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【別添】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント(第3.0版) (49 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00402.html |
出典情報 | 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント(第3.0版)(10/20)《厚生労働省》 |
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●新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き
別冊
罹患後症状のマネジメント・第 3.0 版 ●8 “ 痛み ” へのアプローチ
図 8-1 考えられる SARS-CoV-2 感染による疼痛発生・遷延機序と関連要因
① SARS-CoV-2 による神経・筋組織への直接傷害
神経細胞や筋細胞の表面の ACE2 受容体を介して SARS-CoV-2 が細胞内へ侵入し直接的に傷害される.また,
神経障害性疼痛においてはニューロフィラメントの軽鎖が増加する.
② SARS-CoV-2 の心筋および胸膜細胞への感染
特に胸痛の原因としてこの機序が推測されている.
③炎症性サイトカインによる傷害
SARS-CoV-2 がマクロファージなどの表面の Toll-like receptor:TLR(主に TLR3/4)に結合することでサイ
トカイン(IL1 β,TNF α,IL-6 など)が放出され,それらにより脊髄後根神経節や中枢神経組織や筋組織が傷
害を受ける.
④ ACE2/ レニン - アンギオテンシン系(RAS)との関連による機序
SARS-CoV-2 感染時,ウイルスは ACE2 受容体と結合して細胞内にとりこまれ,結果的に ACE2 の代謝経路の
減少とともに炎症による痛みへの拮抗作用減少につながり,症状が顕性化する.
⑤廃用や心身医学的要因に伴う痛み
重症感染症では PICS なども含めて筋力低下や疲労感・倦怠感が出現するが,加えて心身医学的な要因も相まっ
て症状の遷延化が起こる.
病態機序については,現在のところ解明されていないが,さまざまな報告をもとに関連要因
と考えられるものについて整理する.図 8-1 において,機序①などについては急性期の反応と
されているが,同時に起こる機序③の影響は長期にわたり,症状の遷延につながる可能性も考
えられている.COVID-19 罹患者では,感染後 3 カ月以内に四肢末梢神経障害症状が発生(感
染者 28.8% vs 非感染者 12.9%,OR[95%信頼区間]= 2.72[2.10-3.54]
)し,その症状
が感染後 3 カ月以上続く者が多く(6.1% vs 1.9%, OR = 3.39[1.91-6.03]
)
,また四肢の
痛みの発生も非感染者より多いと報告されている(24.2% vs 9.8%, OR = 2.95 [2.21-3.91] ).
SARS-CoV-2 感染は,慢性疼痛と末梢神経障害のそれぞれ発生リスクと独立しながらも関連
することが示されている(OR = 3.49 [2.53-4.81]; 3.19 [2.37-4.29] )
.
また,骨格筋の傷害については,急性感染後(軽度~中等度)の骨格筋の筋線維の損傷,ミ
トコンドリアの変化,炎症,毛細血管の損傷などの組織学的変化,MRI 上で進行中の炎症やジ
ストロフィー像は確認されないものの,拡散テンソル画像(DTI)で微細構造の異常が認められ,
デコンディショニングによる可逆的な筋線維減少を反映する可能性が報告されている.
なお , これらの機序はそれぞれ単独で起こるものではなく,複雑に絡み合いながら生じ,そ
うした複雑性が痛みの多様性とともに,遷延・難治化の一因にもなると考えられる.機序⑤の
ように,痛みが持続することによる不活動や心身の不調も影響する可能性がある.COVID-19
罹患後に運動習慣を維持する者が減り,身体活動量が減ることで肥満,CRP 値の上昇,ビタミ
ン D 値の低下,COVID-19 罹患後の疲労や関節痛・筋痛の有病率が高まり,身体パフォーマ
ンス能力も低下する.集中治療室で治療を受けた COVID-19 罹患者では,1 年後にも身体的,
精神的,認知的な症状が頻繁に報告され,そのなかでも最も頻繁に報告された新規の症状は衰
弱の約 40%に続き,関節のこわばり,関節痛,筋力低下,筋痛がそれぞれ約 25%であったと
報告されている.PICS や床上安静,不活動(廃用)症候群などを含めた治療プロセスによる
影響や実社会(就労現場など)に戻る際の心身の負荷なども,生活のなかで経験する痛みやそ
の持続に大きく影響を及ぼすと考えられる.健康関連 QOL について,COVID-19 罹患後の持
続する痛みや疲労,呼吸困難感の症状は深刻な影響を与えるが,脊椎手術後の慢性疼痛患者に
比べると COVID-19 罹患後患者の方が良いようである.機序⑤のような場合,明確な臓器障
害が身体検査上認められなくても疼痛が認められることがあり得る.加えて,慢性疼痛患者で
みられる,不安や感作関連症状も罹患後疼痛の程度と関連しており,このような要因が複合的
に影響し罹患後疼痛を発生・持続させていると考えられる.
