「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (475 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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カルシウムは骨ミネラルの最も重要な構成要素であり、コラーゲンを主成分とする骨たんぱく基質
にリン酸カルシウムとして沈着し、骨を形成する。カルシウムの不足は副甲状腺ホルモンの分泌増加
を招き、骨吸収を亢進させ、骨密度を低下させる。
疫学研究のメタ・アナリシスでは、カルシウム摂取量と骨量、骨密度との間には有意な関連が認め
られており 12,13)、骨量の維持には十分なカルシウム摂取が必要である。食事摂取基準においては、骨
量を維持するために必要な量として、カルシウムの推定平均必要量及び推奨量が設定されている。
カルシウムの付加による骨密度の増加については、乳製品を用いた介入やカルシウム強化食品を用
いた介入が行われている。閉経女性における乳製品(主に牛乳)を用いた 6 つの無作為化比較試験の
メタ・アナリシスでは、腰椎及び大腿骨近位部骨密度増加の効果がみられている 14)。さらに、サブ解
析では介入前の食事由来のカルシウム摂取量が低い国における研究で、その効果がより顕著であった。
一方で、50 歳以上を対象とした 15 の無作為化比較試験をまとめたメタ・アナリシスでは、250~3,320
mg/日の補給で、1 年の介入では大腿骨近位部及び全身の骨密度が 0.6~1.0%、2~5 年の介入で大腿骨
近位部及び全身に加えて、腰椎、大腿骨頸部の骨密度が 0.6~1.8%、対照群よりも高かったと報告し
ている 15))。しかしながら、特に閉経後の女性においては、平均的に 1 年で約 1%の骨密度の低下がみ
られることから、数年で 1~2%の抑制は、骨密度の低下を抑えるほどの効果にはならないとしている。
食事による介入に加えて、サプリメントによるカルシウム補給の骨密度上昇効果を検討した研究も
多く存在するが、効果は有効でもわずかなものが多く 15–18)、上述の食事によるカルシウム摂取量の増
加の介入効果と比較しても、大きな差があるとはいえない。
骨量の維持によって骨折の予防が期待されるが 19)、実際に骨折をアウトカムとした研究については
その結果にばらつきが見られる。我が国において、40~69 歳の男女約 3 万人を対象としたコホート研
究では、女性において食事由来のカルシウム摂取量と、10 年間の追跡期間中の骨折発生との間に負の
関連を認めている 20)。40~74 歳の日本人男女約 1 万 3 千人を 5 年間追跡した別のコホート研究でも、
女性において主要骨粗鬆症性骨折との関連に同様の結果が得られている 21)。中国のコホート研究で
は、中高年男性でも、カルシウム摂取量と約 9.5 年間の追跡期間中の脆弱性骨折に関連が認められて
いる 22)。一方で、国内外のコホート研究のレビューでは、カルシウム摂取量と骨折の発生率の間に意
味のある関連は認められなかった 23,24)。
また、主に中高年を対象としたカルシウム摂取量の付加と骨折に関する介入研究のメタ・アナリシ
スでは、おおむね臨床的な意味を認めていない 24–27)。特に食事による介入は限られており、十分な知
見がない 24)。サプリメントによるカルシウム補給の研究については、主に中高年を対象として無作為
化比較試験が多く行われているものの、メタ・アナリシスにおいて有意な骨折抑制効果を認めていな
い 27)。
以上を踏まえると、十分なカルシウム摂取量は骨量の維持に必要であり、カルシウム摂取量が少な
いことは低骨量のリスク因子になるといえるが、中高年においてカルシウム摂取量を増やしても、骨
密度の低下や骨折を予防する効果は小さいと考えられる。また、主にサプリメントを用いた介入研究
は多いが、特に 1,000 mg/日以上のカルシウムサプリメントを用いた場合に心筋梗塞のリスク上昇が
報告されている 28–30)。これに否定的な見解 31,32)もあるものの、特に 1,000 mg/日以上のカルシウムサ
プリメントの使用には慎重になるべきであろう。
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