「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (296 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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① 鉄(Fe)
1 基本的事項
1-1 定義と分類
鉄(iron)は原子番号 26、元素記号 Fe の遷移金属元素の 1 つである。食品中の鉄は、たんぱく質に
結合したヘム鉄と無機鉄である非ヘム鉄に分けられる。
1-2 機能 1)
鉄は、ヘモグロビンや各種酵素を構成し、その欠乏は貧血や運動機能、認知機能等の低下を招く。
体内鉄の総量は成人で 3~4 g であり、その約 70%は赤血球中のヘモグロビン鉄である。体内の鉄は、
ヘモグロビンのように生理的な役割を持つ機能鉄と、鉄を貯蔵又は運搬する役割を持つ貯蔵鉄に分け
ることができる。代表的な貯蔵鉄であるフェリチンの血清中濃度は、鉄の栄養状態を反映する良い指
標である。
1-3 消化、吸収、代謝 1–3)
食事中の鉄は、十二指腸から空腸上部において吸収される。ヘム鉄は、特異的な担体によって小腸
上皮細胞に吸収され、細胞内でヘムオキシゲナーゼにより 2 価鉄イオン(Fe2+)とポルフィリンに分
解される。無機鉄は、鉄還元酵素 duodenal cytochrome b(DCYTB)、アスコルビン酸等の還元物質に
よって Fe2+となり、上皮細胞刷子縁膜に存在する divalent metal transporter 1(DMT1)に結合して上皮
細胞に吸収される。この吸収はマンガンと競合する。吸収された Fe2+は、フェロポルチンと結合して
門脈側に移出された後、鉄酸化酵素によって 3 価鉄イオン(Fe3+)となり、トランスフェリン結合鉄
(血清鉄)として全身に運ばれる。多くの血清鉄は、骨髄においてトランスフェリン受容体を介して
赤芽球に取り込まれ、赤血球の産生に利用される。約 120 日の寿命を終えた赤血球は網内系のマクロ
ファージに捕食されるが、放出された鉄はマクロファージの中に留まってトランスフェリンと結合し、
再度ヘモグロビン合成に利用される。
鉄を排泄する能動的な経路が存在しないため、恒常性は鉄吸収の調節によって維持される。健康な
人の場合、食事中の鉄の小腸上皮細胞への取込み量と血液への移出量は、体内鉄量と反比例の関係に
ある。すなわち鉄の状態が低下すると、低酸素誘導因子 hypoxia inducible factor 2a が増加して DCYTB
と DMT1 の発現を刺激し、上皮細胞への Fe2+の取り込み量が増加する。同時にフェロポルチンの作用
を抑制するヘプシジンが減少するため、フェロポルチンの作用が高まって上皮細胞から血液への鉄の
移出量も増加し、腸管での鉄の吸収率が高まる。一方、鉄の充足時には、ヘプシジンが増加してフェ
ロポルチンの作用が抑制されるため、鉄は上皮細胞内に留まり、鉄の吸収率は低下する。留まった鉄
は上皮細胞内にフェリチンとして貯蔵され、細胞の剥離に伴い消化管に排泄される。
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