「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (315 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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1 基本的事項
1-1 定義と分類
銅(copper)は原子番号 29、元素記号 Cu であり、金、銀と同じ 11 族の遷移金属元素である。
1-2 機能 98)
銅は、成人の体内に約 100 mg 存在し、約 65%が筋肉と骨、約 10%が肝臓に分布する。銅は、約 10
種類の酵素の活性中心に存在し、エネルギー生成や鉄代謝、細胞外マトリクスの成熟、神経伝達物質
の産生、活性酸素除去などに関与している。
1-3 消化、吸収、代謝 98)
食事から摂取された銅は胃で可溶化され、生じた 2 価の銅イオンは小腸において 2 価から 1 価に還
元されて小腸上皮細胞刷子縁膜に存在する copper transporter 1 と特異的に結合し、細胞内へ取り込ま
れる。そして、側底膜側に存在する ATPase7A によって細胞内から門脈側に排出される。吸収された
銅は、肝臓へ取り込まれ、セルロプラスミンとして血中へ放出される。
体内銅の恒常性は吸収量と排泄量の調節によって維持されている。食事からの銅の摂取が 1.3 mg/
日の場合、0.7 mg/日が吸収される。肝臓からは 0.4 mg/日の銅が胆汁を介して排泄され、糞への排泄は
食事からの未吸収分と合わせて約 1.0 mg/日となる。尿への排泄は 0.06 mg/日である。
銅欠乏症には、先天的な疾患であるメンケス病と銅の摂取不足に起因する後天的なものとがある。
メンケス病では ATPase7A に変異があるため、銅を吸収することができず、血液や臓器中の銅濃度が
低下して、知能低下、発育遅延、中枢神経障害などが生じる。一方、摂取不足に起因する後天的な銅
欠乏症は、外科手術後に銅非添加の高カロリー輸液や経腸栄養剤を使用した場合や亜鉛補充療法を長
期間継続した場合に多く発生している。欠乏における症状は、鉄投与に反応しない貧血、白血球減少、
好中球減少、脊髄神経系の異常に伴う歩行障害や下肢痛(ミエロパチー)等である。
銅過剰症のウイルソン病は、肝臓からの銅排出に関与する ATPase7B に変異があり、銅とセルロプ
ラスミンの結合と胆汁への銅排泄が抑制されるため、肝臓に銅が蓄積して肝機能障害が生じる。さら
に、遊離の銅イオンが血中に放出されるため、脳や角膜にも銅が蓄積し、角膜のカイザー・フライシ
ャー輪、神経障害、精神障害、関節障害等が生じる。
2 指標設定の基本的な考え方
我が国においては、銅必要量を検討した研究がないため、欧米人を対象に行われた研究に基づき、
銅の平衡維持量と血漿・血清銅濃度を銅の栄養状態の指標として推定平均必要量を設定した。
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