「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (305 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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分娩時における失血量(平均値±標準偏差)について、初産婦 328 ± 236 mL、経産婦 279 ± 235 mL
という報告がある 28)。この量は、妊娠に伴う循環血量の増加よりも明らかに少ない。したがって、通
常の分娩であれば、授乳婦の付加量設定において、分娩時失血に伴う鉄損失を考慮する必要はなく、
母乳への損失を補うことで十分と判断した。
分娩後、鉄の吸収率は非妊娠時の水準に戻ることより 26) 、授乳婦の鉄の吸収率は非妊娠時と同
じ 16%3)とした。そして、母乳中鉄濃度(0.35 mg/L)4)、0~5 か月児の乳児の基準哺乳量(0.78 L/日)5,6)、
吸収率(16%)から算定される 1.71 mg/日(0.35×0.78÷0.16)を丸めた 1.5 mg/日を授乳婦の推定平均
必要量の付加量とした。授乳婦の推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 10%と見積もり、推定平均
必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じて得られる 2.04 mg/日を丸めた 2.0 mg/日とした。これら
は、月経がない場合の推定平均必要量及び推奨量に付加する値である。
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 摂取状況
平成 30・令和元年国民健康・栄養調査における日本人成人(18 歳以上)の鉄摂取量(平均値±標準
偏差)は 8.2 ± 3.2 mg/日(男性)、7.5 ± 3.0 mg/日(女性)である。また令和元年国民健康・栄養調査
によれば、鉄摂取量の 70%以上は植物性食品由来である。
3-2-2 耐容上限量の策定
・成人・高齢者(耐容上限量)
遷移金属である鉄は、組織に蓄積した場合、フェントン反応と呼ばれる継続的な過酸化反応によっ
て細胞を損傷し、様々な臓器障害を引き起こす 29)。特に慢性肝臓疾患の悪化に及ぼす鉄蓄積の影響は
大きい 30)。
2%の鉄をカルボニル鉄の形態で含有する飼料を与えられたマウスでは、血清や肝臓の鉄濃度の上
昇とともに、血糖値、インスリン抵抗性、肝臓脂質濃度、肝臓過酸化脂質の上昇が認められている 31)。
しかし、この実験の鉄投与量は、ヒトの食生活からはかけ離れたものである。
一般的な食事等に由来する鉄が過剰に臓器に蓄積する事例には、ヘプシジンが関わる鉄吸収制御に
関わる遺伝子等の異常が関わるとされている 32)。そのため、遺伝子の異常がない場合、食事からの鉄
の摂取が多くなっても、ヘプシジンによる調節によって鉄の吸収量は正常な範囲に維持されるので 1)、
食事由来の鉄による鉄過剰障害のリスクは無視できるとされている 3)。
南アフリカのバンツー族では、鉄を大量に含むビールの常習的な飲用や鉄鍋からの鉄の混入によっ
て 1 日当たりの鉄摂取量が 50~100 mg となり、中年男性にバンツー鉄沈着症が発生した 33)。この鉄
沈着症は、当初、単純な鉄の大量摂取によって生じたと考えられ、1 日当たりの鉄摂取量がおよそ 100
mg を超えた場合に発生すると推定された 33)。しかし、現在は、この鉄沈着症にも鉄吸収制御に関わ
る遺伝子の異常が関わっており、ヘプシジンを中心とした制御機構が十分に機能しなかったために鉄
吸収量が増加し、臓器への鉄の蓄積が生じた可能性が高いとする説 34)が妥当とされている。
アメリカ・カナダの食事摂取基準は、貧血治療を目的とした鉄剤投与に伴う便秘や胃腸症状等を健
康障害と位置づけ、成人の鉄の耐容上限量を男女一律に 45 mg/日としている 4)。一方、EFSA は、鉄
剤摂取に伴う急性の胃腸症状等を鉄の耐容上限量設定のための健康障害として用いることを不適切
として、耐容上限量を定めていない 3)。
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