「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (319 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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1 基本的事項
1-1 定義と分類
マンガン(manganese)は原子番号 25、元素記号 Mn のマンガン族元素の 1 つである。
1-2 機能 111)
マンガンは、成人の体内に 10~20 mg 存在し、その 25%は骨に、残りは生体内にほぼ一様に分布し
ている。マンガンは、アルギナーゼ、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)、ピルビン
酸脱炭酸酵素、ガラクトシルトランスフェラーゼ等の構成成分である。実験動物にマンガン欠乏食を
長期間投与した場合、骨の異常、成長障害、妊娠障害等が生じるが、致命的な障害を観察することは
難しい。実験的に MnSOD を欠損させたマウスが生後 5~21 日で死亡することから、マンガンは高等
動物に必須の栄養素と認識できる。
1-3 消化、吸収、代謝
経口摂取されたマンガンは胃で可溶化され、2 価イオンの状態で DMT1、ZIP8、ZIP14 等の担体を
介して小腸上皮細胞に吸収される 112,113)。消化管からの見かけの吸収率は 1~5%とされる 111)。マンガ
ンは、鉄の輸送担体である DMT1 を利用しても吸収されるため、その吸収量は鉄の栄養状態の影響を
受け、鉄欠乏下では増加する。吸収されたマンガンは門脈を経て速やかに肝臓に運ばれ、胆汁を介し
て糞便に排泄される 111)。マンガン輸送担体の中で、ZIP8 は胆管において胆汁中のマンガンの再吸収
にも関わっている 113)。ヒトでの食事性マンガン欠乏は全世界的に報告がないが、ZIP8 に変異がある
と、胆汁を介したマンガン排泄量が増大して体内のマンガン量が激減するため、頭蓋非対称、痙攣、
小人症等、マンガン欠乏に伴うガラクトシルトランスフェラーゼ活性の低下がもたらす先天性障害が
発生することが報告されている 114)。
2 指標設定の基本的な考え方
マンガンを対象とした出納試験が国内外で試みられている 115,116)が、マンガンは吸収率が低く、大
半が糞便中に排泄されることから、出納試験から平衡維持量を求めるのは困難である。また、成人男
性 7 名に 0.11 mg/日の低マンガン食を 39 日間摂取させた試験では、5 名に水晶様汗疹が発生し、1.53
mg/日のマンガンを含む試験食の投与でこの汗疹は消失したとの報告がある 117)。しかし、汗疹とマン
ガン摂取量との関連は不明である。
以上より、現状においてはマンガンの必要量を推定できないと判断し、マンガンの必要量を上回る
と考えられる日本人のマンガン摂取量に基づき目安量を算定することとした。
一方、
マンガンは、完全静脈栄養施行患者において補給を必要とする栄養素の 1 つとされているが、
投与法を誤ると中毒が発生する 118)。完全静脈栄養によって 2.2 mg/日のマンガンを 23 か月間投与さ
れた症例では、血中マンガン濃度の有意な上昇とマンガンの脳蓄積が生じ、パーキンソン病様の症状
が現れている 119)。この症例のマンガン曝露は食事由来ではないが、マンガンの過剰摂取による健康
障害は無視できないことから、耐容上限量を設定する必要があると判断した。
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