「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (306 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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の鉄摂取が過剰になると肝臓への鉄蓄積が進行し、症状が悪化すると考えられている 35)。しかし、遺
伝的な素因がなく、アルコール多飲でもない健常者に関して、食事等からの鉄の過剰摂取が胃腸症状
以外の健康障害を引き起こすという明確な証拠は見当たらない。以上より、耐容上限量の設定は見合
わせることとした。
なお、月経のある日本人女性における鉄欠乏の最大の要因は、月経に伴う鉄損失であって、鉄摂取
量とは関連がないという報告もあり 15)、推奨量を超えて鉄を摂取しても必ずしも貧血の予防にはつな
がらない可能性がある。また、健常者であっても、長期にわたる鉄サプリメントの利用や食事からの
過剰な鉄摂取が、臓器への鉄蓄積を介して、健康障害を起こす可能性は否定できないとされている 36)。
したがって、推奨量を大きく超える鉄の摂取は、貧血の治療等を目的とした場合を除き、控えるべき
である。
・小児(耐容上限量)
成長期のラットに、適切量の約 50 倍に相当する 1850 µg/体重 g の鉄をクエン酸第二鉄として含有
する飼料を 4 週間投与した場合、トランスフェリン飽和率が顕著に上昇し、肝臓をはじめとする臓器
に鉄の蓄積が認められる 37)。一方、同じ飼料を成熟ラットに与えた場合、投与期間を 24 週間にして
も蓄積は軽微である 38)。これらのことから、成長期においては、過剰な鉄摂取に対するヘプシジンに
よる鉄吸収の調節は十分でない可能性が考えられる。
12~18 か月の小児に 3 mg/kg/日の鉄を硫酸第一鉄として 4 か月間毎日投与した場合、体重増加量が
有意に減少したとの報告がある 39)。しかし、4〜23 か月の乳幼児を対象にして、鉄補給を行った研究
のメタ・アナリシスでは、鉄補給に伴う体重増加量の減少は僅かであり、統計学的にも有意なもので
はなかったとしている 40)。一方、アメリカ食品医薬局(FDA)41)は、おおむね 6 歳以下の小児で鉄の
過剰摂取が問題となるのは、鉄剤や鉄サプリメントの誤飲による急性の胃腸症状であるとしている。
動物実験の結果に基づくと、成長期においては過剰な鉄吸収を防止する調節機構が十分でない可能性
があり、鉄の過剰摂取に関しては成人以上に注意する必要があるが、小児においても、急性の胃腸症
状以外に、鉄補給に伴う健康障害が明確でないことから、成人と同様に耐容上限量の設定は見合わせ
た。
・乳児(耐容上限量)
乳児に過剰な鉄補給を行った場合には、亜鉛や銅の吸収率の低下、腸内細菌叢の変化、成長制限が
生じるリスクがあるとされている 42)。例えば、13.8 mg/日の鉄を 28 日間投与された低出生体重児で
は、20 週目に赤血球のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性の低下が認められている 43)。一
方、アメリカでは新生児を含む乳児用調製乳には全て 4〜12 mg/L の鉄強化が行われており 44)、10 mg/
日に近い鉄を摂取している乳児が相当数存在するものと推定できる。しかし、このような出生直後か
らの積極的な鉄補給の有害影響は、厳密にデザインされた試験では実証されていない 44)。現状では、
乳児における過剰な鉄摂取の影響が明確でないことから、乳児に対する耐容上限量も設定しなかった。
・妊婦・授乳婦(耐容上限量)
ヘモグロビン濃度 13.2 g/dL 以上の貧血でない妊娠女性に 50 mg/日の鉄を硫酸第一鉄として投与す
ると、胎児発育不全と高血圧の割合が増加するという報告がある 45)。また、妊娠又は授乳中の女性
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