提案書09(1601頁~1801頁)医療技術評価・再評価提案書 (133 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000190899_00011.html |
出典情報 | 中央社会保険医療協議会 診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会(令和5年度第1回 11/20)《厚生労働省》 |
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予後等のアウトカム
1. 放射線障害
放射線障害は、疾病の治療目的に用いた医療用放射線による病変部周囲の正常組織・細胞の損傷であり、医原性の病態である。放射線の照射範囲に含まれるすべての細胞にDNA
損傷が生じ、かつ永続的に残存し、再燃性・難治性といった特徴をもたらす。放射線治療での重篤な晩期障害は、現状概ね5%程度に抑制できている。しかし一部晩期患者は残
存し、社会活動を担うAYA世代、自立できていた高齢者の社会・経済的活動を阻害し、がんサバイバーが抱える大きな問題の一つである。放射線障害では血管内皮細胞の障害に
よる低酸素環境や二次的な浮腫、線維芽細胞の活動低下による創傷治癒力の低下を生じ、高気圧酸素治療(HBO)は自己再生能力を高めることができる現時点で唯一の根治的治
療である。
HBOの治療回数に関する過去の報告では、2012-2017年にかけて欧州で放射線膀胱炎に対するHBOの有効性を検証する非無作為化第2-3相試験(参考文献1)が行われ、HBO群は非
HBO群と比べ晩期放射線膀胱炎の症状を有意に緩和し(95%CI:2.2-18.1, p=0.013)、放射線障害に対するHBOの有用性を強く示唆するエビデンスが示された。この試験では基
本的な治療回数は30-40回と設定されていた。
Villeirsによる骨盤部放射線治療後の放射線膀胱炎に対するHBOの治療成績をまとめたシステマティックレビュー(参考文献2)からは、治癒率(完全治癒+著効)は全体として
64.7-100%と高いが、高い治療効果を呈する報告では治療回数の中央値はいずれも30回を超えており、現在我が国で保険適応とされている上限30回では高い治療効果を期待しづ
らいことが予測される。また報告によっては100回を超えたものもみられ、多数回実施した施設で治療成績も高い傾向にある。
また、放射線出血性直腸炎についてまとめられた米国からのガイドライン(参考文献3)で推奨レベルは「moderate-quality evidence, 1B」とされ、有用性の高さを認められてい
る。全体として72.5-88.9%に出血やその他腹部症状の改善が得られた。根拠とされた報告での治療回数は、Jonesらは40回(Radiother Oncol.2006)、Oscarssonら(Int J
Radiat Oncol Biol Phys.2013)は中央値36回(28-40回)、Dall’Eraら(J Urol. 2006)は平均36回(29-60回)と、いずれも30回を超えている。
これらの報告は、症例により追加治療を施された上での良好な成績である。我が国の回数上限である30回は、諸外国での中央値にも満たず、他治療の選択肢がない重症や再燃性
のある症例を救済することは困難である。他に治療法がない難治・重症例については30回以上の追加治療を要する。
2. 難治性潰瘍または末梢循環不全
HBOは難治性潰瘍や末梢循環不全の治療に用いられるが、血行再建の代替治療とはならない。難治性潰瘍や末梢循環不全の治療として行われた場合、1年以上の経過観察が行われ
有効性が示されたのは高気圧酸素治療の回数が30回未満ではなく、30回以上45回以下であった。消化管の再発性潰瘍を来す潰瘍性大腸炎に対して40回の高気圧酸素治療を行った
報告では臨床症状が有意に改善され、出血も消失した。また、40回の治療で慢性糖尿病性足潰瘍の52%治癒したのに対し、プラセボ群では29%であった(参考文献4)。平均92週
間の観察期間において皮膚弁の閉鎖率もWagnerIVでは高気圧酸素群で4/25(16%)に対し対照群では0/20であった。
3. 骨髄炎
HBOは難治性骨髄炎(Osteomyelitis: Refractory)に対し有効(AHA ClassⅡに相当)であり適応疾患としている。単純な四肢の骨髄炎ではClassⅡb,より重症の骨髄炎
(Cierny-Mader Class 3B/4B)や頭蓋骨・脊椎などの骨髄炎ではClassⅡa,Wagner分類3,4度の糖尿病性潰瘍を伴う骨髄炎においてはClassⅠに相当するとしている。4-6週間の
