Ａ．米国における医療用医薬品の供給・報告義務
１． 医療保障制度概要 1）
米国の医療制度の特徴は、①国民皆保険制度

①メディケア（Medicare）1）、5）
ア. メディケアの概要

のように広く一般国民を対象にした公的医療保障

るメディケア（高齢者医療保険制度）への加入資格

制度がなく民間保険主導型であること、②無保険者

が得られる。また、65 歳未満であっても、障害年金

が多いこと、がある。公的医療保険制度は存在して

を 2 年以上受給している者、腎移植または人工腎

いるが、対象者は原則として高齢者及び低所得者

透析を受けている者も対象になる。2020 年のメディ

に限られている。65 歳未満成人でみると、2009 年ま

ケア全体の加入者は 6,155 万人であり 6）、2020 年

での景気後退から脱却し失業率減少の兆しが見え

の支出額は 9,008 億ドルで総医療費の 21％を占め

始めた 2010 年以降、無保険者数は減少傾向にあ

ている。メディケアはパート A、B、C、D の 4 つの部

り、オバマ政権による医療保険改革において、国民

門で構成されている。

米国では、65 歳以上になると連邦政府が運営す

に対して民間医療保険への加入を奨励したことによ
り、2022 年 12 月のデータでは、2021 年時点で約

メディケアは連邦機関であるメディケア＆メディケ

2,750 万人（10.2％）と推計されている 2）。バイデン

イドサービスセンター（CMS:Centers for Medicare &
Medicaid Services）によって運営され、メディケア信

政権下でも Affordable Care Act（ACA）が継続的に

託基金によって資金提供を受けている。病院保険

施行されており、2020 年の無保険率は 2018 年と同

（HI：Hospital Insurance）信託基金は、給与税や所

水準であるものの、過去最低であった 2016 年の無

得税、メディケアパート A の保険料から調達され、メ

保険率（9.1%）を上回り、250 万人以上増加した。

ディケアパート A（病院保険）の給付とメディケアプ
2021 年の総医療支出は 4.3 兆ドルであり、前年

ログラムの管理（給付金の支払い、メディケア税の徴

比+2.7％、GDP の 18.3％を占める。そのうち、メディ

収、不正・濫用の防止等に使用される。補足医療保

ケア 9,008 億ドル（前年比：+8.4％、総医療支出の

険（SMI：Supplementary Medical Insurance）信託基

21％）、メディケイド 7,340 億ドル（前年比：+9.2％、

金は、議会によって承認された資金や、メディケア

総医療費支出の 17％）と増加傾向である。国民医

パート B と メディケアパート D の保険料、信託基金

療費は、2021 年～2030 年の間、平均年率 5.1％で

への投資で得られた利子などから調達され、パート

3）

B 特典・パート D・メディケアプログラムの管理（給付

成長すると予測されている 。

金の支払いや詐欺や虐待との闘いの費用など）の
（1） 公的医療保険と運営組織 4）

ために使用される 7。

国民皆保険制度を導入している日本とは異なり、
米国の公的医療保険制度には受給資格がある人

イ. メディケアにおける薬剤給付 1）

のみ加入できる。主な公的医療保険制度としては、

メディケアにおける薬剤給付の構成は次のように

メディケア（Medicare）とメディケイド（Medicaid）があ

整理される。外来薬剤給付（処方薬剤に対する給

る。その他に、特定の子供が加入できる児童医療保

付）は、パート B 及び D が中心となっている。

険プログラム（CHIP：Children's Health Insurance
〇パート A：主に院内薬剤給付を含む病院費用を

Program）、退役軍人が加入できる保険制度（VHA：
Veterans Health Administration）などが存在する。こ

カバーするが、処方箋医薬品給付は含まない。

れらの制度の対象者以外は、勤務先（雇用主）が加

〇パート B8）：主に診療所（ドクターズオフィス）内で

入している民間医療保険への加入を検討する必要

医師の治療の一環として使用される薬剤のうち、報

があり、大部分の人が民間医療保険に加入してい

酬が包括化されていない部分の薬剤が給付対象で

る。

あり、処方薬剤の給付範囲は限定されている。給付

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