「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (400 ページ)
出典
公開元URL | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html |
出典情報 | 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(10/11)《厚生労働省》 |
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加齢に伴う生理的、社会的及び経済的問題は、高齢者の栄養状態に影響を与える。表1に高齢者の
代表的な低栄養の要因を挙げた 31,32)。
表1 高齢者の様々な低栄養の要因 31)
1.
社会的要因
独居
介護力不足・ネグレクト
孤独感
貧困
2.
精神的心理的要因
認知機能障害
うつ
誤嚥・窒息の恐怖
3.
加齢の関与
嗅覚、味覚障害
食欲低下
4.
疾病要因
臓器不全
炎症・悪性腫瘍
疼痛
義歯など口腔内の問題
薬物副作用
咀嚼・嚥下障害
日常生活動作障害
消化管の問題(下痢・便秘)
5.
その他
不適切な食形態の問題
栄養に関する誤認識
医療者の誤った指導
過栄養は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドローム、脂肪性肝疾患、動脈
硬化性疾患などを引き起こすことや病態の悪化につながる。しかし、過栄養の生命予後への負の影響
の度合いが、高齢者(特に後期高齢者)とその他の年代で、全く同等なのかについては議論がある。
高齢者では内臓脂肪が蓄積しやすく、メタボリックシンドロームの有症率が高いことは知られている
が、一方で、心血管病が関わる生命予後については、メタボリックシンドロームを有することの影響
が少ないとされる 33)。さらに、血清総コレステロール値や肥満の生命予後に与える影響は、加齢とと
もに減じることも知られている 34,35)。高齢者の一部に、過体重者や肥満者の方が転帰良好な obesity
paradox という現象が観察されることがあり 36)、こうした現象は生存効果や併存疾患の違いによると
考えられている 30)。
この点からも、BMI 値による画一的な評価と介入は、高齢者には馴染まないが、エネルギー収支バ
ランスの指標としての BMI の目標範囲は、高齢者では 21.5~24.9 kg/m2 と設定されており(『Ⅱ 各
論、1 エネルギー・栄養素、1-1 エネルギー、3 体重管理』の 3-2-4 目標とする BMI の範囲を参照)、
体重や BMI の増減にも注意しながら、個別に栄養状態を検討することが望ましい。
1-3-3 フレイル
フレイルは、老化に伴う生理的予備能の低下を基盤とし、様々な健康障害に対する脆弱性が増加し
ている状態、すなわち、健康障害に陥りやすい状態である 37)。健康障害の中には、生命予後に加え、
ADL 低下、要介護状態、入院などが含まれ 38,39)、フレイルと健康障害の関連について明らかにされつ
つある 40–42)。加齢(年を重ねること)は一律だが、老化(機能の減衰)には個人差がある 43)。高齢の
成人は、健康状態を含め多様であり、暦年齢だけではその状態を理解することはできない。フレイル
は、英語では frailty と表記され、この症候の定義に関する世界的なコンセンサスは確立していないも
のの、整理されつつある 44)。フレイルを、自立(physically independent)と要介護状態(dependent)の
中間に位置する状態とする考え方と、ハイリスク状態から重度障害の状態までも含めた考え方がある
45,46)。フレイルには可逆的な要素が含まれており、我が国では高齢者の健康寿命の延伸を目指す立場
から、前者の考え方を重視している。
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