治療は必要で、術後については20-40回のHBOは必要としている(参考文献5)。Hartは、難治性骨髄炎に対しては抗菌薬とHBOの併用で概ね60-70%の治癒率となり,外科的デブリ
ドマンと抗菌薬投与では70-80%,それらにHBOを併用すると80-90%の治癒率が得られるとレビューしている。
ガイドライン等での位置づけ
ガイドライン等での記載なし(右欄にガイドライン
等の改訂の見込み等を記載する。)
③再評価の根
拠・有効性
④普及性の変化
※下記のように推定した根拠
年間対象者数の
変化
年間実施回数の
変化等
見直し前の症例数(人)
2,120
見直し後の症例数(人)
症例数は同じ
見直し前の回数(回)
63,593
見直し後の回数(回)
84,579
⑤医療技術の成熟度
・学会等における位置づけ
・難易度(専門性等)
・施設基準
(技術の専門性
等を踏まえ、必
要と考えられる
要件を、項目毎
に記載するこ
と)
2019年実施の日本高気圧環境・潜水医学会のアンケートから、対象施設204施設から回答を得た。治療回数は、「その他」の疾患では年間133,601回に対し「放射線障害」は
9,900回、「難治性潰瘍・末梢循環不全」17,292回、「骨髄炎」11,185回、合計38,377回・28.7%だった。治療人数は不明。
コロナで治療回数は激減したため、コロナ前の2019年6月の社会医療診療行為別統計では、その他の治療回数は合計18,465回であり、年間(12倍として)221,580回と試算され
る。
社会医療診療行為別統計から試算した年間HBO回数(その他)221,580回から、全疾患に対する放射線障害、難治性潰瘍・末梢循環不全、骨髄炎(以下「3疾患群」)の比率は
28.7%のため、3疾患群の治療回数は、年間221,580回×28.7%=63,593回と試算された。
3疾患群の治療人数については、平均1人30回の治療とすると、63,593回÷30回=2,120人。
放射線障害に対するHBOの治療回数は過去の海外文献の報告からは中央値40回程度であり、放射線障害では30回から40回に延長(33%増)として試算し、難治性潰瘍・末梢循環
不全、骨髄炎も同様と試算した。
このため、3疾患群の治療回数については、63,593回×1.33=84,579回と計算した。
日本高気圧環境・潜水医学会による高気圧酸素治療専門医および専門技師制度があり、技術の成熟度は高い。
施設の要件
(標榜科、手術件数、検査や手術の体 特になし
制等)
人的配置の要件
(医師、看護師等の職種や人数、専門 特になし
性や経験年数等)
その他
(遵守すべきガイドライン等その他の 特になし
要件)
⑥安全性
・副作用等のリスクの内容と頻度
高気圧酸素治療(HBO)は、基本的には極めて安全性が高い。一方で、HBOの代表的副作用・合併症としては、気圧外傷と酸素中毒がある。気圧外傷には、耳管機能不全による耳
痛や滲出性中耳炎、鼓膜損傷等の中耳気圧外傷が代表的ではあるが、可逆性である、治療中の十分な患者観察や鼓膜内チュービングにより回避することができる。内耳気圧外傷
も報告されているが、稀である。さらに、肺の圧外傷による気胸があるが、20-30万件に1件程度であり、対処としても注射針での脱気で対応可能である。酸素中毒には、中枢神
経系酸素中毒の発症率は0.01%前後であり、急性酸素中毒による痙攣や意識障害は、高気圧酸素治療安全基準(3.0ATA、90分以内)を遵守する限り、0.01%以下の発症率である。
また酸素中毒は、前兆発症時に酸素吸入を中止することで重症化を回避でき、空気加圧HBOでは酸素曝露を中止することで容易に回復する。
呼吸器系酸素中毒に関しては、2.0ATAにて5.4時間、2.5ATAにて4.9時間の連続酸素吸入にて有意な呼吸機能低下の報告があるが、世界標準である実際の治療は2.0-2.8ATA、6090分であり、安全性は極めて高い。
⑦倫理性・社会的妥当性
(問題点があれば必ず記載)
問題なし
⑧点数等見直し
の場合
見直し前
見直し後
その根拠
3,000点 ただし一連につき30回を限度とする
3,000点 ただし一連につき60回を限度とする
前述の通り
区分
⑨関連して減点
や削除が可能と
考えられる医療
技術(当該医療
技術を含む)
区分をリストから選択
番号
技術名
特になし
特になし
具体的な内容
特になし
特になし
増(+)
プラスマイナス
⑩予想影響額
予想影響額(円)
629,580,000
その根拠
「その他」3,000点、20,986回増
備考
⑪算定要件の見直し等によって、新たに使用される医薬
特になし
品、医療機器又は体外診断薬
⑫その他
特になし
⑬当該申請団体以外の関係学会、代表的研究者等
特になし
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