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参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (133 ページ)

公開元URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html
出典情報 がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》
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るため、麻酔薬の半減期が延長し、覚醒遅延の原因となる。
<代謝・内分泌系>
加齢に伴い、耐糖能は低下する。糖尿病は周術期の心・血管イベント発生のリスク因子である。
<脳神経系>
高齢者の脳神経系合併症として、脳卒中や脊髄損傷などの器質的中枢神経障害と、せん妄や認知
機能障害などの機能的中枢神経障害がある

5)。脳血管の動脈硬化や脳梗塞の併存疾患を有している

ことが多く、術中の低血圧により容易に低灌流になる。吸入麻酔薬が認知機能を障害し得るという
動物レベルの研究が盛んであるが、臨床レベルではエビデンスは得られていない 6)。
<体温調節系>
高齢者では、基礎代謝や熱産生が低下する。熱刺激に対して発汗反応が起こりにくく、皮膚血流
の増加が少ないために、熱放散が十分に行われない 7)。温度調節性の血管収縮作用が減弱しており、
寒冷時における応答性が低下し、低体温に陥りやすい。低体温は、出血、輸血量の増加、凝固系の異
常、術創部感染率の増加、心筋虚血の増加をもたらす。
麻酔薬は、体温調節中枢を抑制し、体温調節性の血管収縮を抑制し、再分布性低体温を引き起こ
す。高齢者では、少量の鎮静薬の投与でも末梢血管の拡張作用により核心温が低下する。低体温に
より、薬物代謝が遅延し、全身麻酔からの覚醒が遅れる。低体温の低下に比例して、術後の復温にか
かる時間が延長する。シバリングを引き起こさない場合、復温にかかる時間はさらに延長する。
Ⅱ.対策
<術前>
高齢者のがんの術前評価のポイントは、既往歴ならびに併存疾患の有無と重症度を確認し、術後
のリスクの増大を招く因子を把握することである。米国外科学会(American College of Surgeons:
ACS)の手術の質改善プログラムと米国老年医学会(American Geriatrics Society: AGS)は、高齢
者の外科手術に対する術前の機能評価に基づくリスク評価を推奨している

8)。患者の年齢、生理機

能、併存疾患などを基にした麻酔の危険性の評価法として、米国麻酔学会術前状態分類(American
Society of Anesthesiologists physical status classification: ASA-PS)が用いられる。麻酔管理方法
を決定する際には、患者の身体能力、手術侵襲、患者本人や家族の意思を総合的に判断する。併存疾
患に対しては専門医へ紹介し、精査・加療、術前から理学療法を行う。術前の内服薬や吸入薬、注射
薬の調整を行う。糖尿病に対しては、術前からインスリンでコントロールする。
<術中>
高齢者のがんの手術では、全身状態に応じた生体情報のモニタリングを行い、呼吸・循環動態に迅
速かつ適切に対応した麻酔管理を行う。加齢に伴う薬力学的変化から、75 歳の吸入麻酔薬の最小肺胞
内濃度(minimum alveolar concentration: MAC)は、40 歳と比べて 20%減少する 9)。区域麻酔は
認知症患者には有利なので避けるべきではない。重篤な併存疾患を有する高齢者のがんの手術に対し
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