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参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (66 ページ)

公開元URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html
出典情報 がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》
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4.

心・血管障害

Q1

心血管障害を有する高齢者には提供できるがん治療と提供できない治療があるか?がん
治療中における留意点は何か?

A1

心血管障害を有する高齢者はがん治療リスクが高く治療に伴う心血管系副作用(心毒性)
を合併しやすい。そこで、アントラサイクリンなどの心毒性を有する抗がん薬を投与す
る際には、リスクの層別化による心毒性発症の予測と適切なストラテジーを選択し、治
療開始後のモニタリングにより早期発見・治療を行なうことで適正ながん治療が可能で
ある。

【 解説 】
がん治療の進歩によりがん患者の予後が大きく改善する一方で、高齢化するがん患者において心
血管障害を有する事はがん治療による心血管合併症(心毒性)の増加とともに病態ならびに予後に
大きく影響を及ぼす因子である。そもそも高齢者は、生理機能、免疫能の低下に加え Comorbidity
として腎障害や高血圧、糖尿病などの生活習慣病を高率に合併する。実際に、アントラサイクリン
を投与された 65 歳以上の非ホジキンリンパ腫の患者で高血圧症 73.1%、脂質異常症 53.6%そして
糖尿病 31.9%と高率に合併していた 1)。生活習慣病を合併する高齢者はがん治療前に心血管障害に
対する投薬治療を受けていることが多く、心毒性発症リスクが高いばかりでなく薬物動態ならびに
薬物間相互作用に注意が必要である。実際、高齢者における多剤を併用している状況は、代謝機能
が低下し各臓器の予備能低下を伴うことが多く、予想外の薬物相互作用が生じることで心毒性を合
併する可能性が高い。したがって、心血管障害を有する高齢者に対してがん治療の適応は、生命予
後も合わせた慎重な検討が必要である。実際に心毒性を有する抗がん薬の投与した場合、合併症発
症率は高齢者で著明に上昇する。最も重要な心毒性の一つであるがん治療関連心筋障害(cancer
therapeutics related cardiac dysfunction: CTRCD)において、アントラサイクリン投与後にトラス
ツズマブが投与された症例の心不全/心筋障害累積発症率(5年間)における年齢の影響に関し、年
齢 55 歳未満:7.5%、55-64 歳:11.4%、65-74 歳:35.6%、75 歳以上 40.7%と加齢に伴い高い発症
率の増加が報告されている 2)。
その一方で高齢者における身体・生理機能には個人差が大きく、心毒性の出現は必ずしも暦年齢
に依存しない。したがって、高齢というだけでがん治療を回避する理由とはならない。そこで、心血
管障害を有する高齢者がん患者に対しがん治療を行う際には、患者ごとにがん治療の適応を十分考
慮した後、治療前の心血管リスク評価によるリスク層別化を行い患者の病態に適した治療戦略を選
択する。そして治療開始後に専門医(循環器医)と共に慎重なモニタリングを行うことで患者の安
全とがん治療の適正化を図る 2)3)4)。心毒性を有する抗がん薬を投与する場合に、薬剤の特徴に合わ
せた検査スケジュールで治療前ならびに治療後で心毒性のモニタリングを施行し心毒性の早期発見
を心掛ける。CTRCD を早期に診断するために、心機能のゴールデンスタンダードである左室駆出
率(LVEF)を心エコー検査または MUGA スキャンを用い評価する。また、LVEF のみで心筋障害
の微妙な変化を検出することが困難な場合もあり心筋ストレインエコーや心筋バイオマーカー(ト
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