参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (201 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html |
出典情報 | がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》 |
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Q1
高齢がん患者には、どのような精神心理的特徴があるか?
A1
高齢がん患者は非がん患者に比し抑うつ割合が高い。
【 解説 】
個人差は大きいものの、高齢者にはさまざまな精神心理的特徴があり、それは本人ががんと診断
された後の状況にも影響する。
高齢がん患者の精神症状に関する研究の多くは横断的デザインで対照群を持たないため、精神症
状ががんによるものか、加齢の影響か、判断が困難であることが少なくない。また結果は必ずしも
一貫していない。
70 代以上の乳がんおよび大腸がん患者と非がん対照群、および 50-60 代の乳がんおよび大腸がん
患者を比較した研究 1)では、診断 1 年後のがん患者の抑うつ度について年齢群間の有意差は認めら
れず、抑うつ度と併存疾患、ポリファーマシーとの間に関連を認めなかった。ただし、70 代がん患
者群は、認知機能や倦怠感レベルが同様の同年代非がん対照群と比較して、1 年後の臨床的抑うつ割
合が 2 倍(18% vs 9%)であった。70 歳以上のがん患者を対象にした前向きコホート研究である
ELCAPA(French Elderly Cancer Patient)スタディ 2)では、治療前の患者の 28.4%に臨床的抑うつ
を認め、抑うつ度はがんによる疼痛や、いくつかの Comprehensive Geriatric Assessment (CGA)項
目(運動機能の低下、ADL 低下、ソーシャルサポートの少なさ、認知機能低下、ポリファーマシー、
複数の併存疾患)と関連していた。これらの研究から、年齢にかかわらず診断時に精神症状のスク
リーニングや CGA を行うことの重要性が指摘されている。
このような精神症状がありながら、高齢がん患者は専門家による精神心理的ケアの利用度が若年
層よりも低く、その理由として高齢者側と医療者側の双方の要因があると指摘されている
3)。高齢
者側の要因としては、感情表現が困難であること、精神科医療への偏見、受診ルートの知識がない
ことが挙げられている。医療者側も、がんは高齢者に多い病気なので若年世代ほど心理的苦痛は強
くないだろうと考えがちなことが指摘されている。
一方、高齢がん患者の精神心理的特徴として、さまざまな人生経験の蓄積がもたらすポジティブ
な側面も知られている 4)5)。がん体験もまた人生のひとつの試練と受け止める忍耐強さ(resilience)、
重要なものごとを見極める力、人生の意味や目的に対する考えの深まりは、高齢がん患者の精神的
な安寧につながる。
高齢がん患者の精神心理的サポートにおいては、本人の行動や態度を変えるアプローチより、本
人が有する内的な力を大切にすることが重要であると指摘されている 3)。診断後の生活においては、
家族が治療選択を代行したり、本人に十分な医学情報が与えられなかったり、本人のニーズが顧み
られなかったりする場合がある。医学的側面だけでなく、がんへのコーピングや自己表出において
も、高齢がん患者本人の選択を尊重し、尊厳を守ることが重要である。
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