参考資料14 高齢者がん医療Q&A総論(厚生労働科学研究「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究」) (166 ページ)
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公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28073.html |
出典情報 | がん対策推進協議会(第82回 9/20)《厚生労働省》 |
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為化比較対照試験を行った
2)。それによると、ハロペリドールとベンゾジアゼピン系薬剤を併用し
た群では、せん妄評価尺度のスコアが有意に改善したと報告されている。この結果を踏まえると、
ハロペリドールの単剤投与で効果が乏しい場合には、そのような選択肢も考慮に入れる必要がある。
その一方で、せん妄に対してベンゾジアゼピン系薬剤を単独で使用することの有用性に関するエビ
デンスは乏しく、むしろせん妄の発症リスクが増加する可能性を示唆する研究結果が報告されてい
る
3)。したがって、せん妄に対するベンゾジアゼピン系薬剤の投与については、持続的な鎮静を目
的とする場合を除き、単剤での使用を避けるべきである。
2017 年に Agar らは、
「緩和ケアを受けている進行性かつ予後不良の患者のせん妄に対して、リス
ペリドンあるいはハロペリドールを用いることはプラセボと比較してせん妄を有意に改善するか」
について、無作為化比較対照試験を行った
4)。それによると、リスペリドンあるいはハロペリドー
ル投与群では、せん妄評価尺度のスコアが有意に悪化し、また平均生存期間が短くなったと報告さ
れている。本研究は、がん患者のせん妄に対する抗精神病薬の有用性を検証した唯一の無作為化比
較対照試験ではあるが、せん妄の重症度が低い高齢患者を対象としていることを考慮すると、これ
をもって「終末期における高齢のがん患者のせん妄に対して、抗精神病薬を使用するべきではない」
と結論づけるのは早急である。ただし、本研究の対象者に近い患者では、リスペリドンあるいはハ
ロペリドールの使用については慎重を期す必要があると考えられ、場合によっては非薬物治療を主
体として治療をすすめることが望ましい。なお、2015 年に Hshieh らは、
「高齢患者のせん妄に対す
る非薬物治療による複合的介入がせん妄の発症を減少させるかどうか」について、メタアナリシス
を行った 5)。それによると、見当識を保つこと、早期離床の促進、聴覚/視覚補助、睡眠サイクルの
調整、補液といった非薬物的な介入により、せん妄の発症率や転倒率が有意に減少したと報告され
ている。
がんの終末期におけるせん妄の薬物治療は、せん妄からの回復が可能かどうかによってその内容
が大きく変わる。せん妄からの回復が困難で、不可逆性せん妄と判断される場合は、薬剤による鎮
静が検討されることになる。持続的な鎮静薬の投与を行う際には、A.相応性 B.医療者の意図 C.
患者・家族の意思
D.チームによる判断という 4 つの要件を確認するプロセスが求められる 6)。
本邦における既存のせん妄のガイドラインとして、日本総合病院精神医学会から「せん妄の臨床
指針[せん妄の治療指針 第 2 版](星和書店)が刊行されている。一般的なせん妄に関して、体系的
な文献レビューを行ったうえで、エビデンスと現場感覚の融合を目的とした実践的な内容となって
いる。また、2019 年 2 月に日本サイコオンコロジー学会および日本がんサポーティブケア学会か
ら「がん患者におけるせん妄ガイドライン」が発表された。ぜひ参考にしていただきたい。
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