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参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (69 ページ)

公開元URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html
出典情報 がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》
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症などの動脈硬化危険因子を有する高齢者は ATE 発症のリスクが高い。さらに、DIC などの凝固異
常が原因で発症する非細菌性血栓性心内膜炎(non-bacterial thrombotic endocarditis: NBTE)は
大動脈、僧帽弁に疣贅を形成し、多発性血栓塞栓症を合併する。NBTE は高齢者剖検例の約1割に
発症し、その半数はがん症例でありその多くが腺癌であった。がんに伴う病的凝固異常の合併によ
り ATE を発症する症例は少なくなく、以前は1%程度と言われていたが ATE の頻度は最近の報告
で 4.7%と対照群の2%に比較して 2 倍以上の高い頻度を示していた 4)。ATE の発症頻度が増加し
た原因としてがん化学療法の進歩により血管新生阻害薬に代表される血管内皮組織を標的とする分
子標的薬の使用頻度の増加が挙げられる。さらに、放射線療法においても直接照射される可能性が
高い頸動脈並びに冠動脈において治療後数年経過した後動脈硬化性変化に伴う ATE が出現するこ
とが知られている 5)6)。高齢がん症例における心房細動に伴う血栓塞栓症も増加しており CAT の中
で ATE は最も注目されている心毒性の一つである。ATE に対する治療は、主にヘパリン類が投与
され経口抗凝固薬としてワルファリンが用いられる(心房細動を有さない ATE に対して DOAC は
本邦保険適応外)

また血管新生阻害薬投与の際に動脈硬化危険因子を多く有する症例において ATE
発症予防としてアスピリンの投与を考慮する。なお、予防投与に関する効果並びに危険性について
は、今後症例を重ねエビデンスの蓄積が必要である。
一方、進行性がん患者とともに高齢がん患者は、DIC などの凝固・線溶系異常を呈する症例の頻
度が高い。がん腫ごとに DIC の発症頻度は異なり肝細胞がん、肺がん、胃がん、結腸がんなどに多
く認め、多臓器不全や出血症状を発現し予後不良となる症例が少なくない

7)。そこで、高齢者にか

かわらずがんに関連する DIC の診断ならびに治療は国際血栓止血学会(ISTH)の学術標準化委員
会(SSC)から公表されているガイダンス 8)を参考にして行う。DIC 治療の原則は原因の除去であ
り、がんに対する化学療法と並行して行うことで DIC の治療成績が向上し長期生存も期待できると
いう報告 9)や、プロテイン C 活性化を介する可溶性トロンボモデュリン製剤など新たな治療法が出
現し期待されている 10)。
高齢者に対するがん診療は、血栓症の発症とその原因である凝固・線溶系異常により出血リスク
が高いことを念頭に置いて行う必要がある。がん治療において定期的に臨床症状ならびに凝固・血
栓学的検査値を確認するとともに、異常が認められた場合には早期に対処することが重要である。

文献
1)

Bick RL et al. Cancer-associated thrombosis. N Engl J Med. 2003; 349: 109–1111.

2)

Nakamura M et al. Current venous thromboembolism management and outcomes in
Japan.Circ J. 2014; 78: 708-717.

3)

日本循環器学会, 他. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイド
ライン(JCS 2017年改訂版).
2018; http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf

4)

Navi BB et al. Risk of Arterial Thromboembolism in Patients with Cancer. J Am Coll
Cardiol. 2017; 70: 926-938.
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