参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (61 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html |
出典情報 | がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》 |
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はじめに
高齢者のがん診療においては治療法の選択、化学療法の強度の決定や期待通りの治療効果を得る
ために感染症対策は重要な因子となる。代表的な感染症である発熱性好中球減少症については臨床
腫瘍学会の「発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン改訂第 2 版」が 2017 年 10 月に発表さ
れており、ここでは「FN が起こった場合の評価」
、「FN の治療」
、
「FN およびがん薬物療法時にお
こる感染症の予防」について 20 の CQ が呈示され検討されている。本稿ではこのガイドラインの内
容を中心に高齢者のがん患者の診療における感染症対策について述べる。
Q1
化学療法が予定されている高齢者の予防接種に関して特に留意すべきことがあるか?
A1
インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンを定期的に実施することを薦める。
【 解説 】
がん化学療法を受ける患者は免疫不全となるため、ワクチン接種により感染症発症のリスクを軽
減することが推奨されている
1)。本稿では高齢者に対し、冬季を中心とした季節性の高いインフル
エンザウイルスと、通年的に重篤化が懸念される肺炎球菌に対するワクチンについて取り上げる。
がん患者に限らず、インフルエンザは高齢者に発症した場合、2 次性の細菌性肺炎の併発も含め重
篤化する頻度は若年者に比べて高い。したがって、がん化学療法中の高齢者は、インフルエンザワ
クチンの積極的な接種が勧められる。がん化学療法中の患者に対するインフルエンザワクチン接種
の利益や安全性に関する前向き研究は少ないが、システマティックレビューやメタアナリスにより
予防的な意義が示唆されている
2)。免疫不全にあるがん患者に対してインフルエンザワクチンを接
種した群は、非接種群に比べて全死亡率とインフルエンザ関連死亡率が有意に低下するとともに、
インフルエンザ様症状の出現率、インフルエンザ診断率、肺炎発症率および入院率も低下する。65
歳以上のがん化学療法中の進行性大腸がん患者のコホート研究では、インフルエンザワクチン接種
群は、非接種群に比べ、インフルエンザまたは肺炎の罹患率が有意に下がり死亡率が低下する傾向
があった。さらにインフルエンザまたは肺炎に罹患した患者では次の治療開始が遅れていた(平均
16.3 日、中央値 12.0 日)3)。免疫不全患者に対するインフルエンザワクチン接種時の血清学的反応
の陽性化は健常者より劣る可能性もあるが、実臨床上の予防的意義はあると考えられている。イン
フルエンザワクチンの効果が現われるまでに 2 週間を要するため、がん化学療法を開始する 2 週間
前までに投与をするのが望ましい。がん化学療法中にインフルエンザワクチン接種をする場合は、
抗がん薬の休薬期間に行うのがよい。投与回数は通常の成人と同様に 1 回接種でよい。
インフルエンザの予防は予防接種以外にも心がけることは多い。インフルエンザウイルスを家族
経由で高齢のがん患者に感染させないために、とくに同居する家族へのワクチン接種は積極的に行
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