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令和6年版厚生労働白書 全体版 (79 ページ)

公開元URL https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/23/index.html
出典情報 令和6年版厚生労働白書(8/27)《厚生労働省》
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第1部

こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に


際疾病分類の第 11 回改訂版(ICD-11)で、

どうかを確認する必要があった。

1



新たに採用された診断項目であり、どのよう
な治療が有効であるかを明らかにすることは

NCNP による研究報告
今般、国立研究開発法人国立精神・神経医療
研究センター(NCNP)精神保健研究所を中心
としたグループは、複雑性PTSDに対するSTAIR
Narrative Therapyという心理療法の実践に関
する研究を行い、その成果が国際精神医学誌
「European Journal of Psychotraumatology」
オンライン版に掲載された。
NCNP の研究は、海外で虐待関連の PTSD

図1

STAIR Narrative Therapy 全体像

研究の方法

に有効性が確立されている STAIR Narrative

NCNP による研究では、18 歳以前に身体

Therapy を、ICD-11 の複雑性 PTSD 診断を

的/性的虐待を経験し、ICD-11 の基準で複

満たす患者に対して実践し、前後比較試験

雑性 PTSD と診断された成人女性患者を対象

(同一の対象者への介入の前後を比較するも

として、STAIR Narrative Therapy の実施

の)を実施したものである。

可能性、安全性、治療成果を調べた。

その結果、この治療が日本の臨床現場にお

具体的には、対照群を置かない前後比較試

いても安全に実施可能であり、複雑性 PTSD

験を実施し、10 名の患者が研究に登録され、

に対して効果が期待できることを確認した。

NCNP または共同研究機関の外来で、STAIR

本研究は、治療を前進させる重要な成果とい

Narrative Therapy の治療を受けた。

える。

こころの健康を取り巻く環境とその現状

国際的にも喫緊の課題となっていた。

治療は STAIR Narrative Therapy の日本
語版のマニュアルに基づきながらも、個々の

複雑性 PTSD と STAIR Narrative Therapy

患者のニーズに合わせて柔軟に治療内容を適

複雑性 PTSD に対する最適な治療法につい

用する方法で実施した。重要な評価項目は、

ては、国際的に検証が進められている段階に

国際トラウマ面接(ITI)(ICD-11 に基づく

ある。これまでの関連する研究の積み重ねに

PTSD/複雑性 PTSD の診断面接)で評価さ

より、トラウマに焦点を当てた心理療法が有

れた治療後、及び治療終了 3ヶ月後の複雑性

望であり、中でも複雑性 PTSD の多様な症状

PTSD 診断と重症度である。

に対応した治療が有望であることが報告され
ている。この多様な症状に対応した治療とし

研究の結果

て、STAIR Narrative Therapy という心理

治療を最後まで終えた 7 名のうち、6 名は

療法が米国で開発されており、虐待を経験し

治療後に複雑性 PTSD の診断基準を満たさな

た成人 PTSD 患者を対象とした複数の臨床試

くなり、7 名全員が治療終了 3ヶ月後に診断

験でその有効性が確認されている。

基準を満たさなくなった。また複雑性 PTSD

ただし、これまでの欧米での研究は ICD-

の重症度得点は、治療前と比べて治療後及び

11 の複雑性 PTSD を対象としているわけで

治療終了 3ヶ月後に有意な(=統計的に意味

はないため、複雑性 PTSD 診断に該当する患

のある)改善が認められ、その効果量も大き

者を対象として、安全性や有効性を確認する

なものだった。

必要があった。またこの治療は米国で開発さ

また、同様に、うつ症状をはじめとした

れ、臨床研究も欧米でのみ実施されているた

様々な評価項目においても有意な改善が認め

め、文化や制度の異なる日本でも同じように

られた。

実施できるか、また同等の効果が得られるか

な お、 治 療 を 途 中 で 終 え た 3 名(1 名 は

令和 6 年版

厚生労働白書

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