「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (463 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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GFR の変化に差はなかったとするメタ・アナリシスもある 36)。
腎代替療法への移行も含む末期腎不全の抑制効果を検討したメタ・アナリシスにおいて、0.2~0.4
g/kg 体重/日を目標とするたんぱく質制限は、進行したステージ G4~G5 の症例を中心として、その末
期腎不全を 32%低減したと報告されている 37)。しかし、このメタ・アナリシスでは、0.5~0.6 g/kg 体
重/日のたんぱく質制限は、対照群に比べて末期腎不全への進行に有意な違いは認められなかった。最
近も同様の報告がなされていた 36)が、末期腎不全の抑制効果があったとするメタ・アナリシス 32)もあ
るため、確定した結果は得られていない。
CKD は様々な原因によって生じる複合的疾患群であり、たんぱく質制限の治療効果が、患者背景や
併用する治療法によって異なる可能性があるため、患者背景別の治療効果の評価は今後の重要な検討
課題である。
2-3-2 軽症 CKD に対するたんぱく質制限
韓国の一般住民 9,226 人を対象とした 13 年間の前向き研究において、開始時に糸球体過剰濾過が
ある場合、たんぱく質摂取量の四分位の最高位群(1.7 g/kg 体重/日)は、最低位群(0.6 g/kg 体重/日
以下)と比較して eGFR がより低下したことが示されている 38)。また、ステージ G1~G2 を含む腎機
能が軽度低下している(eGFR 55~80 mL/分/1.73 m²)1,624 人の女性看護師(平均体重約 69 kg)の 11
年間の観察研究において、たんぱく質摂取量の五分位の最高位群(86.5 g/日以上、体重の平均値で算
出すると 1.25 g/kg 体重/日以上)は、最低位群(66.2 g/日以下、体重の平均値で算出すると 0.96 g/kg
体重/日以下)と比較して、腎機能低下が速かったと報告されている 39)。オランダの一般住民を対象と
したコホート研究では、教育レベルが低い患者で、高たんぱく質摂取と腎機能の低下の関係が観察さ
れた 40)。アメリカの一般住人を対象としたコホート研究では、eGFR が 60 ml/min/1.73m2 未満の場合
において、たんぱく質摂取量 1.4 g/kg/日以上の群で死亡のリスクが上昇するという報告もある 41)。
以上より、CKD 発症予防としては、少なくともたんぱく質の過剰な摂取を避けることが望ましいと
考えられる。さらに、一般住民の中には CKD と診断されてはいないが、CKD である可能性が高い症
例も多く存在しており、そのような症例では過剰なたんぱく質摂取は予後に影響する可能性がある。
我が国では、「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2023」でも、画一的な指導は不適切で
あるが、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、たんぱく質摂取制限を
指導することが推奨されている 1)。「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014 年版」において、ステー
ジ G1~G2 では過剰な摂取をしないことが示され、その目安として 1.3 g/kg 標準体重/日が示されてい
る 6)。海外では、ステージ G1~G2 の CKD の場合はこれよりも少ない 1.0 g/kg 理想体重/日未満が推
奨されているほか 42)、KDIGO 2012 clinical practice guideline においても、CKD では 1.3 g/kg 体重/日を
超えるたんぱく質を摂取しないことが推奨されている 43)。
また、ステージ G3a を含む MDRD Study A(eGFR 25~55 mL/分/1.73 m²)において、たんぱく質摂取
量が 1.3 g/kg 体重/日の群と 0.58 g/kg 体重/日の群の間に、腎機能低下速度に有意差はなかった 44)。し
かし、その二次解析では、たんぱく質摂取量が 0.58 g/kg 体重/日の群の腎機能低下は、開始から 4 か
月までは速いが、4 か月から 36 か月までは有意に抑制された 31)。また、フランスのステージ G1~G4
を対象とした観察研究では、末期腎不全への進行抑制に有効なたんぱく質制限の閾値については明確
ではなかったものの、たんぱく質摂取量が少ないほど末期腎不全のリスクは低下する傾向にあった 45)。
我が国の「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014 年版」では、ステージ G3a のたんぱく質摂取量
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