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別冊
罹患後症状のマネジメント・第 3.0 版 ●8 “ 痛み ” へのアプローチ
図 8-1 考えられる SARS-CoV-2 感染による疼痛発生・遷延機序と関連要因
① SARS-CoV-2 による神経・筋組織への直接傷害
神経細胞や筋細胞の表面の ACE2 受容体を介して SARS-CoV-2 が細胞内へ侵入し直接的に傷害される.また,
神経障害性疼痛においてはニューロフィラメントの軽鎖が増加する.
② SARS-CoV-2 の心筋および胸膜細胞への感染
特に胸痛の原因としてこの機序が推測されている.
③炎症性サイトカインによる傷害
SARS-CoV-2 がマクロファージなどの表面の Toll-like receptor:TLR(主に TLR3/4)に結合することでサイ
トカイン(IL1 β,TNF α,IL-6 など)が放出され,それらにより脊髄後根神経節や中枢神経組織や筋組織が傷
害を受ける.
④ ACE2/ レニン - アンギオテンシン系(RAS)との関連による機序
SARS-CoV-2 感染時,ウイルスは ACE2 受容体と結合して細胞内にとりこまれ,結果的に ACE2 の代謝経路の
減少とともに炎症による痛みへの拮抗作用減少につながり,症状が顕性化する.
⑤廃用や心身医学的要因に伴う痛み
重症感染症では PICS なども含めて筋力低下や疲労感・倦怠感が出現するが,加えて心身医学的な要因も相まっ
て症状の遷延化が起こる.
病態機序については,現在のところ解明されていないが,さまざまな報告をもとに関連要因
と考えられるものについて整理する.図 8-1 において,機序①などについては急性期の反応と
されているが,同時に起こる機序③の影響は長期にわたり,症状の遷延につながる可能性も考
えられている.COVID-19 罹患者では,感染後 3 カ月以内に四肢末梢神経障害症状が発生(感
染者 28.8% vs 非感染者 12.9%,OR[95%信頼区間]= 2.72[2.10-3.54]
)し,その症状
が感染後 3 カ月以上続く者が多く(6.1% vs 1.9%, OR = 3.39[1.91-6.03]
)
,また四肢の
痛みの発生も非感染者より多いと報告されている(24.2% vs 9.8%, OR = 2.95 [2.21-3.91] ).
SARS-CoV-2 感染は,慢性疼痛と末梢神経障害のそれぞれ発生リスクと独立しながらも関連
することが示されている(OR = 3.49 [2.53-4.81]; 3.19 [2.37-4.29] )
.
また,骨格筋の傷害については,急性感染後(軽度~中等度)の骨格筋の筋線維の損傷,ミ
トコンドリアの変化,炎症,毛細血管の損傷などの組織学的変化,MRI 上で進行中の炎症やジ
ストロフィー像は確認されないものの,拡散テンソル画像(DTI)で微細構造の異常が認められ,
デコンディショニングによる可逆的な筋線維減少を反映する可能性が報告されている.
なお , これらの機序はそれぞれ単独で起こるものではなく,複雑に絡み合いながら生じ,そ
うした複雑性が痛みの多様性とともに,遷延・難治化の一因にもなると考えられる.機序⑤の
ように,痛みが持続することによる不活動や心身の不調も影響する可能性がある.COVID-19
罹患後に運動習慣を維持する者が減り,身体活動量が減ることで肥満,CRP 値の上昇,ビタミ
ン D 値の低下,COVID-19 罹患後の疲労や関節痛・筋痛の有病率が高まり,身体パフォーマ
ンス能力も低下する.集中治療室で治療を受けた COVID-19 罹患者では,1 年後にも身体的,
精神的,認知的な症状が頻繁に報告され,そのなかでも最も頻繁に報告された新規の症状は衰
弱の約 40%に続き,関節のこわばり,関節痛,筋力低下,筋痛がそれぞれ約 25%であったと
報告されている.PICS や床上安静,不活動(廃用)症候群などを含めた治療プロセスによる
影響や実社会(就労現場など)に戻る際の心身の負荷なども,生活のなかで経験する痛みやそ
の持続に大きく影響を及ぼすと考えられる.健康関連 QOL について,COVID-19 罹患後の持
続する痛みや疲労,呼吸困難感の症状は深刻な影響を与えるが,脊椎手術後の慢性疼痛患者に
比べると COVID-19 罹患後患者の方が良いようである.機序⑤のような場合,明確な臓器障
害が身体検査上認められなくても疼痛が認められることがあり得る.加えて,慢性疼痛患者で
みられる,不安や感作関連症状も罹患後疼痛の程度と関連しており,このような要因が複合的
に影響し罹患後疼痛を発生・持続させていると考えられる.
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