参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (107 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html |
出典情報 | がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》 |
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基礎的なADLの低下している高齢者の骨転移のリハビリテーションで留意する
ことは何か?(ねたきりの高齢者の骨転移治療の目的は?)
A2
個人差が大きいので、個々を全人的に評価し、寝たきりに状態を避けるために個々に
合った適切なリハビリテーションを行う。
【 解説 】
がん患者に対する医学的リハビリテーション(以下リハビリ)を検討する際、4 つの観点が重要で
ある 1)。すなわち、1.がん自体による障害、2.がん治療による障害、3.二次性障害としての廃用症候
群、そして、4.担癌患者に特有の心理的反応である。さらに高齢者の場合は第 5 の観点として、余力
が少なく、回復に時間を要し、複数の基礎疾患を抱え易く、個体による差異が大きい、という高齢に
起因する臨床課題を加える 2)。
固形がんの場合、骨転移の存在は、遠隔転移のあるステージⅣを意味する。したがって、がんの治
「何もすることがない」と患者に告げることは絶
癒的治療は当初から困難なことが多い 3)。しかし、
望(hopelessness)を意味し、患者にとって最も辛いことなので回避する。少なくとも「がん緩和ケ
アの適応がある」
、すなわち、現実的な希望(hope)がある点を伝達すると、その日が訪れるまでリ
ハビリを行うことが可能となる。たとえ些細なことでも患者の希望を聞き入れ、それを実現するこ
とで、患者は今日一日の希望を持てる
4)。これとは逆に治療者の考えを押し付けてしまうと、患者
は自分の希望を表現しなくなり、多くの場合、緩和ケアに絶望してしまう 5)。
骨転移の問題点には、痛み・痺れ、骨折・麻痺、高カルシウム血症などの症状に起因する ADL 低
下、さらに QOL 低下がある。
第1に、治療可能な症状には有効な治療の実施が、その後の検討の前提条件である 6)。
第 2 に、骨転移に対する外科手術や放射線療法の結果として安静臥床を強いられた場合、2 つの
問題が生ずる。外科手術の場合は創傷治癒過程に不可避の体力低下と痛みである。余力のない高齢
者に手術侵襲を強いるので、ADL 維持の観点から手術適応を検討する必要がある 2)。術前のリハビ
リで体力向上という意見もあるが、高齢者の場合のエビデンスはない。
放射線療法の場合は宿酔による安静臥床、さらに骨痛緩和と骨硬化に時間差があることに留意す
る。いずれにせよ、安静臥床による沈下性肺炎、及び、尿路結石の感染から敗血症に至るメカニズム
は既に明らかにされている 7)。
第 3 に、二次性障害である廃用症候群は「長期安静臥床により発生」と人口に膾炙されているが、
褥瘡の発生時間は 1-2 時間であり、決して長期ではない点の認識が必須である。
廃用症候群の発生原理には「不活発(不使用)」と「重力刺激の減少」の 2 つがある 8)。前者によ
る深部静脈血栓(エコノミー症候群)
、後者による骨萎縮・骨粗鬆は、いずれも数時間で(一晩で)
発生する。いずれにせよ、廃用症候群は予防が重要である。できる限り安静臥床状態を回避し、早期
に活動を再開するほかない 9)。
その際、活動には患者の意思を必要とするので、覚醒水準を向上させるアプローチ、つまり、日内
リズムを遵守した朝の起床が重要で、部屋を明るくし、外気を入れ、声掛けにより聴覚刺激を行い、
覚醒を促進する。さらに身を起こして姿勢を変換し、可能なら立位で更衣すると骨萎縮が止まる。
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