「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (363 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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1 基本的事項
水は、全ての生命にとって不可欠の物質であり、かつ、単独の物質としてはヒトの身体で最大の構
成要素である。ヒトでは、年齢や除脂肪体重などによって異なるものの、水は体重のおよそ 60%を占
めている 1)。水は、細胞内液及び細胞外液(血漿、間質液)を構成し、全ての生化学反応の場を提供
している。また、栄養素の輸送及び老廃物の排泄のための溶媒として機能し、体温調節においても重
要な役割を担っている 1)。
ヒトが体内で利用する水は、経口摂取される水と体内で合成される水(代謝水)、呼吸(吸気)と
皮膚を通じて体内に入る水の 3 つからなる。水の体外への排泄は、尿、皮膚、呼吸(呼気)、糞便を
通じて行われる。通常、両者は量的に釣り合っている 2)。また、代謝水と呼吸(呼気)を通しての水
の排泄はほぼ量的に等しいと考えられている。したがって、水の摂取量と尿、皮膚、糞便を通じた排
泄量の総量とは、ほぼ等しいことになる 3)。
2 水の必要量を算定するための根拠
水の必要量を算定するために提案されている方法として、二重標識水法で測定された水の代謝回転
量(turnover)(L/日)を利用する方法がある 4)。この方法では、代謝水、吸気を通じて体内に入る水、
皮膚から吸収される水をそれぞれ関連する要因から推定し、その合計量を、二重標識水法で測定され
た水の代謝回転量(turnover)から除くことによって、水の摂取量が得られる。この方法を用いて平成
28 年国民健康・栄養調査の参加者(15 歳以上)の水摂取量を推定した研究結果を表1に示す 5)。しか
しながら、この方法で得られる値はあくまでも集団の推定値であり、またこの方法の妥当性について
は更なる検証が必要である。さらに、この方法によって得られる値は必要量ではない。水の欠乏状態
などに陥っていないのであれば、むしろ目安量に相当する値であると考えるのが妥当であろう。
ほかに、食事記録法や食事思い出し法によっても水の摂取量は測定できる。我が国の多施設調査(16
日間食事記録法)で得られた結果 6)と、参考として、同じく食事記録法を用いてフランスとイギリス
で行われた調査で得られた結果を表1に示す 7)。しかし、こうした方法得られる摂取量には、エネル
ギーや数多くの栄養素と同様に無視できない過小評価(過小申告)が生じることが知られている 8)。
3 生活習慣病等の発症予防及び重症化予防
十分な量の水の習慣的摂取が健康維持に好ましいとする考えは広く存在する。しかし、その科学的
根拠は必ずしも明確ではない。その中で、腎結石・尿管結石の発症予防に関してはいくつかの報告が
存在する 9–11)。便秘についてもいくつかの研究があるものの、結果は必ずしも一致していない 12,13)。
一方、熱中症の予防では水の十分な摂取が 14)、熱中症の初期治療では水及び電解質の十分な補充がそ
れぞれ重要であると認められている 15)。
水の摂取源は、フランスとイギリスでは食物由来が約 20〜40%、飲料由来が約 60〜80%と報告され
ている(表1)7)。一方、日本人では、水含有量が「パン」よりも高い「めし」と「麺類」を多く摂取
する結果、食物(固形物及び半固形物)由来が 51%、飲物(液体)由来が 49%と報告されている(表
1)6)。十分な水摂取量を確保するためには、飲料からだけでなく、食物からの水の摂取も重要であ
る。これは、熱中症の予防や災害時における食事管理においても必要な考え方である。
栄養管理を行う現場では、水の摂取量の把握を簡便な質問票や食事記録法などに頼らざるを得ない。
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