【参考資料4】抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 本編 (36 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_45318.html |
出典情報 | 厚生科学審議会 感染症部会 薬剤耐性(AMR)に関する小委員会 抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会(第6回 11/19)《厚生労働省》 |
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第三版
腸管感染症以外の疾患であったとする報告もある 109 ことから、症状のみをもって「急性胃腸炎」
と決めつけることは控える必要がある。
鑑別に際しては、下痢の性状(水様下痢と血性下痢のどちらであるか)及び下痢の重症度 注13
を考慮することが重要と指摘されている 98。特に、日常生活に大きな支障のある重症の血性下痢
で体温が 38℃以上の場合や、動くことはできるが下痢のために活動が制限される中等症以上の
水様下痢で海外(主に発展途上国)から帰国して約 1 週間以内の場合には、細菌性腸炎(腸チフ
ス、サルモネラ腸炎、カンピロバクター腸炎、腸管毒素原性大腸菌等)やアメーバ赤痢である可
能性を考慮 98,110 して、渡航医学や感染症の専門家に相談の上、検査と抗菌薬投与を含む治療を
検討することが重要と指摘されている。
小児の場合でも、急性下痢症のほとんどがウイルスに起因すると指摘されている 111。嘔吐で始
まり、臍周囲の軽度から中等度の腹痛や圧痛がある、血便がなく水様下痢である、発熱がない
(ないし微熱である)、激しい腹痛がない、家族や周囲の集団に同様の症状がある、といった場
合には、ウイルス性の急性下痢症らしい症候であると指摘されている。一方で、血便が存在する
場合には、腸管出血性大腸菌感染症等の細菌性腸炎の他、腸重積、メッケル憩室、上部消化管潰
瘍等多くの疾患の鑑別が必要と指摘されている 112,113。
ウイルスに起因する急性下痢症
(i)
ウイルスに起因する急性下痢症については、ロタウイルスの他に、成人ではノロウイルスが急
性下痢症の代表的な原因微生物であると指摘されている 100,106。汚染された加熱不十分な二枚貝
の摂食により感染することが有名であるが、ヒトからヒトへの感染も少なくないことが報告され
ている 114。ノロウイルス感染症の潜伏期間は通常、半日~2 日程度であり、急な吐き気と嘔吐か
ら始まることが多く、水様下痢の出現はそれよりもやや遅れると指摘されている 115。嘔吐はほ
とんどの場合、約 1 日で治まり、下痢は多くの場合、2~3 日間で軽快するが、長い人では 7~10
日間続くこともある 116,117。発熱は伴わないか、発熱があっても 2 日間以内のことが多い 116 ため、
2 日間を超えて発熱が続く場合には単なるウイルス性の急性下痢症以外を考える必要がある。
ノロウイルスについては、便の迅速抗原検査が保険収載されており注14、その検査キットの感
度については、最近では 87.4~93.1%まで改善したことが報告されている 118-121。しかしながら、
ノロウイルスの流行期に典型的な急性下痢症の患者全員に対して迅速抗原検査を行うことは、検
査陰性でもノロウイルス感染症の可能性が否定できないことから、意義が低いと考えられている。
感染対策の観点からは、原因は問わず、吐物や排泄物は感染性があるものとして対処することが
重要であり、迅速抗原検査が陰性だからといって感染対策が疎かになることは避けなければなら
ない。
注13
下痢の重症度:軽症は、日常生活に支障のないもの、中等症は、動くことはできるが日常生活に制限のあるもの、重症は
日常生活に大きな支障のあるもの。
注14
保険適用は、2023 年 10 月現在、3歳未満の患者、65 歳以上の患者、悪性腫瘍の診断が確定している患者、臓器移植後の
患者、抗悪性腫瘍剤・免疫抑制剤又は免疫抑制効果のある薬剤を投与中の患者のいずれかに該当する場合に認められてい
る。
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