提案書18(3402頁~3601頁) (147 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000190899_00011.html |
出典情報 | 中央社会保険医療協議会 診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会(令和5年度第1回 11/20)《厚生労働省》 |
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・新規性、効果等について③との比較
・長期予後等のアウトカム
研究結果
⑤ ④の根拠と
なる研究結果等
ガイドライン等での記載あり(右欄に詳細を記載す
る。)
年間対象患者数(人)
2,815
国内年間実施回数(回)
11,260
※患者数及び実施回数の推定根拠等
⑦医療技術の成熟度
・学会等における位置づけ
・難易度(専門性等)
・施設基準
(技術の専門性
等を踏まえ、必
要と考えられる
要件を、項目毎
に記載するこ
と)
前立腺癌診療ガイドライン2016(監視療法:p98-109) *前立腺癌診療ガイドライン2023にも掲載予定。
過剰治療対策としての監視療法の方法はほぼ確立されており、短期・中期的な安全性も担保されている。
Minds2007に準拠し作成され、第三者によるAGREEⅡの評価を受けている。
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ガイドライン等での位置づけ
⑥普及性
監視療法は予後が良好と考えられる早期の前立腺患者に対する過剰治療を回避するために、当面の間無治療で経過観察を
していく診療方法である。経過観察中は採血、MRI、定期生検を実施し、病勢進行を示す所見があれば、根治時機を逸しな
いよう、患者へ根治療法を提案する判断技量が必要である。また、担癌状態で経過をみることになる患者の心理的な不安
感、負担感の軽減のためには監視療法の利点、欠点のほか、長期的な治療成績などを詳細に説明する必要があり、多大な労
力と時間を費やすことになる。香川大学病院の電子カルテのアクセスログの解析では監視療法のための説明時間は中央値25
分44秒だった。一方、手術などの根治療法についての説明時間は16分10秒と有意に監視療法の説明には時間がかかってい
た。監視療法の共同研究を行っている国内42施設へのアンケート調査の結果でも、説明時間の中央値は30.0分と同様の結果
であった。
一人あたりの治療コストについて香川大学病院のDPCデータから検証すると、監視療法1年目の再生検での診療報酬点数が
中央値13,875点である一方、手術や放射線治療の診療報酬点数はいずれも約150,000点と大きな差があることが確認され
た。日本の前立腺がん診療における監視療法の治療コストの有益性を検証する目的で医療費のシミュレーション研究を行っ
た(Int J Urol. 2022 Nov;29(11):1271-1278.)。癌情報サービスから日本の新規前立腺がん罹患数(2017年は91,215人)
を引用し、前立腺癌の全国的な横断研究であるJ-Cap研究(Jpn J Clin Oncol. 2014 Oct;44(10):969-81)の治療動向データ
から、監視療法の適格患者数(2815人)を算出した。監視療法適格であっても患者希望などにより手術、放射線療法、ホル
モン療法が実施され得る。治療選択割合は放射線外照射療法、小線源療法、手術、ホルモン療法、そして監視療法はそれぞ
れ、10.7%, 13.9%, 37.7%, 27.4%, 10.1%と算出された。3ヶ月に一度の通院コスト(再診料、検尿、PSA採血と悪性腫瘍管
理加算)は根治療法後でも監視療法でも同じとし、シミュレーションすると手術の5年間の治療総額は18億円1千万円、外照
射療法では5億2千万円、小線源療法では5億9千万円、ホルモン療法では7億5千万円であった。PRIAS-JAPANのデータより、
監視療法での5年継続率を約40%とし、二次治療への移行率を手術、外照射、小線源、ホルモン療法をそれぞれ16.0%,
10.2%, 5.8%, 3.1%とすると監視療法患者の5年間での治療総額は2億1千万円となった。監視療法の適格患者の100%が初期治
療として監視療法を選択した場合、5年間で約18億円(1年あたり3.6億円)低減できる計算となり、監視療法活用の医療経経
済学的なメリットは非常に大きいものと考えられる。
推奨グレードB
癌情報サービスから日本の新規前立腺がん罹患数(2017年は91,215人)を引用し、前立腺癌の全国的な横断研究であるJCap研究(Jpn J Clin Oncol. 2014 Oct;44(10):969-81)の治療動向データから、監視療法の適格患者数(2815人)を算出し
