よむ、つかう、まなぶ。
【別添】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント(第3.0版) (32 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00402.html |
出典情報 | 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント(第3.0版)(10/20)《厚生労働省》 |
ページ画像
ダウンロードした画像を利用する際は「出典情報」を明記してください。
低解像度画像をダウンロード
プレーンテキスト
資料テキストはコンピュータによる自動処理で生成されており、完全に資料と一致しない場合があります。
テキストをコピーしてご利用いただく際は資料と付け合わせてご確認ください。
●新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き
別冊
罹患後症状のマネジメント・第 3.0 版 ● 5 嗅覚・味覚症状へのアプローチ
【嗅覚・味覚障害の発生機序】
嗅覚障害の発生機序に関して,動物や感染者の死体を用いた研究が進められている.SARS-
CoV-2 ウイルス表面のスパイクタンパク質に対する受容体はアンギオテンシン変換酵素2
(ACE2)であり,鼻腔内では嗅粘膜の支持細胞に多く含まれることが明らかとなった.ま
た,ウイルスが細胞内に取り込まれるために必要とされるタンパク分解酵素(TMPRSS2)も
ACE2 同様,支持細胞に多く含まれる.ウイルスは ACE2 および TMPRSS2 の作用により嗅
上皮に取り込まれ,嗅粘膜の炎症性腫脹による嗅覚障害が生じているものと推測されている.
この炎症が速やかに消退し嗅粘膜の腫脹が改善すると嗅覚障害も比較的早期に改善する.一方,
障害が長期間持続するものについては,その機序は十分に解明されていないが,障害が支持細
胞にとどまらず,嗅神経細胞まで波及するため,嗅覚障害が持続し,罹患後症状として訴えら
れることが考えられる.味覚障害に関してはその機序は十分に解明されておらず,前述の厚生
労働特別研究において,味覚障害患者の多くが味覚障害単独ではなく嗅覚障害を伴っているこ
と,味覚障害を訴えていても味覚検査で異常値を示す患者が少ないことから,多くの味覚障害
は嗅覚障害に伴う風味障害を来しているものと思われる.
【臨床的特徴】
パンデミック発生初期において,嗅覚・味覚障害は,他の上気道炎症状を伴うことなく,突
然発症することが注目を浴びた.発症様式が従来の嗅覚・味覚障害とは異なるため,米国疾病
予防管理センターは,突然に発症する嗅覚・味覚障害は COVID-19 を疑う症状と警鐘を発し
た.欧州の報告でも,嗅覚・味覚障害が 80%以上発生するのに対して,明らかな鼻閉,鼻漏,
咽頭痛など上気道炎症状の出現率は約 10%と低率であった.一方,2021 年のアルファ流行時,
わが国では,鼻漏,鼻閉,咽頭痛などの上気道炎症状が 50%以上の患者で出現するとともに,
これらの症状は嗅覚障害の発生と有意な相関を示した.
COVID-19 における嗅覚・味覚障害のもう 1 つの特徴は,発症当時は高度の障害であるにも
関わらず,数週で多くの症例が改善することである.英国の調査では,嗅覚障害患者のうち,
発症直後には 86.4%が嗅覚脱失を,12%が重度の嗅覚低下を示したのに対し,1 週間後の調
査では 80%が改善を示し,12%は嗅覚正常と回答した.厚生労働科学特別研究事業三輪班の
調査においても発症直後の時点では 62%の患者が嗅覚脱失であったが,
調査時(発症後平均 8.9
日)では嗅覚脱失者は 30%にまで減少していた.また,MRI を用いた研究では,発症早期には,
嗅粘膜の存在する嗅裂部の浮腫による閉塞(嗅裂閉塞)が多くの症例でみられるのに対し,1
カ月後の同一症例での撮影では嗅裂閉塞を認める症例が減少していることが報告されている.
一方,発症後数カ月にわたり改善しない症例も少なからず認められる.三輪班のその後の調
査では,発症 6 カ月後に嗅覚障害,味覚障害を認める例はそれぞれ 12%,6%,1 年後に残存
する例はそれぞれ 6%,4%であった.この残存率は福永班の報告(詳細は 1 章:罹患後症状
を参照)ともほぼ一致する.
