【参考資料4】抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 本編 (49 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_45318.html |
出典情報 | 厚生科学審議会 感染症部会 薬剤耐性(AMR)に関する小委員会 抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会(第6回 11/19)《厚生労働省》 |
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第三版
(2) 抗菌薬の延期処方とは
近年、急性気道感染症における抗菌薬使用削減のための戦略として、 抗菌薬の延期処方
(Delayed Antibiotics Prescription: DAP)に関する科学的知見が集まってきている 92-94,136。DAP
は、初診時に抗菌薬投与の明らかな適応がない患者に対して、その場で抗菌薬を投与するのでは
なく、その後の経過が思わしくない場合にのみに抗菌薬を投与する手法であり、不必要な処方を
減らすためにも有効であることから、英国では急性気道感染症に関する国の指針において DAP
が推奨されている 137,138。日本において DAP を行う場合は、初診時は抗菌薬を処方せず、症状が
悪化した場合や遷延する場合に再度受診をしてもらい、改めて抗菌薬処方の必要性を再評価する
という方法が考えられる。
海外の事例を一例として挙げると、スペインで行われた多施設無作為化比較試験では、18 歳
以上の急性気道感染症(急性咽頭炎、急性鼻副鼻腔炎、急性気管支炎、軽症から中等症の慢性閉
塞性肺疾患急性増悪)で、抗菌薬の明らかな適応がないと医師が判断した患者について、初診時
に抗菌薬を処方し内服を開始する群(すぐに内服群)と、経過が思わしくない場合に抗菌薬の内
服を開始する群(DAP 群)注16、抗菌薬を処方しない群(処方なし群)に割り付け、その後の状
況について比較した研究結果が示されている 94。
この研究では、実際に抗菌薬を使用した割合はすぐに内服群で 91.1%、DAP 群で 23.0~32.6%、
処方なし群で 12.1%である一方で、症状が中等度又は重度の期間はすぐに内服群で短いものの、
中等度の期間又は重度の期間の差はそれぞれ平均 0.5~1.3 日、0.4~1.5 日と臨床的に意味のある
差とは言いがたく、一方で、合併症、副作用、予期しない受診、30 日後の全身健康状態、患者
の満足度については差が見られなかったことが報告されている 94。
以上のようなことを踏まえ、DAP を行うことで、合併症や副作用、予期しない受診等の好ま
しくない転帰を増やすことなく抗菌薬処方を減らすことができると考えられている 92-94。
ここで大事な点は、患者を経時的に診るという視点である。患者の医療機関へのアクセスが比
較的良い日本では、症状が悪化した場合や数日しても症状が改善しない場合に同じ医療機関を受
診するように説明しておき、再診時に抗菌薬の適応を再検討する方が現実的かつ望ましいと考え
られる。普段の忙しい診療のなかでの「一点」のみでは急性気道感染症等に対する適切な診断が
難しい場合があることを認識し、急性気道感染症等の通常の経過はどのようなものか、また、今
後どのような症状に注意してもらい、どのような時に再診をしてもらうべきか、どのようになっ
た場合に抗菌薬の適応となりうるか、という「線」の時間軸で診療を行い、その内容に沿った患
者への説明を行うことが重要である。外来診療では、この「線」の時間軸による考えが適切な感
染症診療にも役立ち、抗菌薬の適正使用にもつながる、と再認識してもらえれば幸いである。
注16
日本では、保険医療機関及び保険医療療養規則(昭和 32 年厚生省令第 15 号)第 20 条に基づき、保険医療機関(病院や診
療所)で交付される処方箋の使用期間を、交付の日を含めて原則4日以内(休日や祝日を含む)としており、必ずしも海
外の事例をそのままの方法では適応できないことに注意が必要である。
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