に減少し、ヒトに対するマクロライド系薬の使用が減少したことが
関係している可能性が示唆された。また、キノロン耐性遺伝子においても同様の減少傾向が見られ、
ヒトに対するキノロン系薬の使用量が減少したこととの関連が示唆されるが、キノロン耐性大腸菌の
分離状況とは乖離が見られた。本研究班におけるメタゲノム解析では外来性獲得である oqx および
qnr 遺伝子を検出対象としているため、キノロン剤阻害ターゲットである gyrA および parC 遺伝子上
のキノロン耐性決定領域(quinolone resistance– determining regions:QRDR)の変異は判定してい
ない。少なくとも、外来性獲得の頻度が低下して好ましい状況へ近づきつつあるのかもしれないが、
更なる継続調査が必須である。本研究班のメタゲノム解析法は世界的なメタゲノム解析法に準じたも
のであり、各国からの報告と比較する上においても重要な情報提供ができたと考えている。全国自治
体の排水処理施設を網羅するためにも、さらに費用対効果の優れたメタゲノム解析手法の開発も推進
すべきである。引き続き、自治体のご協力を仰ぎながら年 2 回(夏および冬)の全国調査を実施し、
本邦の環境 AMR(Resistome)の基盤を整備していく予定である。
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