COVID-19 罹患後,遷延する嗅覚障害の特徴として,異嗅症の発生頻度の高さが指摘されて
おり,三輪班の追跡調査においても,1年後に嗅覚障害が残存する患者の半数以上が異嗅症を
訴えていた.
31
別冊
罹患後症状のマネジメント・第 3.0 版 ● 5 嗅覚・味覚症状へのアプローチ
【嗅覚・味覚障害の発生機序】
嗅覚障害の発生機序に関して,動物や感染者の死体を用いた研究が進められている.SARS-
CoV-2 ウイルス表面のスパイクタンパク質に対する受容体はアンギオテンシン変換酵素2
(ACE2)であり,鼻腔内では嗅粘膜の支持細胞に多く含まれることが明らかとなった.ま
た,ウイルスが細胞内に取り込まれるために必要とされるタンパク分解酵素(TMPRSS2)も
ACE2 同様,支持細胞に多く含まれる.ウイルスは ACE2 および TMPRSS2 の作用により嗅
上皮に取り込まれ,嗅粘膜の炎症性腫脹による嗅覚障害が生じているものと推測されている.
この炎症が速やかに消退し嗅粘膜の腫脹が改善すると嗅覚障害も比較的早期に改善する.一方,
障害が長期間持続するものについては,その機序は十分に解明されていないが,障害が支持細
胞にとどまらず,嗅神経細胞まで波及するため,嗅覚障害が持続し,罹患後症状として訴えら
れることが考えられる.味覚障害に関してはその機序は十分に解明されておらず,前述の厚生
労働特別研究において,味覚障害患者の多くが味覚障害単独ではなく嗅覚障害を伴っているこ
と,味覚障害を訴えていても味覚検査で異常値を示す患者が少ないことから,多くの味覚障害
は嗅覚障害に伴う風味障害を来しているものと思われる.
【臨床的特徴】
パンデミック発生初期において,嗅覚・味覚障害は,他の上気道炎症状を伴うことなく,突
然発症することが注目を浴びた.発症様式が従来の嗅覚・味覚障害とは異なるため,米国疾病
予防管理センターは,突然に発症する嗅覚・味覚障害は COVID-19 を疑う症状と警鐘を発し
た.欧州の報告でも,嗅覚・味覚障害が 80%以上発生するのに対して,明らかな鼻閉,鼻漏,
咽頭痛など上気道炎症状の出現率は約 10%と低率であった.一方,2021 年のアルファ流行時,
わが国では,鼻漏,鼻閉,咽頭痛などの上気道炎症状が 50%以上の患者で出現するとともに,
これらの症状は嗅覚障害の発生と有意な相関を示した.
COVID-19 における嗅覚・味覚障害のもう 1 つの特徴は,発症当時は高度の障害であるにも
関わらず,数週で多くの症例が改善することである.英国の調査では,嗅覚障害患者のうち,
発症直後には 86.4%が嗅覚脱失を,12%が重度の嗅覚低下を示したのに対し,1 週間後の調
査では 80%が改善を示し,12%は嗅覚正常と回答した.厚生労働科学特別研究事業三輪班の
調査においても発症直後の時点では 62%の患者が嗅覚脱失であったが,
調査時(発症後平均 8.9
日)では嗅覚脱失者は 30%にまで減少していた.また,MRI を用いた研究では,発症早期には,
嗅粘膜の存在する嗅裂部の浮腫による閉塞(嗅裂閉塞)が多くの症例でみられるのに対し,1
カ月後の同一症例での撮影では嗅裂閉塞を認める症例が減少していることが報告されている.
一方,発症後数カ月にわたり改善しない症例も少なからず認められる.三輪班のその後の調
査では,発症 6 カ月後に嗅覚障害,味覚障害を認める例はそれぞれ 12%,6%,1 年後に残存
する例はそれぞれ 6%,4%であった.この残存率は福永班の報告(詳細は 1 章:罹患後症状
を参照)ともほぼ一致する.
COVID-19 罹患後,遷延する嗅覚障害の特徴として,異嗅症の発生頻度の高さが指摘されて
おり,三輪班の追跡調査においても,1年後に嗅覚障害が残存する患者の半数以上が異嗅症を
訴えていた.
31