参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (207 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html |
出典情報 | がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》 |
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高齢者へのがん検診を行うことでデメリットはあるのか?
A2
内視鏡などの偶発症リスクは年齢とともに上昇する。過剰診断は集団単位で最大のデメリ
ットとなる。
【 解説 】
検診は、診療と異なり健常者が対象であり、病気への漠然とした不安はあるものの、病気や闘病
に対する覚悟ができている訳ではない。検診を引き金に逆に健康問題を与えてしまっては本末転倒
になる。検診は流れ作業になりやすいことから十分な説明が事前に行われているわけではなく、診
療録がないので説明や当日の体調などを記録するすべがない。したがって、検診の場面では診療よ
りもメリットとデメリットのバランスに厳重に注意が必要であり、不利益を最小化しなければなら
ない。
高齢者が、侵襲的な検査で偶発症を招きやすいことは周知の事実である。胃 X 線検査でのバリウ
ムによる腸閉塞や検査中の転落が高齢者には容易に起こりうる。また大腸がん検診の精密検査にあ
たる大腸内視鏡検査も、下剤による気分不良・脱水、腸管穿孔も高齢者には懸念される。Rutter ら
の 4 万人規模の大腸内視鏡検査(症状受診を除く)による偶発症解析では 1)、重篤な偶発症は 50-64
歳 3.7 件/1000 検査、65-74 歳 7.9 件/1000 検査、75-84 歳 13.3 検査/1000 検査、と年齢が増すに
つれ増加傾向がみられている。
さらに、高齢者という集団でみた場合の最大の問題は過剰診断(overdiagnosis)である。がんの
進行速度の遅いものほど定期的な検査で見つかりやすい(length-biased sampling)ことから、検診
では放置してもがん死に至らないほど進行速度の遅いがんが発見される場合がある。それを過剰診
断と呼ぶ。若年者の場合はそれほど問題にならないが、余命が短いと想定される高齢者の場合は担
がんのまま他病死を迎える可能性もあり、過剰診断につながりやすい。過剰診断の頻度は臓器や検
診手法によって異なるが、すべてのがん検診に起こると考えてよい。韓国では国家的検診プログラ
ムには含まれていなかった頚部超音波検査を、オプションとして各医療機関が追加するようになっ
たところ、微小な甲状腺がんの発見が急増し、罹患数が 10 数年で 20 倍に達し、がん罹患の第一位
になった 2)。このように医療者側が「良かれ」と思って行う検査が、結果として国家統計のゆがみを
生じる場合があることを示しているとともに、個々の患者の治療には慎重な対応がとられるのは当
然であるが、症状がなく生命予後に影響のない病期の疾患に対して手術などの侵襲的な治療が行わ
れれば、本来起こるはずのなかった偶発症や後遺症が生じ、かえって健康被害が増すだけに終わる
可能性がある。さらに余命が短い高齢者のあっては過剰診断につがなる可能性が高いことから、高
齢者へのがん検診は控えるべきというのが国際的なコンセンサスである。
文献
1)
Rutter CM1, et al. Adverse events after screening and follow-up colonoscopy. Cancer
Causes Control. 2012;23:289-296
2)
KW Jung, et al. Cancer Statistics in Korea: Incidence, Mortality, Survival, and Prevalence
in 2012. Cancer Res Treat. 2015;47:127–141
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