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参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (16 ページ)

公開元URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html
出典情報 がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》
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その解決策の一つは、意思決定が困難になる前に、何らかの形で事前指示(ACP:advanced care
planning, advanced directives, living will)を患者からとっておくことである。欧米では、多
くの施設で実施されており、突発的な出来事の起きやすい高齢がん患者にあっては、進行・再
発がんだけではなく、比較的早期のがんの診療にあたっても ACP を患者・家族と議論・記録し
ておくことが薦められる。
文献
1)

Raymont V et al. Prevalence of mental incapacity in medical inpatients and associated risk
factors: cross-sectional study. Lancet 2004; 364:1421-1427.

2)

Fassassi S et al. Assessment of the capacity to consent to treatment in patients admitted to
acute medical wards. BMC Medical Ethics 2009 Sep 2; 10:15

7.高齢のがん患者は弱者か?~高齢がん患者の就労支援
日常診療でも経験するように、状態の良い vulnerable 高齢者を入れると、かなりの高齢者が大き
な制限なく日常生活を送ることができ、就業も可能である。また、戦後の日本経済を支え高度成長
を達成した 80 歳前後の後期高齢者から初期高齢者の仲間入りした団塊の世代は比較的裕福な世帯
が多く、非高齢者よりも多くの資産を持っている人がかなりいる。また現役で就業している人も多
い。すなわち、年金に依存しないで非高齢者に匹敵する生活ができている高齢者は、上記診療指針
にのっとってがん治療を実施すると同時に、非高齢者と同様、就業・主婦業の継続を積極的に支援
していくことが求められる。当然のことながら、非高齢者よりも強力な副作用対策、がんリハビリ
テーション、心や家族のケアが必要である。
一方で、収入が年金だけで医療費に割けるお金が十分でない世帯もあり、がん診療に支障がない
ように、医療費免除を含む世帯の事情に応じた福祉行政の適切な対応が求められる。

8.高齢者の抗がん治療による生存期間の延長の意義は非高齢者のそれと異なるか?命
の価値に差があるか?
命の値段は地球より重いとたとえられるように、ヒトの命は尊い。しかし、使用できる医療費に
は、その国の経済力に依存して限界がある。では、日本人の 1 年の生存(命)はいくらであろうか?
人工透析中の患者は、透析をしないと確実に短期間で死に至る。しかるに平均的な週 3 回透析に
対しかかる費用は月 50-60 万円であり、それを年に換算すると 600~700 万円である。これが 1 人
の透析患者の 1 年間の命の値段である。一つの指標にはなる。一方、近年のがん薬物療法の進歩は
めざましく、治癒が困難な進行・再発がんの全生存期間が従来の半年から 1 年を超え、1 次治療か
ら 2 次・3 次治療以降まで有効な薬剤が使用でき、2~3 年の延命はまれでない。その間、使用でき
る薬剤を使い切ることになり、全体で使用される薬剤費(医療費)がどのぐらいまで許容か、答え
を出すのは難しい。したがって、本 Q&A では、人の命に価値の差、値段をつけることはできない
という基本的な立場で執筆者に記載いただいた。今後、医療者ばかりでなく患者・家族、国民が真
剣に議論することが必要で、高騰する医療費を前に議論を避けて通ることはできない。
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