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【別添】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント(第3.0版) (58 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00402.html |
出典情報 | 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント(第3.0版)(10/20)《厚生労働省》 |
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●新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き
別冊
罹患後症状のマネジメント・第 3.0 版 ● 10 小児へのアプローチ
対照群との比較を行った研究が少なくとも 20 あり(2023 年 6 月 1 日時点)
,そのうち 2
つは国内で実施された(詳細は「1 章 罹患後症状」参照).これらの研究の多くは COVID-19
症例群で対照群よりも有意に多く症状が遷延していることを示しているが,両群の差はそれほ
ど大きくない.多くの研究で嗅覚・味覚障害や倦怠感は症例群で有意に多く認められている一方,
対照群により多く認められる症状もあった.メンタルヘルスに関わるさまざまな症状(悲し
み,うつ,睡眠障害,気分変動など)は症例群でも対照群でも高頻度に認められた.また QOL
の調査でも症例群が対照群より低いとする報告もあれば,対照群の方がむしろ低いとする報告
もある.前者についても感染に伴う制約(隔離,登校禁止など)の影響であって,COVID-19
自体によるものではない可能性がある.さらに重要なことは,複数の学校において無作為に
SARS-CoV-2 抗体検査と質問票による調査を行い,population-based seronegative control
との比較が行われた 2 つの研究では,症例群と対照群との間に有意差を認めなかったことである.
つまり,多くの研究デザインでは選択バイアスや想起バイアスのために,症例群において
より多くの訴えが出てくる可能性を考えると,研究対象となった年齢群は元々非特異的な
愁訴が多く,それにコロナ禍の心理社会的ストレスが拍車をかける形となっているために,
COVID-19 罹患の有無に関わらず,多くの子どもたちに症状が認められたと考えられる.また
対照群として別の感染症に罹患した症例群を置いた研究がほとんどないため,嗅覚・味覚障害
を除くと COVID-19 症例群に特徴的な症状があるのかどうかも明らかでない.
一方で,症例群において心筋炎,急性呼吸窮迫症候群,急性肺塞栓症,静脈性血栓塞栓症,
急性腎不全などの血管性病変の合併症や,1 型糖尿病のような自己免疫性合併症のハザード比
が有意に高いことも報告されている.遷延する症状のリスク因子として,
急性期の重症度や元々
の健康状態の不良があげられた研究もあり,心肺機能検査を実施した研究では,症例群におい
て有意に異常所見を検出している.以上から,成人でみられる罹患後症状が小児でも稀ながら
起こる可能性がある.罹患後症状の発症に関わるリスク因子としては,年長児,急性 SARS-
CoV-2 感染の重症度,基礎疾患の存在,COVID-19 ワクチン未接種などがあげられている.
なおオミクロンになって罹患後症状の発症率が下がったことが,成人同様に小児でも認められ
ている.
以上の研究結果をまとめると,①小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや
高く,特に複数の症状を有する場合が多い,②成人での報告と比べると少なく,特に年少児は
年長児と比べて少ない,③症状の内訳は,嗅覚障害を除くと,対照群との間に大きな違いはな
い,④対照群においてもメンタルヘルスに関わる症状を含め,多くの訴えが認められる,⑤対
照群を population-based seronegative control とした研究では,症例群と対照群との間に罹
患後症状の有病率の有意差を認めない,⑥小児においても稀に成人にみられるような循環器系・
呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性がある,となる.
したがって,小児の罹患後症状を単一の疾患概念として捉える根拠には乏しく,何か画一的
な治療法がすべての患児に適しているとも考えにくい.器質性疾患の鑑別診断を確実に行うと
ともに,心身両面からの付加的な診断を行うことも必須であり,メンタルヘルスの専門家を含
めた多職種のチームが対応に当たることが求められる(
「10-3 症状へのアプローチ」参照)
.
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別冊
罹患後症状のマネジメント・第 3.0 版 ● 10 小児へのアプローチ
対照群との比較を行った研究が少なくとも 20 あり(2023 年 6 月 1 日時点)
,そのうち 2
つは国内で実施された(詳細は「1 章 罹患後症状」参照).これらの研究の多くは COVID-19
症例群で対照群よりも有意に多く症状が遷延していることを示しているが,両群の差はそれほ
ど大きくない.多くの研究で嗅覚・味覚障害や倦怠感は症例群で有意に多く認められている一方,
対照群により多く認められる症状もあった.メンタルヘルスに関わるさまざまな症状(悲し
み,うつ,睡眠障害,気分変動など)は症例群でも対照群でも高頻度に認められた.また QOL
の調査でも症例群が対照群より低いとする報告もあれば,対照群の方がむしろ低いとする報告
もある.前者についても感染に伴う制約(隔離,登校禁止など)の影響であって,COVID-19
自体によるものではない可能性がある.さらに重要なことは,複数の学校において無作為に
SARS-CoV-2 抗体検査と質問票による調査を行い,population-based seronegative control
との比較が行われた 2 つの研究では,症例群と対照群との間に有意差を認めなかったことである.
つまり,多くの研究デザインでは選択バイアスや想起バイアスのために,症例群において
より多くの訴えが出てくる可能性を考えると,研究対象となった年齢群は元々非特異的な
愁訴が多く,それにコロナ禍の心理社会的ストレスが拍車をかける形となっているために,
COVID-19 罹患の有無に関わらず,多くの子どもたちに症状が認められたと考えられる.また
対照群として別の感染症に罹患した症例群を置いた研究がほとんどないため,嗅覚・味覚障害
を除くと COVID-19 症例群に特徴的な症状があるのかどうかも明らかでない.
一方で,症例群において心筋炎,急性呼吸窮迫症候群,急性肺塞栓症,静脈性血栓塞栓症,
急性腎不全などの血管性病変の合併症や,1 型糖尿病のような自己免疫性合併症のハザード比
が有意に高いことも報告されている.遷延する症状のリスク因子として,
急性期の重症度や元々
の健康状態の不良があげられた研究もあり,心肺機能検査を実施した研究では,症例群におい
て有意に異常所見を検出している.以上から,成人でみられる罹患後症状が小児でも稀ながら
起こる可能性がある.罹患後症状の発症に関わるリスク因子としては,年長児,急性 SARS-
CoV-2 感染の重症度,基礎疾患の存在,COVID-19 ワクチン未接種などがあげられている.
なおオミクロンになって罹患後症状の発症率が下がったことが,成人同様に小児でも認められ
ている.
以上の研究結果をまとめると,①小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや
高く,特に複数の症状を有する場合が多い,②成人での報告と比べると少なく,特に年少児は
年長児と比べて少ない,③症状の内訳は,嗅覚障害を除くと,対照群との間に大きな違いはな
い,④対照群においてもメンタルヘルスに関わる症状を含め,多くの訴えが認められる,⑤対
照群を population-based seronegative control とした研究では,症例群と対照群との間に罹
患後症状の有病率の有意差を認めない,⑥小児においても稀に成人にみられるような循環器系・
呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性がある,となる.
したがって,小児の罹患後症状を単一の疾患概念として捉える根拠には乏しく,何か画一的
な治療法がすべての患児に適しているとも考えにくい.器質性疾患の鑑別診断を確実に行うと
ともに,心身両面からの付加的な診断を行うことも必須であり,メンタルヘルスの専門家を含
めた多職種のチームが対応に当たることが求められる(
「10-3 症状へのアプローチ」参照)
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