「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (130 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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8-3-1 生活習慣病の発症予防
8-3-1-1 生活習慣病との関連
古くは Keys の式 9)及び Hegsted の式 10)として知られているとおり、コレステロール摂取量の変化
は、飽和脂肪酸の摂取量の変化とともに、血中コレステロール値の変化に量的に関連する。つまり、
コレステロール摂取量が増えれば血中コレステロールは増加する。類似の研究をまとめたメタ・アナ
リシスでも、ほぼ同じ結果が示されている 63)。しかし、両者の間に明確な閾値は観察されていない。
また、我が国では、コレステロール摂取又は主なコレステロール摂取源である卵の摂取が健康に好ま
しくないという情報が広く流布していたため、因果の逆転が生じている可能性を否定できないと考え
られる。日本人において、1990 年の調査までコレステロール摂取量と血中コレステロール値の正の関
連を認めていたが、2010 年の調査では認めていないという報告がある 64)。
コレステロール摂取量の過剰摂取は循環器疾患の危険因子となり得ると考えられ、いくつかの疫学
研究がその結果を報告している。疫学研究ではコレステロール摂取量の代わりに卵摂取量や卵摂取頻
度を用いた研究も多い。このような方法を用いたコホート研究の結果をまとめたメタ・アナリシス
は、1 日当たり 1 個の卵摂取の増加と循環器疾患発症率との間に有意な関連は認められなかったと報
告している 65)。我が国で行われたコホート研究でも、ほぼ同様に、虚血性心疾患や脳卒中死亡率、心
筋梗塞発症率との間に有意な関連は認められていない 66,67)。また、類似の目的で行われたコホート研
究のメタ・アナリシスでは、週に 6 個までの中程度の卵摂取と循環器疾患発症率又は死亡率との間に
負の関連を認めている 68)。
一方で、アメリカで行われた 6 つのコホート研究のデータをプールして解析した研究では、コレス
テロール摂取量及び卵摂取量と循環器疾患発症率及び総死亡率の間に、いずれも有意でほぼ直線的な
正の関連が観察されている 69)。類似の目的で行われたコホート研究のメタ・アナリシスにおいて、卵
摂取量と循環器疾患死亡率の間に正の関連を認めているが、アジアからの研究に限定すると有意な関
連を認めていない 70)。
このように、これらの疫学研究の多くにおいて、コレステロール摂取量(又は卵摂取頻度)と循環
器疾患の発症率及び死亡率との間に一貫した関連が示されていない。しかし、血中コレステロールへ
の影響を考慮すると、疫学研究の多くにおいて一貫した結果が得られていなかったとしても、これを
もってコレステロール摂取量の上限を設けなくてもよいとは言えない。その一方で、コレステロール
摂取量を変化させて血中コレステロールの変化を観察した介入試験においても、上述のように、明確
な閾値が観察されていないため、上限を決めるための根拠として用いるのは難しい。
以上より、少なくとも循環器疾患予防(発症予防)の観点からは目標量(上限)を設けるのは難し
いと考え、設定しないこととした。しかしながら、これは許容されるコレステロール摂取量に上限が
存在しないことを保証するものではないことに強く注意すべきである。
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