「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (307 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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とから、貧血ではない妊婦・授乳婦への鉄の補給は、合理性がなく、むしろ母体及び胎児に健康障害
を生じる可能性があると考えられる。現時点で十分なデータはないことから耐容上限量の設定は見合
わせるが、貧血でない妊婦・授乳婦が鉄サプリメント等を利用することは控えるべきである。
3-3 生活習慣病等の発症予防
スペインの若年女性を対象とした研究では、鉄欠乏状態では、カルシウム摂取量が適正であっても
骨吸収が高まることが示されており 48)、慢性的な鉄欠乏が骨粗鬆症のリスクを高める可能性が指摘さ
れている 49)。しかし、これは鉄欠乏の回避で対応できるものと考えられ、生活習慣病等の発症予防の
ための目標量(下限値)を設定する必要はないと判断した。
一方、体内に蓄積した鉄は、酸化促進剤として作用して組織や器官を損傷し 29)、肝臓がん等の発症
リスクを高める 50)。また、血清フェリチン濃度を指標にした研究は、健康な集団において、総体的な
鉄貯蔵量の増加が骨量減少を加速させる独立した危険因子となることを示している 51)。
鉄摂取量と生活習慣病発症リスクに関する研究において、特にヘム鉄については、その過剰摂取が
メタボリックシンドロームや心血管系疾患のリスクを上昇させるという報告や 52)、総鉄摂取量と非ヘ
ム鉄摂取量は 2 型糖尿病発症に影響しないが、ヘム鉄の摂取量の増加が 2 型糖尿病の発症リスクを高
めるとするメタ・アナリシスがある 53)。また、高齢女性を対象にした研究では、鉄サプリメントの使
用者では全死亡率が上昇することが認められている 54)。
生活習慣病予防のための目標量(上限値)を設定するための定量的な情報は不十分であるが、鉄欠
乏でない人が食事からの摂取に加えて、サプリメント等から鉄を付加的に継続摂取することは控える
べきである。
4 生活習慣病等の重症化予防
慢性腎臓病(CKD)患者においては、腎性貧血と呼ばれる貧血が高頻度に認められる。腎性貧血の
進行は、慢性虚血による腎機能あるいは心機能の低下等を起こすことから、CKD 患者では貧血の管理
が重要であり、日本腎臓学会による「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2023」は、貧血を
有する CKD 患者に対して、血清フェリチン濃度とトランスフェリン飽和率に基づいて鉄欠乏状態と
判断できる場合には、鉄剤を投与することを推奨している 55)。
5 活用に当たっての留意事項
月経のある成人女性及び女児に対する推定平均必要量と推奨量は、過多月経でない者(月経分泌物
量 140 g/回未満)を対象とした値である。過多月経者 11 名について、月経分泌物量(平均値±標準偏
差)を 214.2 ± 56.7gとする報告がある 18)。この数値に基づいて鉄の推定平均必要量と推奨量を算定
すると、それぞれ 12.9 mg/日と 18.4 mg/日となる。この量の鉄を食事から摂取することは難しいため、
過多月経者は必要に応じて医療機関を受診し、基礎疾患の有無を確認した上で、鉄補給を受ける必要
がある。
乳児は母体から供給された鉄で必要量を賄っているが、母乳中の鉄濃度が低いことから、6〜11 か
月児は母乳以外からの鉄摂取が必要である。
非ヘム鉄はヘム鉄に比較して吸収率が低いため、鉄の摂取源として動物性食品を優先すべきとされ
てきた 56)。しかし、非ヘム鉄の吸収率は鉄の栄養状態に伴って大きく変動し、特に鉄栄養状態が低い
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