た。さらに日本の前立腺がん診療ガイドライン2023年版(発刊予定)に治療開始後2年は3ヶ月、3年目以降は6月の受診
をフォローアップの例として記載されており、単年度の国内年間実施回数(患者の受診回数)は年に4回と推定した。
2,815人が年4回受診すると想定し、国内年間実施回数を11,260回とした。
低リスク前立腺癌における監視療法の長期の安全性はほぼ確立しており、NCCNガイドライン(アメリカ)、EAUガイドライ
ン(ヨーロッパ)、前立腺がん診療ガイドライン(日本)において監視療法は手術、放射線療法と同列の治療選択肢として
記載されている。診療する医師は検査スケジュールの立案のほか、採血、MRI画像検査および定期生検の結果を解釈し、根
治療法への移行の可否を判断しなければならない。担当医には監視療法の専門的な知識が必須である。
近年では中間リスク前立腺癌についても徐々に監視療法の適応拡大が検討されるようになった。NCCNガイドライン、EAUガ
イドラインともに中間リスク前立腺がんに対する監視療法は臨床病理学的に良好な因子を有する一部の症例に適応を認め、
前立腺がん診療ガイドライン2023年版でも“弱く推奨する”となっている。中間リスク前立腺がんについては病理所見にお
けるcribriform patternやIDC-Pなどの評価、MRIの活用など注意深い対応が必要であり、監視療法に対し専門的な知識を有
する医師の診療が必要である。
施設の要件
(標榜科、手術件数、検査や手術の体
制等)
日常診療として前立腺生検およびMRI検査を実施している施設
人的配置の要件
(医師、看護師等の職種や人数、専門
性や経験年数等)
泌尿器科学会専門医が常勤医師であること
その他
(遵守すべきガイドライン等その他の
要件)
前立腺癌診療ガイドライン2023(本年発刊予定)
上記の「提案される医療技術の内容」を遵守する場合にのみ算定できるものとする。
⑧安全性
・副作用等のリスクの内容と頻度
低リスク前立腺癌における監視療法については長期の治療成績が報告されている。トロント大学(カナダ)のKlotzらは
819名の監視療法症例の縦断的研究を行い、癌特異生存率は10年、15年でそれぞれ98.1%、94.3%であると報告した。この
コホートでは転移を13名(1.3%)に認めたものの、9名は存命であり、亡くなった4名は他因死であった。Johns Hopkins
大学のTosoianらは1298名の監視療法患者について最長で18年に渡って観察研究を行った。全生存率、癌特異生存率、非転
移生存率はそれぞれ10年で93%、99.9 %、99.4%であり、15年では69%、99.9%、99.4%であった。
長期予後については、限局性前立腺癌に対する手術、放射線治療、監視療法のRCTの15年の結果が最近報告された(N
Engl J Med . 2023 Apr 27;388(17):1547-1558.)。その結果、この3つの治療法間には癌死率の差はなかった。我々の前向
き観察研究のデータでも、癌死率は1%以下である。つまり監視療法の長期の安全性は確立されたといえる。
低リスク前立腺癌グループと中間リスク前立腺癌グループの二群のアウトカムを比較した中間リスク前立腺がんに対する
監視療法研究に対するメタアナリシスでは全生存、非転移生存は5年では両者は同等の結果であったが、10年になると中間
リスク群が劣っていた。さらに、癌特異生存は10年、15年ともに中間リスク群で低い結果となった。そのため、中間リスク
前立腺がんに対する監視療法については病理学的に予後良好な因子に提案するなどの配慮が必要である。
監視療法における侵襲的な検査に前立腺生検がある。本邦の調査では前立腺生検に伴う出血関連の合併症として血尿は
12%、直腸出血は5.9%、血精液症は1.2%であり、生検後排尿障害は1.9%に認め、尿閉は1.1%に見られた。38℃以上の発
熱は1.1%に認めたが敗血症に至った症例は0.07%であり、入院を要する生検後関連合併症の総計は0.69%であると報告さ
れている。定期的に実施される前立腺生検は、通常の診断時の生検と同様であるため、重篤な合併症は希である。
⑨倫理性・社会的妥当性
(問題点があれば必ず記載)
癌と診断されながら治療をしないというある程度の心理的負担は存在する。そのため、監視療法の利点、欠点、長期的な成
績を繰り返し患者に説明する配慮が必要である。また、患者の希望により監視療法は随時中止可能で、根治療法に移行でき
るため倫理的な問題はなく、監視療法は社会的妥当性を有する治療法と考える。
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