「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (464 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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NUTRITION IN CKD: 2020 UPDATE においても、ステージ G3 以降で、たんぱく質摂取量の制限が推
奨されている 21)。41)一方で、腎機能低下が進行して末期腎不全に至るリスクが低い症例も存在するこ
と 46)、さらに、CKD に伴う代謝異常も軽微のこともあることから、ステージ G3a では一律にたんぱ
く質制限を行うのではなく、個々の病態に応じて設定する必要があると考えられる。
たんぱく質制限のアドヒアランスについては、長期に維持することが困難な場合が多い。無作為化
比較試験のメタ・アナリシスでも、たんぱく質制限下での実際の摂取量は、指示量と比較して 0.10~
0.30 g/kg 体重/日ほど多いことが示されている 35)。また、前述のフランスの観察研究でも、たんぱく
質摂取量 1.0 g/kg 体重/日を基準とすると、1.3 g/kg 体重/日以上のアドヒアランス不良の症例の頻度は
20%と高率であった 45)。一方、たんぱく質制限のアドヒアランスが良い群では血中の尿毒素が少ない
こと 47)、管理栄養士による頻回の栄養指導はたんぱく質制限のアドヒアランスを向上させること 48)、
そしてたんぱく質制限のアドヒアランスが良いと 3 年後の腎機能の改善が見られるという報告もあ
る 49)。以上より、たんぱく質制限のアドヒアランスの維持が、CKD の進行予防に重要であると考え
られる。
2-3-3 高齢軽症 CKD に対するたんぱく質制限:CKD におけるサルコペニア・フレイルも含めて
米国のステージ G3~G5 の約 20 万人の症例における、平均観察期間 3.2 年のコホート研究におい
て、全ての年齢層において観察開始時の eGFR は、その後の総死亡と末期腎不全と負の関係があった
が、高齢者の予後は若年者のそれと比較して、死亡のリスクが高く、一方で末期腎不全のリスクが低
かった。特に、85 歳以上では常に死亡リスクの方が末期腎不全のリスクよりも高かった 50)。我が国で
も、461 人のステージ G3~G5 の症例における平均観察期間 3.2 年のコホート研究で、尿蛋白の有無
は末期腎不全のリスクに関与するが、年齢は死亡の決定的な因子で、65 歳以上で尿蛋白のないステー
ジ G3 の症例においては末期腎不全の発症はなかった 51)。以上より、eGFR や尿蛋白の程度によって
違いはあるが、高齢者では末期腎不全よりも死亡のリスクの方が高いと考えられる。たんぱく質制限
は、腎機能低下の抑制と末期腎不全のリスク低減を目的にしていることから、生命予後を考慮すると、
高齢軽症 CKD におけるたんぱく質摂取量の目標値を一律に示すことは適切ではない。
一方で、我が国では高齢者の増加に伴い、低栄養にも関連してサルコペニアやフレイルが社会的な
問題となってきている。CKD においては、高齢化や低栄養の問題だけでなく、その病態に伴う尿毒症
性物質の蓄積や慢性炎症、代謝性アシドーシスなどにより、サルコペニア、フレイルを惹起しやすい
可能性が指摘されており注意が必要である。そのような中で、「サルコペニア・フレイルを合併した
保存期 CKD の食事療法の提言」が発表された 7)。サルコペニアやフレイルの発症には多くの要因が
関与するが、たんぱく質摂取量の不足も重要な因子の 1 つであることから、同提言では CKD 患者に
おけるたんぱく質制限を中心に記載がなされている。そして、サルコペニア・フレイルを合併した軽
症 CKD、すなわちステージ G1~G2 の症例において、サルコペニア・フレイルの対応を優先する場合
には過剰な摂取は避けつつも、
その上限の目安が 1.5 g/kg 標準体重/日まで引き上げられている。
なお、
ステージ G3~G5 の症例の中には、たんぱく質制限を優先する CKD 患者と緩和する CKD 患者がお
り、その評価に関して、GFR と尿蛋白量だけではなく、腎機能低下速度や末期腎不全の絶対リスク、
死亡リスクやサルコペニアの程度などから総合的に判断する必要があると述べられている。具体的に
は、尿蛋白量が 0.5 g/日未満、腎機能低下速度が−3.0(あるいは−5.0)mL/min/1.73 m2/年未満、末期腎
不全の絶対リスクが 5%未満で、サルコペニア・フレイルの治療を優先すべきと考えられた症例にお
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